ハロウィンの日にお菓子をもらいにきたシュポガキに手のひらで踊らされて忘れられない思い出をつくられる話です。

※pixivにあげたものの転載です。

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第1話

「「トリックオアトリート!」」

 

いきなり部屋のドアが開かれる。私は思わずドアの方を向いた。そこには魔女の仮装をした背丈の小さい2人の髪の長い人が立っていた。

急なこともあり、声もよく聞き取れていなかったため一瞬誰だかわからなかったが、片方が勝利のポーズをしている。てことは、ヒカリとノゾミの2人であろう。

 

「あぁ、なんだ、ヒカリとノゾミね」

 

「むぅ〜…反応悪いー」

 

「私たちが来たんだから、もっと歓迎してくれてもよくない?」

 

二人は不満そうな顔をする。私は咄嗟に否定する。

 

「いやいや、いつもの秒間16連打ないから急に2人が来て驚いただけだよ。入場からの勝利のポーズがなかったら誰かわからなかったよ」

 

「なにそれ?私たちの仮装が似合ってないってこと?」

 

今度はノゾミが不満を口に漏らす。これも私は咄嗟に否定する。

 

「いやいや、そういうわけじゃなくて、2人がいつもより可愛く思えて、いやいつも可愛いんだけど今日は特別可愛いと言うか大人びていると言うか…」

 

私は何を言っているのだろうか。余計なことまで口走ってしまい心の中で少し後悔した。

 

「うぉー、先生言うねー」

 

「ふーん、ま、そういうことだったら許してあげることもないけど」

 

ヒカリはふんふんと嬉しそうにしている一方で、ノゾミは満更でもなさそうに肩にかかっている髪をいじっている。2人の反応を見るに悪い感触はなく、安堵する。それにしてもこの2人は似ているようで似ていない。2人の反応の違いに思わず笑みが溢れてしまう。

 

「で、なんで2人は来たんだ?」

 

「今日はハロウィンだからにきまってるでしょ?」

 

「え?もうそんな時期だっけ?」

 

確かにカレンダー見るともう10月が終わる日付である。ならば2人が魔女みたいな仮装をしているのも納得だ。

 

「だからー、お菓子ちょうだいー。それともイタズラにするー?」

 

「じゃあイタズラで。お菓子用意するの忘れちゃったし」

 

「「ええー!?」」

 

2人は驚き…いや、不満…かどうかわからない叫びをした。

 

「先生なのに、お菓子も出してくれないわけ?」

 

「横暴横暴ー」

 

「って言われてもな〜…あったかなぁ…」

 

私は2人の抗議を受け、今一度部屋の内部を見渡してみる。が、もちろんある気配はしない。最近はお菓子を食べていないので、部屋に常備しているわけないのだが…

 

「もしかして本当にないの?」

 

「これはイタズラー?」

 

しばらく経って2人は私に詰めてくる。ヒカリはこの状況を楽しんでいるので問題はなさそうだが、ノゾミは落ち込んでいそうな感じである。その姿がいたたまれなく、必死に考えを巡らせる…そう言えばついこないだ非常食の代わりになるかと思い色んな種類のお菓子を買ってたのを思い出した。

 

「あははっ、ごめんごめん。きちんとお菓子を用意してるよ。時間なくて手作りとかじゃないけど許してね」

 

私はなるべく今思いついたであろうことを察せられないように取り繕いながら、そのお菓子の入った缶を机の引き出しから取り出した。

 

「おぉー、たくさんあるー」

 

「ふ〜ん、まぁやるじゃない」

 

2人は缶の中を覗きながら思い思い口を開く。

 

「このお菓子を所望するー」

 

「いいよー、沢山持ってて〜」

 

2人は手にいっぱいのお菓子を取っていた。しかし、2人ともそのお菓子をもったまま、私を見てきた。

 

「…?えっーと…」

 

「もしかして私達が手ぶらで来たと思ってるー?」

 

「ハロウィンなんだから、先生も言うことあるでしょ?」

 

「あぁー!そうだね。じゃ、トリックオアトリート」

 

そう言うと2人は待ってましたとばかりに手に持っていた小さなカゴの中からお菓子を取り出した。

 

「すごいねこれ…手作り?」

 

渡されたものはアイスボックスクッキー。つまり、相当手を込んで準備していたことになる。そう思うと準備していない私は申し訳なくなった。

 

「そうだよ、作るの大変だったんだからね!」

 

「そうそうー、ノゾミが先生に渡すものは」

すると突然ノゾミはヒカリの口を塞いだ。

 

「あーーー、なんでもないから!!」

 

しばらくしてヒカリは「言わないから解放して」というようなジェスチャーをして自由を得た。

 

「むぅ…」

 

口が空いたヒカリは不満そうな顔を思い浮かべたが、しばらくして今度は急に悪い顔になった。

 

「先生、私の今の格好なんだか分かるー?」

 

「なにって…そりゃ魔女だよね?」

 

「そうそうー、だから私、今日だけ予知能力があるのー」

 

「ちょっと…ヒカリ、それは…」

 

ノゾミはまたヒカリを止めようとしたが、2度目はなかったのか今度はノゾミの口塞がれた。

 

「予知能力?」

 

魔女と言えばどちらかというと魔法なのではないかという細かいツッコミはあるものの、どうせいつものイタズラなんだろう。とは言え、お菓子もくれたし無下にするのもヒカリに悪い。ここは一つ乗ろうと、私はヒカリの物語に合わせようと思った。

 

「そうそうー、先生の未来がなんと見えまーす」

 

「じゃあ、15秒後何が起こるかとかも分かるのか?」

 

ヒカリはニヤッと笑う。

 

「えーっとねー、15秒後には先生のスマホが鳴るんだよー」

 

私は興味を持ったため10秒ほど待ったら、確かにスマホが鳴った。と言っても、一瞬視線をスマホに移せばハイランダーの事務官の子からのモモトークだった。多分その子にイタズラを手伝うように言ったのであろう。まぁ、ヒカリがそこまで仕込んでくれたのだ、私はその出来事を僥倖のように受け取る。

 

「おぉ、ほんとだ…すごいね!」

 

「でしょー!でも、これだけじゃないよー?」

 

「これだけじゃない…?」

 

私は次はどんな仕込みがあるのか気になり、耳を傾ける。

 

「先生の2分…いやこの調子だと5分かな…そのくらい後の未来、教えるねー」

 

2分から5分に時間が変わったので、今度は仕込みではなさそうな予知に多少の不安はあったが、今度も全力で引っかかるとしよう。

 

「…どんな未来?」

 

「先生に忘れられない思い出が出来まーす」

 

「忘れられない思い出」という言葉に一瞬ドキッとしたが、どうせからかっているだけであろう…という気持ちもある。しかし、ヒカリの企んでいる表情も伺え、自然と期待が膨らんでしまう私がいた。

 

「それは楽しみだな。どんな思い出なんだろうな」

 

その言葉を聞いたヒカリは満足そうな顔をし、急にノゾミの口を自由にさせた。

 

「じゃあ、あとは2人で楽しんでねー!」

 

「へ??」

 

その言葉を発する前にヒカリはノゾミを私の前に突き出して部屋から出ていった。私はノゾミと2人きりになった。逃げ足が早すぎる…

 

「えーっと…あはは」

 

ノゾミは私を見上げながら愛想笑いをする。私は少し考えてみたが、これは裏で2人が何か相談していたのだろう、ここは無闇に動かず流れに乗るのが無難そうだ。

 

 

と思っていたが…

 

「…ノゾミ…なんか、言いたいことでもあるのか…?」

 

次に音が出たのは私の口からだった。3分くらい経った頃だ。

 

「いや、言いたいというか…あーもう、ヒカリのやつ……ぇ〜っと…頑張れ、頑張れ私…」

 

ノゾミは一つため息を吐いたのち、私を見上げた。しばらく経って段々とその視線がどこか思わせぶりな色が混ざったものになった。見つめられるうちに、私はだんだんと居心地が悪くなっていく。私の心臓が早鐘を打っているのが分かるほどに。

 

「…ノゾミ?」

 

と声をかけるが、ノゾミは無言で微笑みを浮かべながら私に一歩、一歩とジリジリ近づいてきた。

 

「先生の忘れられない思い出になれば嬉しいな」

 

ノゾミは私の目の前に来て立ち止まるとそう呟き、そしてそっと私の肩に触れた。夕日を浴びている彼女の表情は思いっきり眩しかった。

 

「…先生、好き…だよ。」

 

その言葉とともに、ノゾミはふいに背伸びをして、私の唇に軽く触れるようなキスをした。ふわりとした柔らかな感触が残る。私は驚いて目を見開いたまま、どう反応していいのか分からず、ただその場に立ち尽くしてしまう。

 

「…先生……いや…だった?」

 

しばらくして唇が離れた時、ノゾミは不安そうに私に問いかけてきた。今の私の顔はすごい険しくなっているのであろう。

 

「いや、そんなことは…というかこれ」

 

「どこまで本気なのか」と問いかける前にノゾミは顔を真っ赤にして部屋をものすごい勢いで出ていってしまった。逃げ足の速さだけは2人とも似ているな…

 

「これで私の予知能力、信じてくれたー?」

 

と、ドア口からひょっこり悪い顔をして覗いてきたヒカリが冗談めかした調子で問いかけてきた。頭の処理が追いつかずただ茫然と立ちすくむしかない私の様子を見て、ヒカリはくすくすと笑っている。

 

「当たってたけど…私はどうすれば…」

 

「先生のいけずー」

 

あまりの突然の出来事に思わず聞いてしまったが、確かにこの発言は愚問であった。

 

「とりあえず一件落着ー。じゃ、先生またねー」

 

私はヒカリの後ろ姿を見送ることしかできなかった。2人の手の上で踊らされたという事実に情けなさを感じる以前に、ただただどういうことかを考えてしばらく頭を抱えていた。しかし、私は自分の胸に宿った「忘れられない思い出」が、これからもずっと消えることはないということは確信したのであった。

 


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