眠ることを知らない街、新宿。日本有数の歓楽街である歌舞伎町、都庁がそびえ立つオフィス街の西新宿などを抱える大都市である。これは、その新宿の外れ、中心街とはまた違った趣のある昔ながらの閑静な住宅街と商店街を持つ街、北新宿4丁目。その街に住む二人の男女と、二体の式神が織りなす、少し不思議な日常の物語。

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第1話

歌舞伎町04:45 AM

 

「またこれか…」

彼の名前は一条誠(イチジョウ マコト)、25歳という若さで警部補にまで上り詰めたいわゆるエリートなのだが、そのことを笠に着ない好青年として組織の中でも有名な男でもある。そんな彼の目の前には、170㎝ほどのブルーシートに包まれたもの、彼が警官でありなおかつ規制線とその外側の喧騒、彼以外にも多くの警察関係者がいることから容易に想像できるものが横たわっていた。

誠「被害者の身元は?」

誠は隣にいた後輩に声をかけた。

「名前は五十鈴天十郎(イスズ テンジュウロウ)25歳、幻夢という名で近くのホストに勤務していたようです。」

誠「そうか…」

「それにしても、これで20人ですか…一体、どうやったら」

誠「目的と方法は後で調べるとして、やはり今回も彼らに頼るしかないのか…」

ここ半年で、死人の有無に関わらずこのような人間の所業では不可能と思われる犯罪事件が新宿を中心に急増しており、世間では不可能犯罪と呼ばれていた。それと同時期に、それらの不可能犯罪事件を専門に調査している民間組織も台頭し、警察との協力関係を築いている。

「北四調査局ですか、なんで北四なんです?」

誠「彼らの所在地が北新宿4丁目だからだ」

「…」

 

 

 北新宿4丁目 11:50 AM

 

 閑静な住宅街と青果市場がシンボルの街、北新宿4丁目。新宿区内でありながら喧騒とは真逆の様相を呈する街の一角にあるカフェで、二人の男女が言い争いをしていた。

???「で、私との約束を反故にしてどこに行こうとしてたの?」

鴉の濡羽色とも呼ばれる艶やかな黒髪を腰の辺りまで伸ばした少女が、爬虫類のように縦長の瞳孔と左の瞳の色素が薄くなっている両目を緑髪の青年に近付け、いかにも怒っていますという雰囲気を出している。

???「仕方ないだろ…一条さんから依頼が来たんだから。というかこれ本来彩姫の実家の仕事だよね?」

青年に彩姫と呼ばれた少女、綾地彩姫(アヤチ サキ)はその言葉に頬を膨らませて拗ねてしまう。

彩姫「だって、今日こそ黎人とあの都市伝説の調査をするって言ったのに」

完全に拗ねてしまった彩姫を、緑髪の青年、柏木黎人(カシワギ レイト)が同じく左の瞳の色素が薄くなっている目を泳がせながらなんとか彼女の機嫌を取ろうと模索していると。

誠「柏木君、綾地さん、迎えに来た」

彩姫「あ、どうもこんにちは」

黎人「思ったより早かったですね」

誠「急を要する事でな、詳しいことは署で」

 

 

 新宿警察署、会議室 0:15PM

 

 黎人「これが、今回の?」

誠「ええ、今月に入って新宿全域で20人、被害者は全員体内の水分の60%以上を抜かれています」

彩姫「体内の水分?」

誠「ええ、赤血球や血漿等の血液だけでなく、リンパ液や組織液といった細胞外液、細胞を満たす細胞内液、果ては尿まで、体内のありとあらゆる水分が消失していた。」

誠が見せた20枚の検死写真には、まるでミイラの様に乾燥した男女の遺体が写っていた。

黎人「捕食か殺害か、目的はともかく今回の不可能犯はどんな能力なんだ?」

彩姫「前回の連続誘拐事件ではイヌワシ、その前の同時多発強盗殺人では…ご、ゴキブリの群れだったわね…」

黎人「共食いしあって一個体に強化したときはマジで吐きそうになったよな…」

誠「あれは正直思い出したくないな、まあ、今回は吸血、もとい体液の吸収だ、そのような生態の生物となると…タガメ等の水生昆虫はどうだ?」

彩姫「あれは獲物の体内を溶かしているから違うと思うわ」

黎人「完全に手詰まりか、」

誠「今日はここまでにしよう、何かわかったことがあれば連絡する」

黎人「分かりました、こちらでも独自に調査してみます」

2人は会議室を後にした。

 

 

北新宿4丁目、中華料理「味楽」 PM2:30

 

依頼を受け、戻って来た2人は、少し遅めの昼食をとっていた。

???「…グス…グス…(´;ω;`)」

???「あんまり気を落とすなよ、幸いいくつかは生き残ったし、やられたのも早い段階で対処できたんだ」

???「でも…」

いや、もう二人?、二体ほど隣に座る、というよりサイズが小さすぎてテーブルに座っていた。

彩姫「イナリちゃんどうしたの?ずっと泣いてるけど」

???「彩姫の姉御、それは、」

店に入ってからずっと泣いていた狐の化けもn…式神のイナリに代わって傘を被った狸の式神、ギョウブが話し始める。

ギョウブ「それが、イナリが育ててたトマトがアブラムシにやられちまってな、幸い、早い段階で対処できたんだが、」

イナリ「半分以上が全滅しちゃって…」

彩姫「でも半分は残ったんだから、まだ大丈夫よ」

黎人「そういや、アブラムシって…植物の水分とか養分吸うよな?」

ギョウブ「何当たり前なこと言ってんだ?お前仮にも青果市場のバイトだろ」

黎人「いや、今回の被害者も同じように水分という水分が抜かれててな。」

彩姫「そういえば、さっき一条さんから連絡来てたけど、被害者の所持品からメーカーにはばらつきがあれど全員チュベローズの香水が見つかったって」

黎人「…いっちょやってみるか」

 

 

北新宿4丁目、北柏木公園 AM1:23

 

???「キキキ…今夜はこいつにするか」

深夜に呟く異形の怪物、まあ言うまでもなく今回の事件の犯人である。名前は…アフィドでいいか。

 アフィドの目の前には、長い黒髪の女性がベンチに背を向けて座っている。彼は、鼻をくすぐるチュベローズの香りで半ば興奮状態だった。もちろん性欲ではない、食欲だ。だが、その食欲が満たされることは無いだろう、なぜなら。

黎人「やっとおでましか、アブラムシ野郎」

アフィド「ゴハッ…」

その言葉とともに、蹴り飛ばされたアフィドが顔を上げる。視界に入るのは、一見ただの青年にしか見えない男だ。この自分を蹴り飛ばせるだけの力が一体どこに?そんな疑問をよそに今度は少女が立ち上がる。

彩姫「もう、あんま無茶しないでよ」

黎人「いや蹴り飛ばしたほうがいいかなって、ほら、いくら囮だからって彩姫に怖い思いさせるわけにはいかないだろ」

彩姫「もう///なら刀使えばいいじゃない」

その少女もアフィドには目もむけず男の心配をしている。こいつらはなんなんだ?という疑問が彼の中に渦巻く。あとこの二人は腹立たしいことにここまできてまだ付き合っていない。

 アフィド「お前ら何者だ⁉」

腹立たしげに叫ぶアフィド。無理もないだろう、食欲をそそる香りをまき散らす少女を目の前に、それを食らうことは阻まれ、挙句の果てには見向きもされないのだ。

黎人「俺たちは北四調査局だ、名前ぐらいは聞いたことあるんじゃないか?」

アフィド「北四調査局…最近同族を殺しまわっている人間の話は聞いたことがあったが、まさかこんなガキどもだったとはな」

彩姫「認めるのね?」

アフィド「認めるかって?言うまでもねえだろ」

彩姫の質問にアフィドは嘲笑で答える。もう話し合いの段階はとうの昔に終わっている。ここから先は命のやり取りでしかないのだ。

 アフィドが鉤爪を構えると同時に黎人もどこからか紫の罅のような紋様が入った刀、紫烏(シバガラス)を取り出す。片や彩姫は、持ち手が紅く染まったお祓い棒を天に掲げる。

黎人「行くぜ、ギョウブ」

ギョウブ「よっしゃぁ‼化かし合いは任せな!」

その言葉とともにギョウブが柴烏に宿り、刀身全体が淡く紫に光りだす。

彩姫「イナリちゃん、行くよ!」

イナリ「うん、任せて!」

お祓い棒にイナリが宿る。それとともにお祓い棒が紅く光り輝く、そして

彩姫「赤色妖狐結界(セキショクヨウコケッカイ)!」

彩姫が叫ぶと、狐の鳴き声とともに公園内を赤色のドームが覆う。

アフィド「な、なんだ⁉」

黎人「近所迷惑になるからな、防音は必須だろ?」

アフィド「ほざけ!貴様ら全員俺の晩飯だ!」

黎人「自信満々で悪いが、害虫駆除の時間だ」

切っ先と鉤爪、それぞれの武器を相手に向け、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

新宿警察署、会議室 PM1:36

 

黎人「で、なんやかんやあってどうにかアブラムシ男、アフィドを斃すことがました。」

翌日、事件の事後報告に来た二人は、会議室で誠に事のあらましを報告していた。

誠「そうか、今回もありがとうございました。まさか今回はアブラムシだったとは…どうやって真相を?」

彩姫「ほとんど賭けみたいなものでした。被害者の所持品からチュベローズの香水が見つかったこと、植物と動物、獲物の違いはあれど体の水分を吸い取る性質、そこからはもう勘ですね。」

誠「そうか、だが、チュベローズの香りが奴の食欲を刺激したとなると、今後も似たような事件が起きる可能性は?」

黎人「今回は偶然チュベローズに反応するやつでしたが、次回も同じ事例が起きるとは限りません。そもそもあいつは香りで興奮状態にならなくともいずれ何人もの人間を手にかけてたでしょう。」

誠「人間を捕食する個体も現れたとなると、一般人への注意喚起を益々呼びかけなければならないな。」

黎人「まあ、その辺は警察の方々に任せます。俺たちはこの辺で」

誠「ああ、今回も協力感謝する。報酬は後日に、それとギョウブ君とイナリ君にも礼を言っていたと伝えてくれ」

彩姫「分かりました、伝えておきます。」

二人は一礼をして会議室を後にした。会議室の扉が閉まるまで、誠は敬礼を崩すことは無かった。

                                                

                                      終

 




キャラプロフィール

柏木黎人
北新宿4丁目で一人暮らしをしている大学生。休日は青果市場でバイトしつつ、北四調査局という調査機関のうんえいもしている。式神を操る家の末裔だが、分家であり、またその能力が使えるのは現状一族で彼のみであるため、本家には目の敵にされ、実家とも折り合いが悪いため現在疎遠である。柏木公園の狸の彫像から発生した付喪神にギョウブという名を与えて自身の式神とした。ちなみに柏木公園と彼の苗字が同じなのはただの偶然である。
幼少期に亡くなった祖父から受け継いだ刀である柴烏(シバガラス)を武器に不可能犯罪に立ち向かっていく。

綾地彩姫
黎人の幼馴染。彼と同じ大学に通う普通の女の子。彼と同じく式神を操れるが彼女自身は一般的な家庭であり、能力自体は偶然発現したもので黎人曰くレアケースらしい。市場の横にある稲荷神社で偶然出会った妖狐を、黎人の協力でイナリという名を与えて自身の式神とした。現在は北四調査局に入り、彼にプレゼントされたお祓い棒を武器に不可能犯罪に立ち向かっていく。

一条誠
新宿警察署の刑事であり、階級は警部補。不可能犯罪事件が頻発するようになった頃からそれらの担当になることが多くなっており、実質不可能犯罪専門の刑事と陰で呼ばれているらしい。黎人と彩姫は仕事柄協力を仰ぐことが多く、彼らの大口顧客状態である。

ギョウブ
黎人の式神。見た目はケモ度2~3の少女のような狸の獣人であり、大きさはねんどろいど程。紫の着物を着て常に編み笠を被っている。元々は柏木公園の狸の彫像に取り憑いていた付喪神であり、黎人が公園で食べていた某緑色の狸そばに釣られて式神となった。よく彩姫に着せ替え人形にされている。オスである。

イナリ
彩姫の式神。見た目はケモ度2~3の少女のような狐の獣人であり、大きさはねんどろいど程。白い巫女服に赤い袴を着ている。一応お狐様に分類される妖狐、神の使い的な存在ではあるがまだ未熟らしい、本人曰くポテンシャルはあるという。市場稲荷神社の祠の前で寝ていたのを彩姫に見つかり、式神になった。なお市場稲荷で寝ていたのは偶然でありそこの担当は別にいるという。メスである。

アフィド
アブラムシの化け物、チュベローズの香りで食欲を催す。普段は人間に擬態しているが夜な夜な人間を襲って人間の水分という水分を吸い取っていた。遺体処理を怠ったため割とすぐに露呈、調査団により斃された。つまりまだ露呈していない事件も多々あるため一条誠はしばらくデスマーチ確定である。

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