「お前たちには明日から本格的にゲッターロボの訓練を行う!」
エリシオン第3ニケ研究所から帰ってきた面々に早々早乙女博士は告げた。
「お前たちの腕は確かだ。だが同調率が低すぎる」
先程の戦いは勝利こそしたものの、危ない場面がやや見受けられ、早急な対策が必要だと早乙女博士は判断した。だいたい戦闘中に喧嘩など、愚かにも程がある。
「明日は何もないからいいけど、隊長の許可は取ってんのか?」
「後で取る」
「あたしらはあんたの部隊じゃねぇんだけどな。というか早く休ませてくんない」
いつも通りの早乙女博士にレッドフードがつっこみを入れる。彼女たちはゲットマシンを格納した後にモニタールームに呼ばれていた。既に日が沈んでいるため、一刻も早く休みたかったのだ。
「そういえば指揮官の姿が見当たりませんが、どこにいらっしゃいますか?」
「指揮官殿は今リリーバイスの看病をしている。何でも急に倒れたそうだ」
早乙女博士の言葉に一同が驚き、レッドフードがつっかかる。
「それを早く教えろよ!何で後回しにしやがった?」
「倒れたのがお前たちが到着するほんの少し前だ。今は勝利の翼号で休んでおる」
早乙女博士の言葉を聞き終わると、レッドフードとラプンツェルはすぐにリリスの元へ向かった。しかし、後を追おうとした紅蓮は博士に引き止められ、怪訝な表情を浮かべる。
「紅蓮、どうやら吹っ切れたようだな」
「何の話だ?」
「ゴッデスに所属するのだろう?」
早乙女博士に図星を突かれ、紅蓮はほんの少し驚いた表情を見せた。それを気にも留めず、博士は話を続ける。
「雰囲気で分かる。覚悟が決まってくれたようで、こちらも何よりだ」
「貴方にすら察知されてしまうとは、私も修行不足だな。では私はリリーバイスの元へ向かう」
会話を切り上げ、紅蓮は2人が去った方向に足早に進む。こんなくだらない会話にかける時間がもったいなかった。そのまま歩き去っていく紅蓮を早乙女博士は静かに見つめるのだった。
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「ドロシー!リリスの容態はどうなっていますか?」
「今は安定しています。一応話ができるところまで回復しているので安心してください」
急いでリリーバイスの元に向かった3人を迎えたドロシーは、彼女たちをリリスが休んでいるメンテナンスルームまで案内した。そこには毛布を掛けられた状態で横たわるリリーバイスとその手を大切そうに握るスノーホワイトの姿があった。
「リリス、体調はどうだ?」
「心配ないわ。もう平気よ」
「駄目です、リリスお姉ちゃん!体温が平常に戻ったばかりじゃないですか!」
起き上がろうとするリリーバイスをスノーホワイトが必死の形相で止める。彼女がここまで感情を出すことは稀であり、周囲にある冷却水の空箱の数でリリスがどれほど危険な状態であったかを知ることができた。
「無理はしないで下さい。今はとにかく安静にするべきです」
ドロシーとしてもゴッデス最強のリリーバイスが倒れたことにはとても衝撃を受けており、彼女にしては珍しく労りの言葉が出ている。
「分かったわ。みんな心配させてごめんね」
リリスも皆の気持ちを理解したため、素直に再度ベッドに横になる。暫くして、静かな寝息が聞こえ始めた。
「ここまで消耗してるなんてな。今回のヤツそんなにヤバかったのか?」
「いえ、指揮官が言うには"短期間にフルパワーを使いすぎた反動ではないか"とのことです」
リリスは1度目を砂漠で、2度目を早乙女研究所で、そして3度目が今回の任務であった。どれもこれも早乙女博士と敷島博士によって本気を出さなくてはならない状況に追い込まれている。
「アイツら……!!!」
レッドフードの抑えきれない怒りが滲み出る。早乙女博士に関わり始めてから、ゴッデスはロクな目にあっていないと彼女は考えていた。
「気持ちは分かりますが、今は抑えて下さい」
「わりぃ、リリスが寝てんだった」
ラプンツェルに諭され、落ち着きを取り戻したレッドフードは握りしめていた拳を緩めた。そして辺りを見回し、指揮官が居ないことに気づいた。
「おい、隊長はどこに居るんだ?」
「指揮官はミシリスに今の状態を報告しています」
ミシリスインダストリー、通称ミシリス。この世界を牛耳る三大企業の一角であり、リリーバイスという最初にして最強のニケを製作した企業である。ゴッデスの指揮官としてリリスの状態を報告しない訳にはいかなかったのだ。
「暫くすれば帰ってくるでしょう。そして前から思っていたのですが、何故貴方が居るのですか、紅蓮?」
ドロシーはそう言って部屋の隅に居る紅蓮に目を向けた。
彼女にとって紅蓮は野蛮な獣であり、一緒に居るのも憚られる相手であった。今まで話題にしなかったのは、倒れたリリスの前で諍いを起こしたくなかっただけである。
「この部隊に入る手前、リリーバイス少佐の体調を案じて、ここに来たのだ。想定していたより遥かに深刻な状況のようだが…」
紅蓮はリリスの実力を知らないため、高々倒れたくらいで大袈裟だと考えていたが、室内の熱気から只事では無いと理解した。その深刻さに驚き、ついぞリリーバイスに声を掛けられなかったのだ。
紅蓮の言葉にドロシーは怒りと困惑が混ざった瞳を向け、口を開こうとしたが、ここが病室であることを思い出し、紅蓮に背を向けてそのまま部屋を出た。
「申し訳ありません、紅蓮。ドロシーも初めての事態に混乱しているんです」
「よい。あれは私の蒔いた種だ。彼女の怒りは正当なものでしかない」
紅蓮も昨日の件は自分に非があることは理解しているため、甘んじてドロシーの怒りを受け入れる姿勢を見せた。これにはレッドフードとラプンツェルもほんの少し驚いた表情を見せた。勝ち気な紅蓮が逆上するものと考えていたのだ。
「私とて自身の非くらい理解している。だからそのような顔をやめたまえ」
拗ねてしまった紅蓮を何とか宥めつつ、レッドフードは残っていたスノーホワイトに紅蓮が加入することを説明した。スノーホワイトは概ね好意的な反応を示した。
そうこうしているうちに指揮官がミシリスとの通話を終え、メンテナンスルームに戻ってきた。
「待たせたな、皆。連絡事項があ…。すまない、ドロシーはどこに行ったんだ?あと君は誰だ?」
「んなこといいから、早く連絡事項を伝えてくれ」
ドロシーが消え、近接戦闘部隊のニケがこの部屋に居ることに驚く指揮官をレッドフードが早く説明するよう急かす。このままでは埒が明かないと考えたスノーホワイトが指揮官に軽い説明を行った。疑問が解消された彼はそのまま説明を行う。
「リリスは一度ミシリス本社にて点検を行う。後日ミシリスの人間が迎えにくるらしい」
リリーバイスはミシリスの最先端の技術によって製作されているため、技術流出を防ぐためにミシリスの本社にて点検する必要があった。
「期間は一週間の予定だそうだ。その間私たちはリリス抜きで戦わなくてはならない」
「そんな……」
指揮官の言葉に、スノーホワイトの悲痛な声が漏れる。彼女にとっての心の支えであり、最強でもあるリリスと共に暫く戦えない事実に衝撃を受けたのだ。対して残りの3人はリリスの一時離脱は痛手だが、ゲッターロボで何とかなると考えている。ゲッター線にほんの少し頭が汚染されているのだ。
「詳しいことは後日説明する。今日は休め、後は私が見ておく」
指揮官に休憩を促され、4人はメンテナンスルームを後にした。途中スノーホワイトがごねたが、レッドフードがヘッドロックを行い連行した。その道中会話らしい会話もなく、皆個室に戻ったのだった。
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「どうしてこんなことに……」
4人が出て行ったメンテナンスルームで指揮官は一人言葉をこぼした。皆が見ている手前毅然とした態度をとっていたが、内心ではリリスのことで頭が一杯でおかしくなりそうだったのだ。彼女の前ではそのメッキも剥がれてしまう。
実はリリスと指揮官は男女の仲であり、ゴッデス部隊の中でも公然の秘密であった。最初はただの兵器としてしか見ていなかったが、次第にその内面に惹かれ、自然とそういう仲になったのだ。
「リリス、私は君に頼りすぎた。そのツケなのかも知れないな」
リリスの寝顔を見つめながら、指揮官は懺悔の言葉を吐いた。ここにゴッデスの隊員が居れば、その言葉を否定し、原因を作った早乙女博士への怒りを示しただろう。しかし、彼はリリスと出会ってから何度かフルパワーを出すよう命令を下しており、それは3回どころの話ではなかった。フルパワーを出すことを躊躇するようになったのは、リリスとそういう関係になり、ゴッデスの隊員が集まり始めてからである。
「暫く君は休んでいてくれ。後はこちらで何とかする」
指揮官の言葉には強い決意があった。彼女が居なくともゴッデス部隊に勝利をもたらすという決意が。
そのまま椅子から立ち上がり、そのまま部屋の扉に向かって歩いていく。
「おやすみ。良い夢を」
指揮官はメンテナンスルームの明かりを消し、自室に帰って行った。その足取りはほんの少し重そうであった。
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指揮官が出て暫くは真っ暗な部屋にリリスの静かな寝息が聞こえるのみだった。しかし、ほんの少し蛍の光のような緑の玉がその室内を漂うようになった。それはどんどん増えていき、リリスの体をゆっくり覆っていく。やがて全身を覆うとおどろおどろしい音を響かせながら、彼女のボディに染み込んで行った。
全ての光が彼女の中に入ると、彼女は静かに瞳を開けた。その瞳は二重螺旋であり、体の節々には緑のラインが走っていた。無機質な表情を浮かべたままメンテナンスルームを出ると、いづこかの暗闇に消えて行った。このことに気づいた者はおらず、朝方には部屋に戻っていたため、当人も気づくことができなかった。
暫くこの現象はリリスがミシリスに行くまで起き続けるのであった。