「作戦海域に到達。これよりコードネーム"クラーケン"の討伐及び付近の調査を行います」
「了解!健闘を祈る」
まだ夜の明けきっていない早朝に水深200メートルの海底を進むゲッター3。頭部のカメラアイから光を飛ばし、暗い海の中、ラプチャーを探して行く。
「見当たらねえな。群れてるって聞いたけど」
「日が昇ってからの方が良かったのではないかな。明るい方が探しやすいだろう」
実際日が昇ってから作戦に入る予定だったが、作戦前日に海で奇妙なエネルギー反応があり、その調査も兼ねて作戦が前倒しになったという事情があった。当然指揮官は反対していたが、人類連合軍の上層部及び海戦部隊の強い要望により押し切られてしまったのだ。
「近くに怪しい反応はありませんね。もう少し探してみましょう」
光一つない暗闇の中、ゲッター3は海底をキャタピラで進んでいく。
「妙ですね、魚一匹すら見つけられません」
この辺りの海域は元々漁業が主要な産業であるほど、多くの魚類が生息できる環境であった。そのため、ラプンツェルは違和感を感じていた。
「全て奴らの胃の中に収まったのだろうか?」
「侵攻当初であればいざ知らず、ラプチャーには半永久的な動力源があるはずです。捕食されたというのは少々考えづらいです」
「じゃあ、尚更気味が悪いな。連中何考えてやがる?」
三人共この状況に不気味さを感じながら、探索を進めていく。しかしいくら探してもめぼしいものは見つからなかった。そのまま2時間以上の時が経った。
「一旦、地上に戻りましょう。このまま探索を続けても埒があきません」
「了解」
「異論はない」
そろそろ機内の酸素が尽きるのもあり、ラプンツェルの提案に二人共同意した。彼女は指揮官にこれまでの仔細を報告し、地上に帰還する許可を求めた。指揮官からあっさりと許可が下り、地上に帰還しようとしたとき、紅蓮が何かに気付いたように発言した。
「今少し揺れなかったかい?」
「ん?揺れは感じてねぇけど…。地震じゃねえの、それ?」
レッドフードは紅蓮の意見を杞憂だとして流そうとしたが、その時強い揺れが彼女達を襲った。
「いや違う、揺れが徐々に強くなっている。恐らく何かが近づいて来ている。ラプンツェル!レーダーの確認を!」
紅蓮が言葉を言い終える前に、ラプンツェルはレーダーを確認していた。レーダーは異常な速度でこちらに近づいて来る高エネルギー体を感知していた。
「何が高速でこちらに向かって来ています。恐らく15秒後に到達するでしょう。エネルギー量からして、ラプチャーの等級は大型以上!全員戦闘に備えてください」
ラプンツェルの指示を聞き、全員が戦闘態勢にはいる。
間も無くして、それは現れた。山のように巨大な図体に大量の口が生えた悍ましい化け物が。
「何だね、これは……」
「グラトニー!やっぱり複数体いやがったか!!」
コードネーム"グラトニー"。主な特性は二つ。一つはあらゆるものを喰らうことができる能力。そして二つ目は喰らったエネルギーを放出する能力。過去ICBMを飲み込み、そのエネルギーを持ってして人類に壊滅的な被害をもたらした。その日から人類連合軍は戦略兵器の使用を実質的に封じられてしまった。
グラトニーにゲッター3を捕食しようと、触手を伸ばした。それを伸縮する腕で薙ぎ払いながら、撤退を行う。主武装であるゲッターミサイルを封じられてしまったゲッター3に決定打を与えることはできないとラプンツェルは判断した。何より大量のゲッターエネルギーが吸収されてしまえば、どれだけの被害をもたらすか想像できない。
「ひとまず撤退を行います。二人とも援護をお願いします」
ラプンツェルが操縦を、他の二人は機銃掃射による迎撃を以て撤退を行う。しかし、グラトニーを振り切ることはできなかった。
「あのでかさで、しかも速いってどういうことだよ。何でゲッター3と同じ速度が出せんだよ」
「君たちはアレに遭遇したことがあるのだろう。であるならば、対策くらいは知っているのではないかな?」
過去ゴッデス部隊はグラトニーを一度討伐したことがある。リリスとドロシーが足止めを行い、レッドフードとスノーホワイトがその隙に口内のコアを最大火力で撃ち抜くという方法で討伐した。しかしそれは前回の話である。
「グラトニーのコアは喉奥にあります。ですが、破壊するのは難しいでしょう。口内にはあらゆるものを溶かし、吸収する消化液があります。一度でも触れたら終わりです。高威力の実弾兵装があれば別なのですが…」
ラプンツェルの言葉に紅蓮は押し黙る。彼女もグラトニーの存在は噂で聞いていた。そしてその厄介さも。
「……討伐します!」
ラプンツェルは逃げきれないと判断し、撤退から討伐に切り替えた。
「どうすんだ?かなり厳しいと思うけど……」
「コアの破壊を可能な限り目指します」
「できなかったら、どうするんだね?」
「グラトニーの近くで自爆します」
ラプンツェルの言葉に二人とも驚きを見せる。ラプンツェルとしては酸素も少ない中、ゲッターエネルギーをグラトニーに奪われるくらいなら自爆して相打ちに持ち込むのが最善策に思われた。
「いいのかよ、聖女サマ…」
「ニケになった時から、覚悟はしていました。人類のためならば、この身も惜しくはありません。ただお二人を巻き込んでしまうのが心残りです」
「前向きな君らしからぬ言葉だな」
深刻な表情をもって告げるラプンツェル。親友であるレッドフードもこんな表情をした彼女を見たのは初めてである。
「なあ聖女サマ、あたしらは一体何だ?」
「それは…」
「"人類の希望、勝利の女神"それがあたしらだろう。ここで諦めちまったら、あたし達は"リリスが居なけりゃ何もできない奴ら"になっちまう。そしてスノーにもドロシーにもあの世で顔向けできなくなっちまう。それでいいのかよ!!」
「私も同感だ。せっかく地獄から拾い上げてもらった命だ。せめて死ぬのならこんな末端ではなく、親元の首を掻き切ってからだ!」
レッドフードと紅蓮の叱咤にはっとするラプンツェル。弱っていた心を奮い立たせ、戦う決意を固めた。そして今までのグラトニーの行動から作戦を組み立てていく。
「お二人とも力を貸してください。一つだけ方法があります」
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グラトニーにとってそれは極上の獲物であった。
あらかたの獲物を食い尽くし、新たな獲物を求めて彷徨っていた時にそれは現れた。グラトニーが今まで感知したことのない程のエネルギー量に魅力され、本能のまま元の狩場に戻った。 近づけば近づくほど濃厚になっていくエネルギーにグラトニーは心を震わせた。前の餌場で喰らった同族など比にならない。これを喰えば全てを凌駕できる。大いなる母たる"クイーン"さえも。
本来であれば一瞬で丸呑みするところだが、グラトニーはこの餌を見てみたくなった。そして自身の姿を見せて対面したところ、餌はあっさり逃げた。ほんの少し拍子抜けしたものの、それはすぐに塗り変わる。逃げる速度が自身の最高速度と同じな上、触手もそれに備えられた二つの触手によって振り払われ今までのように喰うことができなかったのだ。餌を喰えないことに苛つく反面、極上の餌なのだからこうでなくては面白くないという愉悦の感情のままに狩りを行った。
そしてその時は来た。餌がこちらに反転して向かって来たのだ。グラトニーは歓喜した。立ち向かって来る餌を全ての触手を持って絡め取った。
ようやく喰える。それがグラトニーが感じた一番の感情だ。ただ一瞬で喰うのは面白くない。出来るだけ長く味わいたい。そうだ、舌で転がしながらじわじわ溶かしいこう。そうすれば今までの苦労以上の甘美さを味わえる。そして大きな口を開き、触手を使って餌を運ぶ。一体どんな味だろうか?果たしてどれだけ自身を高めてくれるのか?グラトニーのあたまの中は餌の味だけしか考えていなかった。まさに夢心地であった。
まさに餌を食べようとしたその時、一発の銃声の音とその後にくる口内から生じたこれまで感じたことのない激痛がグラトニーの夢を覚ますこととなった。
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「聖女サマの見立て通りだぜ。野郎、馬鹿みたいに痛がってやがる」
ラプンツェルが立てた作戦は敢えてゲッター3を捕えさせ、コアが見えたら機銃で口内を攻撃。その隙にコアを腕で破壊するといったものであった。グラトニーとの交戦時、頻繁に口内への攻撃を防いでいたことから、この作戦を立案した。
昔のラプンツェルであれば、リスクが高すぎるためこの作戦の実行には踏み切らなかっただろう。実際消化液への対策は一切講じられていない。しかし先ほど聞いた仲間達の決意と早乙女博士の技術に対する信頼から、この作戦を実行に移した。今の自分は教皇候補ではなく、ゴッデスの"ラプンツェル"だ。ならば最後まで諦めず、グラトニーを討伐し仲間の元に帰る。それが彼女の本心であった。
「ラプンツェル、奴の口が閉じようとしている!」
「させません!」
閉じようとしている口にゲッター3を割り込ませ、強引に阻止する。機体の装甲がギリギリ軋むが、そんなことお構いなしには右腕部をコアに向かって伸ばす。消化液に触れジュワッと塗装がはがれていくが、構わずコアに纏わり付かせる。そしてそのまま残った全てのエネルギーを持ってコアを引き抜いていく。
「あともう少しもってください」
溶けていく右腕を見ながらラプンツェルは呟く。この賭けに勝たなければゴッデスに明日はないのだ。勿論人類にも。だからここで踏ん張らないといけない。その意思に応えるかのようにゲッター3の瞳が輝き、出力も上がっていく。
消化速度が早くなり、装甲すらも溶けかける中でその時は訪れた。グラトニーのコアに罅が入った。そのまま裂け目は広がり、ついに決壊した。
そして断末魔を上げることなくグラトニーは倒れた。
「終わったのですか…?」
呆気ない幕切れにラプンツェルは拍子抜けした。さっきまでの戦いがまるで夢だったみたいだ。
「お疲れ、聖女サマ。この戦い録画しとけばよかったぜ」
「ひとまず帰ろう。酸素ももう心もとない」
見てみると酸素はあと10分くらいしかもたないようだ。
「そうですね、帰りましょう。あと先程はありがとうございました」
「気にすんな。お互い様だしな」
レッドフードに感謝を述べ、帰還するため進路を陸地に向ける。そしてようやく日が差し込んできた海中を全速力で進んでいくのだった。
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海底の地中の奥底でグラトニーは休息をしていた。そうせざるを得ない損傷を負ったのだ。ゲッター3が討伐したのは多くある口の一つであり、尻尾切りでしかない。本来であれば数多ある口で襲い掛かっていたが、撤退せざるを得ない事情があった。
"取り込んだものに自身が喰われかけたのだ"
アレの一部を消化し取り込んだとこ、強力な拒絶反応を起こしたのだ。そしてそのまま自身の末端たる口を乗っ取ろうとしてきたのだ。急いで防ごうとしたが、それの効力は強く、口の大部分を捨てる羽目になったのだ。
恐らくアレ自身の中にある"何か"が自身拒絶したのだ。あれは自身よりもずっと畏ろしいものだ。関わってはダメだ。次こそ本当に取り込まれる。
グラトニーはクイーンから与えられた「全てを喰らえ」という命令にのみ従う。そのため本能で動くことが多い。だからこそ理解できたのだ。"何か"が"我々"に強い憤りを抱いていることを。根絶やしにする程の憤りを。
グラトニーは初めての恐怖を感じていた。一方的に喰われる恐怖を。だからこそ、クイーンの命令を無視して、地底で細々生きていくことを決めたのだった。