「ここが私達が使っているラボです」
スノーホワイトに案内され、ドロシーとリリスは早乙女研究所の地下深くにある工房に到達した。ここに来るまで何度か検問があり、この工房が早乙女研究所にとっていかに重要なのかを伺い知れた。
「一応ここでのことはみんな以外には他言無用でお願いします」
「私達は大丈夫なの?」
「おそらく大丈夫だと思います。こうして私が入ることを許されているので」
リリスの懸念を解消しながら、ラボのドアに近づくスノーホワイト。彼女がドアノブに手を掛け、開けようとしたその時、
という爆発音と共に、ドアと一緒に吹き飛ばされた。
「スノー!!」
すかさずリリスが吹き飛ばされたスノーホワイトを抱き止める。
もくもくと煙が出てくる室内から現れたのは、
「失敗じゃ、どこが悪かったんじゃろうか。ボルトが緩かったかのう、もしくはガス漏れか、いや火薬の量が少なかった。更にド派手な爆発が必要じゃ。じゃから今度はありったけのニトロ火薬でもって……」
もう2度顔も見たくないと思っていた敷島博士だった。
「…‥スノーホワイト。どういうことですか?」
引き攣った表情でドロシーが尋ねる。
「はい。早乙女博士に武器開発について尋ねたところ、"自分よりも詳しい人がいる"と紹介されたのが…」
「そう、このワシじゃ!兵器を愛し、そして兵器に愛された男!敷島じゃ!!!」
話に割り込んできた敷島博士を見ないようにしながら、リリーバイスは頭を抑えた。自分がいない間に、可愛い妹分がこの世で一番脳の作りがおかしいマッドな科学者に弟子入りしているなど夢にも思わなかったのだ。
「ほう、プロトタイプも揃っとるようじゃし、二人とも体をまさぐらせてくれんかのう。何分解などせん、ちょこっと中身を見るだけじゃから」
フェアリーテールモデルの技術が気になる敷島博士としては、彼女達を分解できる千載一遇のチャンスを逃さなかった。言葉はアレだが。
リリーバイスは能面を貼り付けたような笑みを浮かべたまま戦闘態勢に入り、ドロシーはまるで穢れた汚物を見るような眼差しを向ける。
「お姉ちゃん、ストップ!敷島博士も変なこと言わないでください!」
一触即発の状況にスノーホワイトがすかさず止めに入る。
「すまんすまん、半分冗談じゃ。お嬢ちゃんの友人にそんな不埒な真似はせん」
そう言ってへらへら笑う敷島博士をリリスは静かに睨みつける。前回の一件でかの博士の異常性を嫌というほど理解したため、到底信用できるはずがなかった。
「ねぇ、スノー。ミシリスの技術者を何人か紹介するから、この博士とは手を切らない?この人よりはずっとマシだから」
リリーバイスには"ミシリスCEO "がある。無茶を言われるだろうが、妹分が頭MADに染められるよりはずっとマシだった。
「お姉ちゃんのお願いでもそれはできません。私の願いを叶えるためには、博士以外いないと思います」
スノーホワイトはリリスの願いをきっぱり断る。そこに悩むそぶりは一切無かった。
彼女は既に武器製作においてトップであり、右に出るものは居なかった。そのため教えを乞う機会になかなか恵まれなかったのだが、頭はアレだが技術は確かな敷島博士との出会いは正に運命であった。彼女にとって未知の技術や発想をかの博士は確かに持っていたのだ。そのため師事したことを間違いだとは欠片も思っていなかった。
「スノーホワイト…」
これにはリリスだけでなく、ドロシーも頭を悩ませた。それはまさに"悪い男と付き合っている娘をどう説得しようか悩む両親"のようであった。
「二人とも案ずるな。この娘はワシがきちんと一端の技術者に育て上げる!じゃから何も心配する必要はない!」
「「不安しかないわよ」のですが」
自分のことを棚に上げた発言にすかさずツッコむ二人。こんな黒焦げになってもハイテンションな異常者のところにいれば、スノーホワイトのお先は明らかに真っ暗である。
「指揮官の許可は取ったの?」
「はい。なんとか説得して、おおまかな情報の共有を条件に許してくれました」
「分かったわ。後で指揮官に“キチンと"話を聞かなくちゃ」
「私も同席しますよ、リリス」
リリーバイスは可愛い妹分を控えめに言って"頭おかしい"ヤツのとこに預けたことに、ドロシーはそんな重要なことをリーダー代理である自分に共有しなかったことに怒りを感じていた。二人とも笑顔ではあるが若干青筋が立っていた。
「敷島博士、さっきの爆発で怪我はありませんか?」
「大した爆発ではなかったから大丈夫じゃ。それよりもお嬢ちゃんの作品のメンテナンスはバッチリじゃ。持ってくるから少し待っときなさい」
そんな二人を尻目に呑気な会話をするスノーホワイトと敷島博士。そのまま敷島博士がラボの中に入っていく。
「それで何を作ってるの?」
「薄々察しているとは思いますが、私の武器を作っています。お姉ちゃんの負担を軽減させるために」
スノーホワイトはゴッデス部隊に合流する前に、リリスと面識があり、そのときに彼女のために武器を作ったことがあった。結果は、彼女の力に武器が耐えられず壊れてしまい、素手で全てのラプチャーを殲滅したのだった。その時からスノーホワイトは彼女を神聖視し、自分自身が彼女の武器になることを目標として日々努力を重ねてきた。、
「本当はもう少し時間を掛けようと思っていました。でも…」
そんなスノーホワイトにとってリリスの離脱は大きな衝撃であった。彼女が倒れたときに初めて、死別の可能性が頭をよぎったのだ。
「それじゃダメなんです。このままだったら何もできないまま終わってしまうって思ったんです」
「スノー…」
目を潤ませながら話すスノーホワイトに何も言えなくなるリリス。彼女としても自身の不調は可能な限り隠したかったのだ。すぐそこに迫っているタイムリミットのこともあって。
「大丈夫よ、スノーホワイト。検査でも異常は無かったし、ちょっと疲れていただけよ」
スノーホワイトを安心させるために、抱きしめながら語りかけるリリス。
「本当ですか?」
「ええ、本当よ。私は居なくならないわ」
リリスの言葉を聞いて、スノーホワイトも安心したようで、両目から涙を流し始める。彼女は取り出したハンカチで涙を拭いていく。
「ほれ、作品を持ってきたぞお嬢ちゃん。ん、作った武器の素晴らしさを思い出して泣いておるんじゃろうか?」
「それは貴方だけです。少しは空気を読んでください」
空気を読まない敷島博士にドロシーがツッコミを入れる一面もあったが、かの博士を目にすると、スノーホワイトは涙を拭い、その武器を受け取った。
「これがお姉ちゃんと一緒に戦うために作った"セブンスドワーフ改"。その試作品です」
包みを開けるとそこにはスノーホワイトが普段使用しているアサルトライフルと同じものがあった。
「これは…」
「はい、これはゲッター合金を素材に作ったものです。この素材の分離・合体の特性により、ボタンひとつであらゆる武装への変形が可能であり、様々な局面に対応できます。それだけじゃありません、銃の作りが強固になったことで更に強い弾薬を使うことが可能になりました。理論上レッドフードの使っているスナイパーライフル程の威力が出せます」
スノーホワイトの嬉しそうな説明を静かに聞く二人。暫くしてドロシーが質問する。
「反動はどうするのですか?」
「反動負荷は前のものより改善していますが、最大火力を出そうとするとその限りではないです」
「全くそこは自身を改造して、使えるようにすればいいだけなのじゃが…」
落ち込むスノーホワイトに敷島博士が一応の助言をする。全くためにはならないが、そこには確かな善意があった。
「そこまで心配ならワシ自らの手でプロトタイプを超える最強のニケにしてみせるが、どうじゃ?」
「結構です」
ただしその善意は敷島基準でしかないので、拒絶一択だが。
「話を元に戻しますが、現段階では課題が残りますが、これが上手くいけばあらゆる武装をゲッター合金を素材として作っていく予定です。上手くいけばゴッデス部隊の武器も同じように製作できると思います」
「凄いわ、新しい素材をここまで使いこなせるなんて」
リリスはスノーホワイトを素直に称賛した。これが上手くいけばかなりの戦力増強となるのは目に見えていた。ドロシーもわずかに顔を綻ばせており、彼女の成果を認めているようだった。
「いえ、敷島博士にも協力していただいたので、ほとんど私の力じゃないです」
「何を言うお嬢ちゃん。確かに最初こそ助力したが、中盤からはお主一人で作っておったであろう」
謙遜するスノーホワイトを、敷島博士が訂正する。
「ゲッター合金の仕組みと性質をわずか数週間のうちに理解してしまうなど、まさに神の領域。お嬢ちゃんと同じ年であったなら、嫉妬のあまり拳銃で脳漿をぶちまけておったであろう。少なくともワシに並ぶかそれ以上の天才じゃろうな」
敷島博士が他人を褒めることは滅多に無い。かの博士にとって人間など武器を試し撃ちするためのモルモットにすぎないからだ。しかし、スノーホワイトと共に研究するにあたり、彼女の武器作りの才と真摯さにあてられ、彼女を認めるに至ったのだった。
「惜しむらくは、発想が平凡すぎることじゃが、そこは後々矯正していけばよい」
「ちなみに平凡じゃない発想とは何ですか?」
「そんなもん簡単じゃ。いかに相手を苦しめて殺すかという発想じゃ。お主は使い手のことしか考えておらん。良い武器の作り方というのは相手の苦痛に歪む死に様を思い浮かべながら作ることじゃ。そうすれば大量殺戮兵器など簡単に作れる」
「アッハイ」
自身と同じ"狂気の科学者"としてであるが。死んだ目で返事をするスノーホワイトに気づかず、博士は話を続ける。
「そうじゃな今からスプラッタ映画を見るぞ!飛び散る血液、愉快な悲鳴、そしてバラける肉体が楽しめる作品じゃ!それを見れば間違いなくお嬢ちゃんも…」
「フンッ!!!」
頭おかしいことを口走ろうとした敷島博士をリリスが物理的に黙らせる。かの博士は天井に埋まり、ぶらぶらしている。
「まだ未成年なのよ!純粋なスノーにそんなもの見せたら思考転換して頭おかしくなっちゃうじゃない!」
スノーホワイトにとんでもない情操教育を施そうとする敷島博士を見て、リリスは決心した。
「スノー。やっぱりコイツに師事するのはやめましょう。マッドサイエンティストにはなりたくないでしょう」
「そうですね」
さすがのスノーホワイトもこれには素直に従うのだった。