ゴッデス部隊に休みはない。激化する戦争の中で、彼女たちは数多の戦場を駆け抜けた。それは戦況が改善した今日も変わらない。そのはずだった…
「一日休暇?正気かよ隊長」
「私は正気だ。上からの命令で明日一日待機命令が出ている」
領土奪還任務後にブリーフィングルームに集められたゴッデス部隊は、指揮官の言葉に各々怪訝な表情を見せる。上層部からの命令はどれもろくでもないものばかりであり、今回のものもそういう類いだと考えているのだ。
「指揮官、理由は聞いていますか?」
「何でも第二世代型フェアリーテールモデルのお披露目に邪魔になるからだそうだ」
第二世代型フェアリーテールモデルの所有権をめぐって、人類連合軍とV.T.C.の間で争いがあり、それは第二世代全機の起動に成功した現在も変わらない。
本来であれば、明確な所有権を確立した上で運用する予定だったが、エリシオン第三研究所の襲撃に際し、所長であるエイブがシンデレラを実戦投入したことで契機が変わる。
第二世代型の情報が漏れ、噂が市井の間でも囁かれるようになった。連合軍及びV.T.C.も緘口令を敷いたが、ゴッデス部隊の快進撃と共に広まっていき、収集がつかなくなっていた。
ここに来て人類連合軍は無能の誹りを避けるため、第二世代型の実戦配備を発表した。所有権は勝利の翼号と同様に泣く泣く折半した。
「第一世代以上にカネと技術をかけた第二世代の印象が第一世代以下の代物というのことになれば、人類連合軍及びV.T.C.の支持が下がるのは必至。私たちがハードルを上げすぎたのは認めるが、頭を使うべきことはもっと他にあるだろうに…」
言い終わると、指揮官はこめかみを抑えながら、静かにため息をついた。戦況は確かに改善したが、いまだラプチャー優勢であり、人類がじわじわ追い詰められている事実は変わらない。
そんな状況では一秒の時間すら惜しい。そんな中で呑気に政治ゲームに勤しんでいるお偉方のことを考えると、頭が痛くなるのだ。
「そういうわけで君たちは休みだ。私も君たちをそろそろ休ませていいと考えていたんだ。君たちは十二分に人類のために尽くしてくれた。どこかで休みを取らなくては、いつか作戦に支障が出るだろうからな。何か質問はあるか?」
「指揮官も休みですよね?」
「スノーホワイト、残念ながら私は仕事だ。ちょうど提出しなければいけない資料があるのでね」
ちなみに指揮官は明日も仕事だ。"とある計画"のプレゼンをしなくてはならないのだ。もしこれが成功すれば、人類の勝利は決定的となると踏んでいた。
「休んで下さい。きちんと休まないと下に示しがつきませんよ」
「それはできないな。なに、君との時間は作ってあるから心配しなくていいぞ」
「茶化さないでください!」
おどける指揮官にはおを赤らめ、本気で怒るリリス。プライベートならまだしも、仕事中に関係を仄めかされてはたまらない。
「という訳だ。明日はゆっくり体を休めたまえ。では解散だ」
「話は終わってませんよ」
話を早急に切り上げ会議室を朝早に出ていく指揮官と、それを追いかけるリリス。遠ざかっていく足音を聞きながら、会議は終了した。
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「暇だなあ〜」
レッドフードは一人ベッドでくつろいでいた。激務ばかりの日常により、休日の過ごし方を忘れてしまったのだ。
「みんなどっかに行っちまうし、どうしよっかな」
ドロシーは親主催の披露宴に呼ばれ、ラプンツェルはV.T.C.に出向、スノーホワイトは武器作りのため工房に籠り、紅蓮は剣の修行のためどこかに行った。ちなみにリリスは顔を赤く腫らした指揮官の付き添いである。
「久しぶりに一人になるから、何していいか分かんねえし、今休みたい気分じゃねえんだよな」
個室で独り言を呟くレッドフード。真っ白な天井を見つめながら、物思いにふける。今この瞬間も軍人が、ニケが人類のために戦っているのに、自分だけ何もしないのは心苦しかった。
「ゲッターロボの練習でもするか。あの爺さんに頼めばあっさり許可は下りるだろうな」
思い立ったが吉日。ベッドから起き上がり、軽く支度を整えて、部屋を後にした。
早乙女博士はいつもゲットマシンの改良を行っているため、会いにいくのは簡単であり、そのままエレベーターで降り、ゲットマシンの格納庫に向かった。
案の定早乙女博士がおり、ぶっきらぼうに声をかけた。
「おい爺さん、ゲットマシン使っていいか?」
「今日はダメだ」
「ん?何でだ?」
「ゲッターロボに新しい装備を追加するのに暫くかかるのでな。今日は諦めてくれ」
早乙女博士の返答にため息を吐くレッドフード。その様子を見た博士は暫く思案した後、声をかけた。
「暇なのであれば、手伝って欲しいことがある。ついてこい」
そう言うと背を向け、歩き始めた。慌ててついて行くレッドフード。暫く歩くと、辺り一面機械に覆われた場所に辿り着いた。
「ここは?」
「シミュレーションルームだ。ここでゲッターロボの模擬訓練が可能になる」
「これあるなら、一々乗る必要なかったんじゃねえの?」
「お前達が来てから漸く製作に漕ぎ着けたのでな。ゲッターロボの戦闘データが基になっておる」
何ともないように言い放つ早乙女博士を冷めた目で見るレッドフード。自分達のデータを使って勝手にされるのはあまり良い気分ではなかった。
「で、用事は何なんだ?」
「今に分かる」
暫くすると部屋からぞろぞろと見慣れない重装備のニケが出てきた。よく見ると、近接戦闘部隊の面影があった。
「お前ら、まさか!」
「はい、近接戦闘部隊改めゲッター部隊です。お久しぶりです、レッドフードさん。私はこの部隊のリーダーを務めさせていただいてます凛と申します。今後ともよろしくお願いします!」
「こやつらのシミュレーションの結果が芳しくなくてな。お前の知見が必要だ。協力してくれるな?」
溌剌な声で答える星形の髪飾りをつけたウルフカットのニケに驚くレッドフードを他所に、早乙女博士は淡々と要望を述べるのだった。
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「銃を撃つときに足を止めるな!動きながら標準を合わせるんだ!」
「はっ、はい!分かりました!」
訓練用コクピット内から指示を出しながら、バーチャル空間で再現された量産機で仮想敵を撃破していくレッドフード。戦場の中で確実なアドバイスを飛ばし続ける彼女の判断に迷いは一抹もなく、経験に裏打ちされた実力があった。
早乙女博士が近接戦闘部隊を量産型ゲッターのパイロットとして雇ったのは慈善ではなく、単に至近距離でラプチャーに相対し続けた経験によるストレス耐性があるからにすぎない。
そんな些細なストレスで思考転換を起こすニケを何機か見てきた博士としては、全身を改造し重装備で覆ったといえど耐G試験に耐え切った近接戦闘部隊は及第点をやってもよかった。
シミュレーションにおいて近接戦闘においては、紅蓮には及ばないものの、まずまずの成績であった。しかし銃を使ったことがないため、遠距離攻撃が壊滅的であった。
そこで白羽の矢が立ったのレッドフードだったのだ。
「まさかここまで上達するとはさすがはゴッデスと言ったところか」
動かない仮想敵にすら一発も当てられなかったゲッター部隊が彼女の指導により、ヒットアンドアウェイを基にした戦術で相手の攻撃を避けながら確実に攻撃を当てている。ちなみにレッドフードは一撃も貰っていない。
早乙女博士としてもこの結果には驚きを隠せなかったようで、無意識のうちに口角が上がっていた。
「足だけじゃなく翼も使え!空の敵は接近してから叩くのが一番だ!」
「了解しました!」
最後の敵が両断されると同時に、戦闘終了を告げるブザーが鳴った。
「良い調子だ。このままいけば実戦投入もそう遠くはないだろう。一旦休憩だ。十分後に再開する」
早乙女博士はそう告げると、そのまま格納庫の方に戻って行った。"相変わらず淡白な奴だ"とレッドフードが思いながら部屋を出ると、一足先に出ていた凛がジュースを差し出してきた。
「おっ、サンキュー。ちょうど喉が渇いてたんだよ」
「それは良かったです。本日は御指導いただきありがとうございます」
「良いってことよ。お前らの飲み込みも早かったし、教え甲斐があったぜ」
「そう言っていただけると大変喜ばしいです」
何気ない会話をする二人。シミュレーションルームから出てきたゲッター部隊の面々もそれを見て、その輪に加わり更に会話が弾んでいく。
「紅蓮はどんな感じですか?問題とか起こしてませんよね?」
「特に起こしてないぜ。入ってから不気味なくらい大人しいな。リリスが倒れたのも一因なんだろうけど」
「良かったです。私たち初めてゴッデスの皆さんにお会いしたときから、それだけを心配していまして。何事もなくて良かったです。リリーバイス少佐のお体は大丈夫でしょうか?」
「検査で異常も無かったし、今もピンピンしてるから大丈夫だと思うぜ」
「それは良かったです。体をご自愛いただくように伝えてください」
以前より快活に話すゲッター部隊。レッドフードはあることに気がつき、話を切り出す。
「そう言えば、お前らかなり個性が出てるよな。前は見分けがつかなかったけど、今は髪型とかアクセサリーであっさり見分けがつくもんな」
「早乙女博士から見分けがつきにくいと言われまして。その時にミチルさんから散髪と髪飾り等の譲渡をしていただきました」
レッドフードと早乙女ミチルの接点は薄いが、この研究所の中で唯一父親の不祥事を謝罪してきた彼女に悪い印象は抱けなかった。この研究所の人間はニケを兵器としてしか見ていないが、彼女だけはニケを同じ人間として見ていたのも一因だ。
最近は出不精なスノーホワイトの面倒を見ているらしく、あの博士の血縁でありながらリリスからも信頼されているようだ。
「前はオシャレする余裕なんて無かったんですけど、ここで許されるのはとてもありがたかったです」
嬉しそうに語る凛に静かに微笑むレッドフード。最初に会ったときはボロボロだった彼女達がここまで元気を取り戻すことができたのは純粋に喜ばしかった。
「たまに自分は夢を見てるんじゃないかって思うんですよ。本当の自分はもう既に事切れる寸前で、これは幻なんじゃないかって。だって今生きてることも、ロボットの訓練をしてることも、そしてゴッデスと一緒に戦えることも全部夢みたいで」
「夢じゃねえよ。お前らはこれからが本番なんだからな」
涙ぐみ始めるゲッター部隊。それは今まで彼女達が今までどんな状況の中生きてきたのか察するには余りあるものだった。レッドフードもそれを察して、宥めていた。
「ですよね。実際に言っていただけて安心しました」
涙を拭いながら笑いかける凛。情けない姿をあまりゴッデスに見せたくなかったのだ。
「まっ、気楽にいこうぜ。そろそろ休憩時間も終わりだな」
「その通りだ。早く持ち場に戻れ」
いつの間にか戻ってきた早乙女博士が無情に告げる。間の良い博士を冷ややかに見ながら、レッドフードはゲッター部隊に声をかけた。
「次もビシバシいくから、よろしくな」
「はい、よろこんで」
和やかな雰囲気のまま、模擬訓練が始まるのだった。
・ゲッター部隊
近接戦闘部隊を量産機ゲッターの操縦が可能になるよう改造した部隊。全身黒タイツから宇宙服のような重装備に変更されている。耐久性が向上したかわりに、身軽さがなくなり、以前のように戦うことができなくなった。識別方法はドッグタグのみの予定だったが、ミチルの提案により髪型及びアクセサリーも追加となった。理由としては、女の子は身だしなみに気を使わないとダメだからだそうだ。