ラプチャーについて分かっていることは少ない。彼らは突然現れ、人類を襲い始めた。当初は人類の武器でも対処可能であったが、高い学習機能と圧倒的な物量で人類を追い詰めていった。ニケの実戦投入までに人類は大幅に追い詰められていき、あわや絶滅寸前であった。
ニケを製作し、多少の抵抗は可能となったが、それでも圧倒的な物量により未だに人類は追い込まれている。
それはゲッターロボという切り札を人類が得た今も変わらない。土地の一部を取り戻すことはできたが、それだけだった。
ラプチャーも馬鹿ではない。ゲッターロボに敵わないと見ると、可能な限り戦闘を避ける行動を取るようになった。結果、ゴッデス部隊以外の損耗が激しくなり、前と変わらない状況に戻りつつある。
精鋭がいくら優秀でも全体に及ぼす影響などたかが知れている。このままではジリ貧になるのは目に見えていた。このままでは人類の勝利は遠い。
「だからこそ、親玉を直接叩く!
それこそが、我々が為さなければならないことだ!」
ゲッター2のドリルがラプチャー基地の天蓋を破り、内部に侵入する。そしてドリルに付いた土や残骸を振り払い、目下のラプチャー共を睥睨する。
その威風に恐れをなしたのか、ラプチャー共も後ろに下がり始める。
「よし、ラプンツェル以外は降りて掃討に当たれ!
ラプンツェル、君は周囲の警戒を頼む!」
高所にあるコクピットから飛び降り、次々とラプチャーを斃していくゴッデスのニケ達。慣れた手つきで各個撃破していき、周囲の安全を確保を完了させていく。
「全てのラプチャーの掃討を完了しました。スノーホワイト、大丈夫ですよ」
「分かりました、ドロシー」
安全が確認できた後、スノーホワイトが指揮官を抱えて飛び降りた。
「男が抱えて飛び降りた方が絵になるんだけどなあ」
「人間の身体機能では不可能です。ニケの重さはかなりのものですから…。最も軽量化された機体であれば話は別ですが…」
ちらっと紅蓮を見やるドロシー。
その視線に気づいた紅蓮が怪訝そうに見つめる。
「私にそんな趣味は無い。これまでもこれからも剣一筋だ。今から次の行動に移るのだから、気を引き締めたまえ」
そう言うと剣を鞘に納め、指揮官の方に向かって行った。
「いつもだったら突っかかってくるんだけどなあ〜」
「今はありがたい限りです。この任務が終わればいつもの調子に戻るでしょう」
いつもより張り詰めた様子の紅蓮を心配するレッドフードに、そっけなく返すドロシー。彼女としても心配ではあるが、今は任務に専念すべく、頭の片隅に追いやった。
「さて、周囲の敵は片付いたみたいだな。
これから内部調査に入る。目ぼしいものがあれば知らせてくれ」
指揮官はラプチャー基地内部へと進んでいく。ゴッデス部隊も彼を守るように取り囲み、銀一色の通路を進んでいく。
暫くすると突き当たりの大部屋に足を踏み入れた。
そこには…
「オイ、これは…」
「ひどい…」
「趣味が悪いですね…」
ガラス製円柱形水槽の中に浸された人間の脳髄と量産型ニケのボディ。それが辺り一面に並べられていた。
水槽の中で光を反射するガッデシアムが不気味な雰囲気を一層際立たせる。
「奴らニケでも作るするつもりか…?」
「それだけじゃ無い。奥の方を見て」
リリーバイスが指差す場所には山があった。
虚空を瞳に映すニケ達の残骸でできた山が。
よく見てみるとその一つから赤い光を放っている。
「あれは!ラプチャーコア⁈」
ボディに埋め込まれたラプチャーコアがキュィーンという機械音をたてて、輝きを強くする。まるでゴッデス部隊の到来を知らせるかのように。
「隊長、どうする?」
「黙らせてくれ」
苦い表情で指揮官が命じる。
レッドフードがニケの残骸に素早く近づき、喧しい機械音をたてていたコアを踏み潰す。勢いが余り、コアだけでなくボディも踏み抜いてしまう。
「悪いな…」
彼女は足を抜いた後に、両目をそっと閉じさせる。死後の安寧だけは守りたかったのだ。
「奴らの目的が分かったかもしれない」
沈痛な空気の中、指揮官が意を決したように口を開く。
保存されていた脳髄、ほぼ綺麗な状態のボディ、そして極め付けはラプチャーコアを埋め込まれ、苦痛の中で息絶えたであろうニケの残骸。
自ずと導かれる答えは一つであった。
「ラプチャーとニケの融合体。ここはその実験場なのだろう。概ねゲッターロボへの対抗策としてだろうが…」
指揮官の言葉に全員の表情が強張る。彼女達の感情は一つであった。
「……悪趣味にも程がありませんか」
耐えきれずドロシーが言葉を発する
それは彼女らしからぬ消え入りそうな静かな声だった。しかし両腕をわなわな震わせており、彼女が激情を必死に押さえ込んでいるのは明白であった。
彼女がこのように感情を露わにするのは稀であり、それだけ命を弄ぶラプチャー共の所業に怒りを感じていたのだ。
「…そうだな。写真とサンプルをとったら、早く出ていくべきだなこんな場所は。
ラプンツェル、ミサを頼めるか?聖女である君の祈りであれば、彼女達も安らかに眠れるだろう」
「えぇ、姉妹達の魂が安らげるように精一杯祈らせていただきます」
ラプンツェルが膝をつき、祈りを始める。献身的に祈る彼女の姿は薄暗い空間であっても、とても神秘的であった。
聖女の祈りにより彼女達の魂は救われたと考えるのはエゴだろうか。
指揮官はそこで考えを打ち切る。これ以上考えても仕方のないことであり、この作戦を成功させることが最も重要であった。
「指揮官、彼女達はどうするんですか?」
「悪いが置いていく。余裕がないからな。
葬儀はここで行うから、それで我慢してくれ」
「分かったわ。レッドフードと紅蓮は私について来て。可能な限り情報を持って帰るわよ。そして、ドロシーは周囲の警戒を。
指揮官はスノーをお願い」
指揮官に確認を取ったリリーバイスは比較的大丈夫な2人を連れて奥の方に消えていった。ドロシーはできるだけ目を背けながら、入口に向かっていく。
指揮官はえずきそうになるのを必死に押さえるスノーホワイトに向き直る。
「すまない…。私自身もある程度の覚悟は持っていたが、奴らが持つ悪意の深さを見くびっていた。
スノーホワイト、君は地上に置いてくるべきだった」
戦場であれば誰しもが経験する地獄。
人間であればPTSD(心理的外傷後ストレス障害)、ニケであれば思考転換を引き起こす可能性のある悲劇。
可能であれば彼女にソレを見せないまま、戦争を終わらせたかった。
「……ゲホッ…コホッ…。大丈夫です。迷惑をかけてすみません」
スノーホワイトは吐き気を呑み込み頭を下げる指揮官に強い眼差しを向ける。
「敷島博士から教わりました。武器匠は戦場で地獄を作るのが仕事だ。だからこそ、地獄から目を逸らしてはいけないと」
「スノーホワイト…」
スノーホワイトの成長に目を見張る指揮官。
ほんの少しまで無垢だった彼女が今では一人前の兵士としての自覚を持ちつつある。それは明らかに敷島博士の影響だろう。
引き合わせたことを後悔したこともあったが、この調子ならいい方向に働きそうだと指揮官は感じた。
なお敷島博士はこの後に続けて、
「地獄とは言っても、それはワシ等にとってはただの宝の山よ。そこには様々な殺し方がある。
ヘッドショット、蜂の巣、火だるま、窒息死。もちろんそれ以外に素晴らしい殺し方は色々あるが、その中にはきっとお嬢ちゃんが気に入るものがあるはずじゃ。その気に入った殺し方をお嬢ちゃんが作る兵器のコンセプトにするんじゃ。
最初は上手くいかんじゃろうが、使った後に反省点を見直して、改善していけば自ずと最高傑作はできる。何度も屍の山を築き上げ、ワシを超える最凶の武器匠となるのじゃ‼︎ちなみにワシが一番気に入っとる殺し方は…」
と有難いお話を1時間に渡って行った。スノーホワイトはずっと死んだ目で聞き流したが、たまに悪夢を見るようになった。
閑話休題
「隊長、最低限の情報は取れたぜ」
「あぁ、早く上と合流すべきだ」
5分ほど時間が経ち、3人が奥から戻ってくる。
以前よりも険しい表情であり、さらに深いラプチャーの業を見たようだった。
「ご苦労。爆弾を取り付けて早く戻ろう」
指揮官も察しているため、深いことは聞かずに次の命令を出す。
スノーホワイトの武器庫から*1オクタニトロキュバンを使用した爆弾を取り出し、基地のあらゆる箇所に貼り付けていく。
ミサを終えたラプンツェルと見張りを終えたドロシーも合流し、黙々と作業を行なっていく。あっという間に作業は完了し、貴重なサンプルをコクピットに詰め込んでいく。
「これで全部か…。総員、撤退準備に入れ」
作戦目標を達成した指揮官は、ゲッター部隊を爆弾の被害範囲から遠ざけるためインカムのスイッチを押し、連絡を飛ばす。
「こちらゴッデス。今から帰還する。
…‥聞こえているか?こちらゴッデス、応答せよ」
指揮官はインカムを何度も押し連絡を取るが、一向に連絡は繋がらない。
「スノーホワイト、少し見てくれ」
埒があかないと判断した指揮官はインカムをスノーホワイトに渡し、異常が無いか確認してもらう。
一通り確認した後、スノーホワイトは不思議そうに言った。
「何もおかしなところはありませんよ。至って正常です」
一瞬背中に冷たいものが走る。
そして指揮官の行動は迅速であった。
「全員コクピットに乗り込め!急いで地上に向かう!!」
ゴッデス部隊に準備を終わらせるように檄を飛ばす指揮官。ほとんど直感であった。
彼女達もこれが初めてのことではないため、すぐに行動に移す。
「指揮官、どうしたの?」
「奴らに電波の妨害、もしくは地上の対処をされた可能性がある。一刻も早く地上に戻る必要がある」
「何ですって!!」
ラプチャーに先手を打たれたことに衝撃を受けるリリーバイス。しかし、ここには彼女以上に動揺している者がいた。
「それは本当か?!」
紅蓮の大声がコクピット内に木霊する。
かつての同じ釜の飯を食べた仲間の危機に居ても立っても居られなくなった彼女は非常に危うかった。
「急がねば…!!」
「紅蓮、指揮官も乗っているということを忘れないで」
「……分かっている…!!!」
余裕の無い紅蓮にリリーバイスが釘を刺す。今の彼女であれば、人間に多大な負荷が掛かる最高速度を出してくる可能性があった。
左腕部のドリルを天井に向けるゲッター2。そのまま背部ロケットと脚部スラスターを点火させ、天蓋を突き破る。
そのまま紅蓮の焦りを乗せ、地上まで加速していくのだった。
おかしいところがありましたら、誤字脱字報告もしくは感想にお願いします。