ゴッデス部隊が異変に気づく10分前に遡る。
ゲッター部隊はゴッデス部隊が地下の基地に潜っていった後、地上での警戒にあたっていた。
「暇じゃない、凛?」
「今はリーダーよ。気を抜かないで」
砂埃ががモニターを覆い尽くす中、量産機にも搭載されているレーダーを頼りに索敵を行なっていく。
「ここを抜かれたら、次はゴッデス部隊なのよ」
「でもラプチャー程度だったら、ゲッターロボはもちろん、量産機でも十分じゃない」
「ここを抜かれて、ゴッデスの前で恥をかきたいの?
暇なのは分かるけど、今は任務に集中して」
気怠げに「はーい」と返事を返す仲間を横目に、モニターを凝視する凛。砂嵐が酷く、一寸先すら見通せない。
凛がゲッターロボへの認識に頭を悩ませるのはこれが初めてではない。ゲッター部隊だけではなく、人類の大半がゲッターロボをラプチャーに負けることのない最強の存在として認知しているのだ。
ゲッターロボを絶対視する風潮ができたのは、ゴッデス部隊がゲッターロボを用いて獅子奮迅の活躍を見せたことがきっかけだ。
ゲッターロボが戦場に現れれば、何千、何万の兵力差かあったとしても必ず勝利するのだ。ゴッデスの技量ももちろんのことながら、敵中で大暴れしながら、傷一つなく帰ってくる性能の高さ。
そんな光景を何度も見れば、縋るのも仕方のないことだろう。人類連合軍の上層部の一部が既に勝った後の取り分について裏で話し合っているという噂も聞く。人間でも乗れるように性能が落とされているとしても、量産化に成功すれば人類の勝利は間違いないと見ているようだ。
もちろん割を食うものもいる。
ニケを製造しているエリシオン、ミシリス、テトラの三大企業だ。
ニケは彼らが総力を結集して作り上げた対ラプチャーの最良兵器だった。しかし、成果は芳しくなく、ゲッターロボが現れるまで敗走を続けていた。
三大企業にとっては顔に泥を塗られたに等しい。自分達の技術力はそこら辺のぽっと出の勢力にすら劣ると言われているようなものだ。
更にニケの非人道性がここにきて取り沙汰されてきたのだ。以前までは瀬戸際だったため、ある程度黙認されてきたが、状況が改善したことにより、少女の脳髄を移植する生体兵器の倫理観に批判が向けられるようになった。
少女の脳髄を移植し、彼女達を戦場の矢面に立たせることと、漫画やアニメのようや合体ロボットに乗って戦うことのどちらが良いかなど比べるまでもない。しかも量産の目処も立っているため、ニケの量産化などやる必要が最早ないのだ。
世論の動きや軍人からの反発を受け、今まで三社が進めていたニケ量産化計画は中止となった。そしてゲッターロボ量産化計画が始動したのである。
加えて、V.T.C.と共同で製作した第二世代フェアリーテールモデルの戦績がゴッデス部隊に及んでいないのも拍車をかけている。
当初はゴッデスを超える性能を持ったニケとして注目を浴びていたが、ゲッターロボのように異常な戦果を挙げることはできなかった。
大衆が求めていたのは圧倒的な力であり、第二世代もゲッターロボのような活躍をするものだと捉えられていた。しかし蓋を開けてみると、前のゴッデス部隊より少し戦績が良い程度であり、求められていた戦果を挙げることはなかった。
今では第二世代フェアリーテールモデルの評価は"ゴッデスのパチモン"、"税金の無駄"、そして"三大企業の醜態成"と心無いものであり、実際彼女達が駆けつけた現場でゴミとともにその言葉を投げかける者もいる。
勿論第二世代フェアリーテールモデルが無能なのではない。むしろ当初の想定以上の戦果を出している。もしゲッターロボが現れる前であれば評価は違っていたかもしれない。
人類連合軍の中で発言力を落とし、世間からも見放されかけている三大企業にとって早乙女研究所は不倶戴天と言っていいほどの存在。そういったこともあり早乙博士の暗殺が危ぶまれているのだ。早乙女研究所の警備が最近厳しくなっているのもそれが理由だったりする。
閑話休題
ゲッターロボを最強と見る考えは半分正解で半分間違いだ。現時点における最強の兵器であるのは間違いないが、それが先まで通用するかは分からない。
ラプチャーには人類より優れた学習機能がある。いずれゲッターロボを超える兵器を出してこないとは限らない。奴らのその能力に人類は何度も煮湯を飲まされてきた。
早乙女博士もその能力には強く警戒しており、ゲッター部隊にも常日頃から語っていた。
「ラプチャーを侮るな。奴らが人類を圧倒しているのはその物量だけではない、適応力の高さもだ。このまま手をこまねいていては、いずれゲッターロボもニケと同じように対策されて終わりだ」
敷島博士は「適応されたら、それ以上のものを作ればいい」と軽く宣っていたが、大半の人間にとってそんな終わりの見えないマラソンなど耐えられるわけがない。
「結局、今のような優位性が取れている内に決着をつけないといけないんだよね」
凛はコクピット内部で一人愚痴をこぼす。
以前であれば周りに軽口として共有できたが、部隊を率いるリーダーとなってはそうもいかない。
自身の判断一つが部隊の明暗を分ける。その重荷を背負って初めて、いつも笑顔を絶やさなかった薔花の凄さが改めて分かった。仲間が一人、また一人と欠けていく中、余裕を見せていたのは私達を安心させるためだったのだと。
果たして自分にその任が果たせるのだろうか?
「ダメだ。また後ろ向きに考えちゃう。紅蓮にもしっかりしろって言われたばかりなのに」
おっとりとしていたリーダーの薔花と違い、厳格なサブリーダーとして君臨した紅蓮。再会した時も相変わらずであったが、彼女が元気な姿を見てなんとなく安心した。
素直ではない元副リーダーがゴッデスで軋轢もなく過ごせているかどうかが気がかりだったが、上手く馴染めているようで何よりだった。
「二人ともゴッデスの退却予定時間まで後5分。最後まで気を抜かないで」
「はいはーい」
「了解!」
部下からは互いに対照的な声が返ってくるが、凛は気にせずゴッデスの暗号回線に繋げる。
「こちらゲッター部隊。退却予定時間まで残り5分となりましたので、ご連絡いたします。そちらでトラブルが発生していれば、すぐに向かいます」
事前の打ち合わせにはなかったが、凛はゴッデスへの配慮として連絡を行った。しかし返ってきたのはザーという無機質なノイズ音であった。
「ゴッデス部隊応答願います!こちらゲッター部隊!」
何度も連絡を試みるが、いずれも徒労に終わった。
「砂嵐で電波が妨害されているのかもしれません。一旦時間をおいてから行ったらどうですか?」
「そうそう。あんまり焦りすぎちゃうと、余裕もなくなって大きな失敗するかもだし。肩の力を少し抜いていこうよ」
凛も気を詰めすぎている自覚はあったため、大人しく忠告を受け入れて周囲の警戒に戻る。
しかし外の砂嵐は更に強くなり、通信機のノイズも酷くなる一方だった。更には索敵レーダーすら反応が怪しくなってきた。
「これ一旦離れた方が良くね?」
「冗談きついですよ。敵前逃亡したニケは記憶処理されて、爆弾とし加工されることをもう忘れたんですか?」
「いやいや、地上じゃなくて空からの監視に切り替えないって話。このままレーダーと通信機使えないままだと、ゲッターでもさすがにキツいじゃん。だから砂嵐のない空からの監視にしても良くね」
「却下。だからこそ地上じゃないと。
連絡手段が一切ない現状だと、砂嵐から疎外された空から合流するのは不可能に近い。
私達の任務はゴッデスの後方警護という重大なもの。それを忘れないで」
「…変なこと言ってゴメン。まあ何とかなるかもだし」
自分自身に言い聞かせるように呟いた仲間の言葉が場の空気を重くする。凛も強く言うつもりはなかったが、自ずと語気が強くなっていた。このまま沈黙が支配するような気がした。
「…あっ、見てください!砂嵐が晴れていきます。
今だったら通信が繋がるかもしれません」
場の空気を変えるためか、もう一人の仲間がモニターを指差す。
確かに嵐の勢いは弱まり、日が差し込み始めている。
その差し込んだ日光の中にニケがいた。
白で統一された萌え袖ハイレグスーツと異様に高いハイヒールを着用し、頭部にカチューシャという余りにも砂漠に似つかわしくない服装をした紫髪のニケ。
これだけでも異常だが、背後に控える生物的な機械とコードで接続されている姿はニケというより、操り人形を想起させ異様だった。
これには何事にも動じないよう気を張っていた凛も、あまりの衝撃に言葉を失っていた。
「ここは立ち入り禁止区域だったはずです。なぜこんなところにニケが…?」
「ワンチャン第三世代のフェアリーテールモデルだったりして?それでも何でこんなところに…?」
ありえない状況に困惑する仲間たち。百歩譲って第三世代型だとしても、この作戦に何の連絡もなしに投入してくるのはおかしい。それが部隊内においてまとまった考えだった。
そうこうしている内に謎のニケはこちらに向かってくる。砂漠から数センチ浮き、その姿はまるで海を漂うクラゲのようだった。
「止まれ‼︎それ以上動くな‼︎
動けば撃つ‼︎」
急いでゲッター用アサルトライフルの安全装置を外し、照準を向ける。
謎のニケも停止に眠たげな瞳を量産型ゲッターに向ける。
「部隊名と製造ナンバーを言え‼︎」
恐怖を押し隠し、凛が宣言する。
これはニケが戦場で身元も分からない同胞の確認を行うための手法だ。どのようなニケであれ、三大企業によって製造されたのであれば、製造ナンバーと部隊名は言えるはずなのだ。
「はぁ〜。ねぇ人間モドキ、わたしはあなた達に構ってる暇はないの。
ここはうるさくて、暑いから早く帰りたいの。
だから邪魔しないでくれる」
眠たげでアンニュイな口調ではあったが、その緋色の瞳からは苛立ちが感じられた。
「質問に答えろ!!早く部隊名と製造ナンバーを言え!!」
凛はゲッター用アサルトライフルの引き金に手をかけ、強い口調で迫る。
「私はお母様によって作られた最初の使徒。
これでいいでしょ。
もう自由にしてくれない」
観念したように喋る謎のニケ。質問の意図からかけ離れた答えにゲッター部隊内では苛立ちが募っていた。
「そのお母様とは何だ?!!いい加減に製造ナンバーと部隊名を言え!!!」
強い剣幕で迫る凛。そこには"次ふざけた回答したら撃ち殺す"という感情があった。
双方に緊張がはしる。そして謎のニケは深いため息をつくと、瞳に強い苛立ちと殺意をにじませた。
「…うるさい。本当にうるさい。
今すぐ黙らせてあげる」
天候が一変する。砂嵐が一瞬で止み、雲が空を支配し始める。そして雨がポツポツと降り、いつしか装甲を強く叩きつける豪雨となった。
「何?!本当になんなの?!」
「こんなの知らない?!」
「二人とも戦闘準備‼︎コイツはニケじゃない。ラプチャーよ」
狼狽える仲間二人に発破をかける凛。二人もすぐにマインドを戦闘に切り替え始める。
「今すぐ海の藻屑に還してあげる」
「やれるもんならやってみなさい化け物!!!」
謎のニケに向かって、アサルトライフルに引き金を引く。
放たれた弾丸はそのボディを引き裂かんと謎のニケに向かっていくが、彼女が張った水の膜により全て弾かれる。
「実弾が効かないなら、直接叩き潰す!!ゲッタートマホーク!!!」
右肩から射出されたトマホークを謎のニケに振り下ろす量産型ゲッター。水の膜と一時拮抗するが、勢いのまま膜を破り、振り下ろす。
破られることを察した謎のニケも右に避けたが、左腕がトマホークと接触し、千切れ飛んだ。
謎のニケが左腕部を失った痛みに顔を歪める。左肩部から流れる血の赤ではなく、タールのようにドス黒いなにかだった。
「…許さない。
今すぐ押し潰してあげる」
謎のニケが右手を天に掲げると、空から量産型ゲッターに向かって大きな水柱が降りてくる。
「回避!!」
ゲッターウィングをはためかせ、空中に回避する量産型ゲッター。
ゲッタートマホークを謎のニケに投げつけるが、強度をより高めた水のバリアにより塞がれてしまう。
「終わりよ」
その宣言と共に、謎のニケの後方から津波が押し寄せる。高度を高くして逃げようとするが、空から降ってきた氷塊に叩き落とされ、津波に飲まれてしまう。
「海の重さを味わいながら死になさい」
量産型ゲッターを球状の水牢に閉じ込めると、そのまま圧力をかけていく。まるで量産型ゲッターを見下すように宙に陣取る謎のニケ。量産型ゆえの装甲の脆弱さから、指先から圧壊していく量産型ゲッター。
「左腕のマニュピレーター故障!右脚部の駆動系もイカレ始めてるわ。早く何とかしないと…!!」
「どうしよう?!どうしよう?!!」
「二人とも全エネルギーを用いたゲッタービームであの化け物を倒すわよ!!」
冷静さを失う二人に凛は活路を提示する。
「この化け物はここで殺さなきゃいけない。ゴッデス部隊には絶対に辿り着かせたら駄目なんだ!!!」
それは凛自身を奮い立たせる言葉だった。ゴッデスの名を聞いたことで、二人とも覚悟を決める。人類のために。ゴッデスのために。そして紅蓮のために。
「照準よし!ゲッターエネルギーフルチャージ!!」
「ゲッター炉心正常!いつでもいけます!」
「よし、三人の心を一つに!!!」
「「「ゲッタービーム!!!」」」
量産型ゲッターのカメラアイが強く輝く。中腹部の発射口から放出された巨大なゲッタービームは水牢を一瞬で吹き飛ばし、水のバリアごと謎のニケを吹き飛ばした。そして雲海を突き破り宇宙へと消えていった。
「ゲッターエネルギー低下。さすがにこれで死んだっしょ」
「フラグを立てるのはやめてくれませんか?」
「二人とも気を抜かないで、まだ死んでないかもしれない」
凛は気を引き締めるために言葉紡ぐが、量産型ゲッターの状態からしてこれ以上の継戦は不可能であり、ゲッターウィングも一部不具合が発生していたため、飛んで逃げることも不可能であった。
つまり、これで仕留められていない場合は彼女たちの命運はこれまでということなのだ。
「レーダーを確認して。砂嵐も雨もなくなったから正常に機能するはずよ。それとゴッデス部隊と早乙女研究所への連絡もお願い」
「オッケー」
「確認してみます」
動くこともままならない現状であれば、一般ラプチャーに遅れを取る可能性もある。これ以上の後方警護は不可能であるため、各々撤退の準備を始めていく。
「二人ともできた?」
「あちゃー、通信機器壊れちゃったかも。さっきから全然繋がんない」
「レーダーもさっきからノイズばかりでまともに機能しません。全くこういう肝心なときに仕事してくれないと」
「いいえ、機器は正常よ。
だって私が封じているもの」
嫌な声がした。少し前に聞いた悍ましい声。
ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには何事もなかったように傷一つない"あの化け物"がいた。
「…そんな…嘘でしょ」
「嫌…イヤ…いや…」
慟哭する者と泣き崩れる者
凛は何も反応できなかった。ただ青天の霹靂とはこのことを言うのかと現実感のないことを考えていた。
「あなたたちを侮っていたわ。
ここまで追い込まれたのはこれが初めて。
これからは全力で叩き潰してあげる」
謎のニケから膨大なエネルギーが放出され、ボディが巨大化していく。
「そういえば質問に答えていなかったわね。
製造ナンバーと部隊名は知らないけど、私はお母様、ラプチャークイーンによって作られた最初の尖兵」
量産型ゲッターは目の前の現実味のない状況に立ち尽くすしかなかった。彼女たちはただ心の中でゴッデスの到着を待ち望んでいた。
「名前はリバーレリオ。
憶えて死んでね」
ラプチャークイーン、リバーレリオ。その情報は戦意を失った彼女達には届かない。
その日人類は新たな脅威"ヘレティック"と相対することになった。