「ようこそ、早乙女研究所へ。歓迎しよう」
「歓迎される気はねぇから、早くスノーに会わせてくれないか」
「スノーホワイトの安全と身柄の確認が最重要だ。早く会わせてくれ」
先の戦いの後、仲間に一連の事情を説明したレッドフードは彼女らを伴い、早乙女研究所を訪れていた。一目でも早くスノーホワイトに会うために指揮官も同行していたのだった。
「そう慌てるな。彼女はきちんとこちらでもてなしている。付いて来い」
早乙女博士は静かに笑うと、彼女たちをスノーホワイトの元に案内し始める。薄暗い廊下の中を6人の靴音が反響する。
「そういえば、指揮官殿。空の旅はいかがだったかな?」
早乙女博士がなんでもないように指揮官に問うと、彼は腰をさすりながら答える。
「一つの搭乗席に5人同時に乗ることになったのでね。所狭しというところに凄まじいGが掛かったせいで、しばらく腰痛に悩まされそうだよ」
「あれでも一応抑えてるんだからな!」
レッドフードが指揮官の軽口に反応する。彼女としては、指揮官の身を案じた上で操縦したので、たまったものではなかった。
「それで、あれはどういったものなのですか?」
リリーバイスが博士に疑問をとばす。元空軍所属であった彼女もあそこまで負荷が掛かるものに乗ったことはなかった。
「あれはゲッターロボ。ゲッター線を動力源とするロボットだ」
「ゲッター線?」
「知らないのですか?」
初めて「ゲッター線」という言葉を聞くレッドフードに、ドロシーは信じられないないような目を向けた。
「あたしはそういうのに疎いから知らないんだよ。逆にお嬢サマは知ってんのか?」
「ええ、ゲッター線とは次世代のエネルギーとして注目されている放射線のことです。何でも凄まじい可能性を秘めているのだとか。連日よく報道されていて、嫌でも耳に入りました。しかも、そこの早乙女博士はゲッター線研究の第一人者ですよ。あと私はお嬢様ではありません」
レッドフードは元は裏通りの不良であり、世俗に対する関心が低い。そんな彼女に、ドロシーはお嬢様であることを否定しつつも、ゲッター線について説明した。
「聖女サマのところでも、研究してたりするのか?」
「V.T.C.でも研究は行われていますが、実用化までには至っていません。しかし、ロボットの動力源にするところまでに至っているのは驚きました」
レッドフードは純粋な疑問をラプンツェルに問う。ラプンツェルはV.T.C.という研究機関に所属しており、ゲッター線の研究に行き詰まっていることを知っているため、純粋に驚いたようだった。
「へえー、そんなに凄いものなんだ。話には聞いていたけど、ここまでのものだとは思わなかった」
「まだ儂等でもゲッター線の神秘を解明できたわけではない。調べれば調べるほど、分からないところが出てくる。さあ、着いたぞ」
博士が大きな扉の前で立ち止まり、その扉を開けた。その先に居たのは、宴会場で満足そうに料理をたらふく食べるスノーホワイトであった。スノーホワイトの名が表す通りの綺麗な白い髪と幼さの残る橙色の瞳を持ち、白と黒をベースとしている服の胸元にちょこんと可愛らしいリボンを付けているのが愛嬌を誘う。彼女はこちらに気づくと、手を振った。
「お姉ちゃんにレッドフード!みんな無事だったんですね」
リリーバイスやレッドフードをはじめとしたゴッデス部隊一行はスノーホワイトの無事な姿に安堵した。
「美味しそうじゃねえか、おちびちゃん。何もされてないよな」
「はい!目を覚ました後、研究所の皆さんがここに案内してくれて。その上料理を振る舞ってもらいました」
「目を覚ました時に、腹の虫を鳴らせたのでな。ひとまず料理を振る舞ってやった。しかし、歳の割に食いつきがいいな。お前たちもどうだ?」
スノーホワイトの食べっぷりを見ているとこちらの腹も鳴りそうだったので、ゴッデス一行は提案に乗ることにした。
「あたしはビール!!」
「私は紅茶でお願いします」
「私もドロシーと同じものでお願いします」
「私はコーヒーで。指揮官は?」
「私もコーヒーにしようか。ブラックでたのむ」
各々好みの注文を行っていく。
「分かった。ミチル頼めるか?」
「分かりました」
早乙女博士がスノーホワイトのそばで控えていた女性に声をかけると、彼女は奥の厨房に戻って行った。
「爺さん、あんたの娘か?」
「そうなるな。料理はたくさんある。好きなだけ食べていいぞ」
「その前に話し合わなければならないことがある。そうだろう、早乙女博士」
そのままの流れで席につき、食事を始めようとする早乙女博士に、指揮官が釘を刺す。ここで本来の目的を果たさなくてはならない。
「レッドフードとスノーホワイトを攫った件についてだが、私もゴッデスの皆も非常に重いものだと受け止めている。おそらく軍法会議にはかけられるだろうし、最悪極刑まで下るかもしれない。そんなリスクを負った上で、彼女たちを攫った理由を教えて欲しい。早乙女研究所は人類連合軍から支援を受けているはずだ。上に提案する方法もあったはずだが?」
すると博士は静かに口を開く。
「勿論提案した。そんなことよりも量産機を作れと一蹴されたがな」
「あれを量産できればかなりの戦力になるんじゃないですか?」
リリーバイスが博士に疑問を呈する。ゲッターロボの力は凄いものであった。途中油断で攻撃を受けていたが、それまでは一方的であったし、なんなら無傷のまま勝利している。あれを量産できれば、人類の勝利も夢ではない。
「あれを御せるのはお前たちゴッデス部隊のみだ。実際に何度も飛行テストを行った。軍人から量産型ニケに至るまで。しかし、その中にゲッターの重加速度に耐えることができる者はおらず、全て失敗に終わった。つまりあれをたくさん製造しても、乗れるものはお前たちしか居ないから意味がない。量産するにはデチューンするしかない」
「それでいいんじゃないのか。あれの劣化版だとしても、十分戦力になるだろうし」
レッドフードが当然の疑問を早乙女博士に告げると、彼はため息ついた後に答えた。
「デチューンしたものを戦線に投入しても、ラプチャー優位の状態は変わらん。量産機はレッドフードが操縦したゲッターロボの十分の一の出力しか出せないというものでな。大型を容易く倒すのに複数でかかる必要がある。量も質も我々の上をゆく奴らには、焼け石に水でしかないのは明白だ」
「それだったら、あたしらがゲッターロボを使っても意味ないんじゃないか。確かに大型に無傷で勝ったけど、大型はアイツだけじゃないし、囲んでやる方がまだ勝率は高いんじゃねえの?」
早乙女博士の答えに納得できないレッドフードは更なる疑問を呈する。早乙女博士は鼻で笑うと、前より深いため息をついた。
「何を勘違いしている。あれは十分の一の実力も出せていない」
「えっ、あれで半分以下なのか?ていうか、出せてないってどういうことだよ」
新たな謎が出てきたことに困惑するゴッデス一行をよそに早乙女博士は続ける。
「あのロボットは3人乗りだ。3人乗って初めて真価を発揮する」
「どういう意味ですか?3人乗らないと出力が出ないなど聞いたことがありません。その前になぜ3人乗りなのですか?」
ドロシーは博士の答えに納得が出来なかった。早乙女博士は続ける。
「元々ゲッターロボは宇宙開発用のロボットでな。あらゆる状況に対処できるように陸海空それぞれに合った形態に合体できるように作られておる。そして3人のパイロットの同調率に出力が左右されるのだ」
「合体できるんですか?」
「左様。ゲッターロボは3つのゲットマシン、イーグル号、ジャガー号、そしてベアー号による合体によって姿を変える」
スノーホワイトにとって合体など、アニメや漫画の世界であり、純粋に信じられなかったようだ。ラプンツェルは納得できず、早乙女博士に疑問を問う。
「ありえません。そんな精密な仕組みをしているロボットがあそこまで戦えるわけがありません」
「ゲッター線の特性が可能にしておるのだ。ゲッター線には融合と分離を可能にする力があってな。それが強力な力を保ったまま変形することを可能にしておるのだ」
「そんな力がゲッター線に…」
早乙女博士からの回答に、ラプンツェルは純粋に驚いた。ゲッター線の神秘は人間の想像を遥かに上回る。
「ちょっと信じられないかも。本当にそんな力あるの?」
「ある!!!お前たちもゲッターロボ、いやゲッター線に関われば、嫌でも思い知るはずだ。ゲッターエネルギーの凄まじさを!!!」
リリーバイスからの懐疑的な質問を、早乙女博士は自信満々に答えた。
「儂はニケが作られたのは運命だと思っている。お前たちはゲッターロボに乗るために生まれたのだ。人間では乗れないロボと人間では扱えない兵器を扱うニケ、お似合いだとは思わんか?」
妖しく笑いながら、早乙女博士は続ける。
「だそうだ。レッドフード、そしてスノーホワイト。お前たちは博士をどうしたい?」
指揮官は今回被害を受けた彼女たちに問う。
「私は美味しい料理を振る舞って頂けたので、満足です」
「スノーを攫ったのは許せねえが、正直に全部話してくれたから、大事にしなくていいと思うぜ」
それ以外のメンバーも思うところはあるが、本人たちが許しているため、何も言えないでいる。
「よかったな、博士。今回軍法会議にかけられることはないが…」
「もう二度と同じことはせん。早乙女研究所はこれよりお前たちを全面的に支援しよう」
ここに早乙女研究所による支援体制が確立された。タイミングを見計らったかのように、ミチルが各々に飲み物を置いていく。早乙女博士の前には煎茶が置かれる。
「では、この同盟を祝して乾杯といこうか」
「いやいいよ。各々で飲むから」
レッドフードは早乙女博士の誘いを断り、静かに飲む。戦い続きの中、久しぶりに飲んだビールの味は格別だった。
「というわけで、レッドフード以外のパイロットを見繕ってくれるか?」
「いや、あたしは確定なのかよ!!!」
レッドフードがすっとんきょんな声でツッコミを入れ、その日の宴会は幕を閉じた。
この世界の早乙女研究所は、ゲッターエネルギー関連の事業やあるトンチキ博士が作り出した兵器によって、かなり儲けています。
・ラプチャー
突如人類を襲い始めた機械生命体。熱源と音で感知し、積極的に襲う。本編では大きさによって、タイラント級、ロード級、マスター級、サーヴァント級に分けられる。この小説では、タイラント級を大型、ロード級を中型、それ以外を小型と呼称する。