「近接戦闘部隊について、知っているか?」
「ん、何だそれ?」
唐突な早乙女博士の問いかけに、レッドフードは首をかしげた。そんな彼女の疑問を解消するため、リリーバイスが説明を行う。
「近接戦闘部隊はね、刀剣でラプチャーを撃破することに主眼が置かれた量産型の部隊よ。何でも私が素手でラプチャーを倒していることに可能性を感じて、作られたらしいわ」
「へえー、なるほど。でも、お前みたいに近接戦でいくのは不可能に近いんじゃねえのか。あれはお前のボディの頑丈さと出力の高さによるゴリ押しだからな」
リリスの理不尽さを知るレッドフードにとって、リリス並のスペックであるならまだしも、量産型程度でどうにかなるものではないのが近接戦であるという認識であった。実際、レッドフードを含むゴッデス部隊の隊員は全員フェアリータイプモデルというリリスの性能を劣化させたような存在なのだ。リリスの性能を再現しようとしたこともあるが、ボディが耐えられず、爆散してしまうという結果に終わっている。
「量産型といっても、軽量化により一撃離脱が可能な改良品ではあるがな。まあ、上層部は失敗作の烙印を押している。近々使い潰されるだろうな」
早乙女博士の発言に二人の顔が曇る。前から分かっていたことだが、人類連合軍、特に上層部はニケを物として見なしている傾向が強い。人類のために戦っているのにこれではあまりにも報われない。
「じゃあ、そいつらを助けるためにこの夜道を歩いてるんだよな、爺さん?」
現在の時刻は夜12時を下回り、明かりのない砂利道を3人で移動していた。本来外に出るのは、ラプチャーに遭遇する可能性が高く危険なのだが、彼女たちはラプンツェルからジャマー効果のある髪の毛の束を拝借することによって安全を確保していた。実際、ラプチャーには一度も遭遇していない。
「結果的にはそうなるな。明日には早乙女研究所持ちの部隊として配属されることになる。メンテナンス費用はこちら持ちだ」
「爺さん、あんた悪いもんでも食ったか?」
「単純な話だ。近接戦闘部隊は元々軽量化の代償として、壊れやすくてな。修繕費が嵩んでいたことが一番の問題だったのだ。逆に言えば、そこさえ改良してしまえば、有用な部隊になり得るのは明白だった。実際、ほとんどの作戦を成功させている。改良を行えるだけの技術力を儂等は持っている」
早乙女博士の発言が信じられないレッドフードに、博士は淡々と答える。早乙女博士としてはせっかく作られたのだから、使えるだけ使うという考えによる発言だった。
「じゃあ、何で私たち歩かされているんですか?」
リリーバイスが早乙女博士にジト目で問う。
「情報に目を通してはいるが、やはり実物を目にしなければ確信が持てんからな」
「ゲッターロボのパイロットに適格かどうかか?」
「その通り」
予想通りの早乙女博士の返答に二人は呆れる。この人の頭の中にはゲッターロボ以外ないのだろうか?
当初ゴッデス部隊から、レッドフードを含めて3人のパイロット候補を出す予定であった。しかし、第一候補であったドロシーはゲッターロボに乗ることを強く拒否した。曰く「勝利の女神としての品格を落とすような戦い方を行うロボットに乗りたくありません」と。第二候補であったリリーバイスは乗り気であったものの、最高戦力であるため、指揮官によって反対された。そのため最終候補のラプンツェルが乗ることになったのだった。ちなみにスノーホワイトを乗せる案もあったが、各方面から非難を受けて頓挫した。
「あと1人足りんのだ。ゴッデス部隊がここまで危機感を持っていないとは、全く嘆かわしい」
嘆息しながら、早乙女博士は呟いた。
「今回ここら一帯で作戦を行うというのでな。実際にどういった動きをするのか確認を行う」
そう言うと早乙女博士は、二人に資料を手渡した。そこには近接戦闘部隊のメンバー各々の戦績と性格が書かれていた。
「隊長格の薔花って娘が最有力候補ですか?」
「いや、ソイツは新たなフェアリータイプモデルとして改修を受ける予定だ。いずれ別の隊に移される。二番手の紅蓮というヤツが最有力だ」
レッドフードは資料に載ってある紅蓮のページをめくった。性格は好戦的で反抗的と書かれており、常に鍛錬を怠らないなどプライベートな情報も載っていた。
「そろそろ着くぞ」
そう言うと、早乙女博士は荒廃した住宅街の前で立ち止まり、暗視鏡を装着した。彼女たちもそれにならい、住宅街を見つめる。
しばらくすると、爆発音と機械音が発生し、奥の方にラプチャーたちが集まり始める。そのラプチャーの群れに刀を持ったニケたちが突撃する。彼女たちは皆一様に黒い全身タイツを身にまとい、赤い刀剣を持ってラプチャーたちを切り刻んでいく。ラプチャーも反撃を行おうとするが、刃が迫るのが速く、一体また一体と数を減らしていく。
「ここまでとは。いやはや、少し見くびっていた」
リリーバイスとレッドフードも同じ気持ちだった。今まで見てきたどの量産型よりも素早く、そして的確に撃破していく姿は驚嘆に値した。しかも、あの数であれば犠牲者が出てもおかしくないだろうに、難なく倒していく。特に黒いタイトドレスを着たニケと肩鎧を右肩に付けたニケはその中でも群を抜いている。彼女たちがゴッデス部隊に加わっても、遜色なく戦っていける程だ。
しばらくしてラプチャーの殲滅が終わり、点呼を終えた後、こちらに向かって来た。彼女たちの頭上に装備された赤い円盤型のレーダーはジャマーで妨害され、光一つ無い闇夜だというのに、戦いの中でこちらの居場所を把握していたようだ。
「ほう、どうやら気付いていたらしい」
早乙女博士が嬉しそうに呟く。どうやらお眼鏡に適ったらしい。
話せる距離まで近づいてくると、肩鎧を装着したニケ、紅蓮が口を開いた。
「覗き見とは感心しないな。一体何者だ、お前たちは?」
「儂の名は早乙女。お前たちの新しい飼い主だ」
堅苦しい口調の質問に、早乙女博士は意気揚々と返す。
「飼い主?」
「左様。お前たちは早乙女研究所へ異動となる。その前に、性能を見ておこうと思ってな」
「そんな話は聞いていない。そうだろ、姉さん?」
その答えに早乙女博士は怪訝な表情になり、レッドフードとリリスは"こいつやりやがったな"という視線を向けた。早乙女博士に対する信用はかなり低い。
「ええ、そうね。ちょっと中尉に確認してみますね」
おっとりした雰囲気のタイトドレスを着たニケ、薔花が無線で確認を行う。しばしのやりとりの後、早乙女博士に向き合った。
「こちらの伝え忘れみたいです。なんでも前日に決まったばかりだそうで、中尉の方も確認しきれてなかったみたい。これからよろしくお願いしますね〜、早乙女博士」
「こちらこそよろしく頼む、近接戦闘部隊」
二人が互いに手を伸ばし、握手を行う。レッドフードとリリスは早乙女博士の異常性を知っているが故に、嬉しそうな薔花に何とも言えない表情を向けた。
「待て、明日も任務があったはずだが…」
「急に無くなったみたい。久しぶりの休みだし、ゆっくりしよ〜」
彼女たちは連日任務続きであり、休みが取れることに全員が安堵の表情を浮かべた。よく観察してみると、彼女たちの服は土や泥などの汚れがたくさんあり、これに気づいたレッドフードとリリーバイスは顔をしかめた。彼女たちの指揮官は彼女たちのケアをあまり行っていないようだ。
「ところで、後ろに控えてるのは、ゴッデス部隊のリリーバイス少佐とレッドフードさんですか?」
「知ってるんだ!何も言われなかったから、てっきり知られてないと思ってた。一応紹介するけど、私がリリーバイス。こっちがレッドフード」
「おう、よろしくな」
彼女たちの紹介に、近接戦闘部隊が小さな歓声を上げる。ゴッデス部隊は結成されて以降、あらゆる困難に立ち向かい、任務成功率は驚異の100%。まさに生ける伝説である。ニケたちにとって、彼女たちは雲の上の存在であった。
「そろそろお暇するか。リリス、儂をおぶってくれ」
「はいはい」
早乙女博士は目的を果たしたため、リリスに自身を背負わせる。博士の身体能力を考えれば、背負ってもらった方が早く着く。そろそろジャマーの効果が切れそうであった。
「じゃ、またね」
「おう、また明日な」
早乙女博士を背負ったリリスが駆け、その後をレッドフードが着いていき、あっという間に見えなくなった。
「ゴッデスのニケはやっぱり凄いわね」
「その通りだな、姉さん」
各々の興奮も冷めやらぬ間に近接戦闘部隊は帰路についたのだった。
早乙女研究所は量産型のニケのスカウトをよく行っており、今回もその一環だと捉えられています。まあ、ゲットマシンのテストパイロットにされて死ぬんですけど…。