ブリーフィングが終わり、レッドフードは一人研究所内で割り当てられた自室に戻っていた。作戦の内容としては、まだ避難が完了していない地区にラプチャーの大群が押し寄せてくるのを迎撃して欲しいというありふれたものであった。作戦の開始は早朝であるため、それまで武器の点検や休息を取ろうと思ったのだ。
部屋の近くまで来た時、薄暗い廊下で薔花にばったり遭遇した。互いに会釈した後、レッドフードが切り出す。
「早乙女博士から異動の話は聞いてるか?」
「えぇ、聞きました。みんな沸き立っていましたよ〜」
ほんの少し微笑みながら薔花は答えた。
急遽近接戦闘部隊は早乙女博士に召集をかけられ、そこで薔花が第二世代のフェアリーテールモデルとなることが伝えられた。多くの隊員が薔花の栄転を喜んでいた。
「紅蓮はどうだった?」
「実は、レンはその場に居なくて。今探しているんです」
答える薔花の表情はほんのり陰を帯びていた。
その場に紅蓮はおらず、早乙女博士に伝えても「気にするな」の一点張りであった。仲間からの激励を受けた後、彼女は一人紅蓮を探していた。
「探さなくていいと思うぜ。センセイは一人になりたいみてえだからな」
紅蓮の荒れようを知るレッドフードはそっとしておくよう薔花に伝えた。
「まっ、アイツのことだ。そのうち折り合いでもつけるだろうさ」
「そうですね。少し心配しすぎたかもしれません」
薔花はそのまま踵を返し、近接戦闘部隊の元に戻ろうとした。そんな彼女をレッドフードが呼び止める。
「あたしの部屋の近くだし、ちょっと話さないか?」
紅蓮とはゲッターロボのパイロットとしてこれから一緒に戦っていく上で、先程の件もあり彼女のことについてある程度知るべきだと考えての行動だった。本来は本人に聞くべきだが、彼女の状態を考えれば難しいだろう。
「構いませんよ〜」
薔花はにこやかに応じた。
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「インスタントの紅茶だけど、どうぞ」
補給品として支給された紅茶のティーパックにお湯を注ぎ、薔花の元に出した。紅茶を選んだのは、よく嗜んでいる仲間、ドロシーの影響である。
「ありがとうございます」
薔花は礼を告げた後、紅茶を軽く口に含んだ。
「美味しいです」
「それはよかった」
レッドフード自身もテーブルの向かいに腰掛け、自分で注いだ紅茶を一気に飲む。本音を言えば、紅茶ではなくビールを飲みたかったが、そこは空気を読んだ。
「久しぶりに贅沢をすることができました。改めてありがとうございます」
「それくらい補給物資として送られてこないか?」
薔花のお礼を大袈裟だとレッドフードは感じた。他の量産型部隊であっても紅茶くらいは送られてくるはずである。
「実は補給を暫く受けられていなくて、みんな今ある物資で何とかやり繰りしていたんです」
「嘘だろ…」
絶句した。脳裏にあの夜博士が発した言葉が駆け巡る。人類連合軍はこの部隊を使い潰すつもりだったのだろう。補給を絞り、作戦の成功率を下げるというやり方で。おそらくもう何人ものニケが犠牲になっているかもしれない。
「それもここに所属することになって、全部解決したんですけどね」
近接戦闘部隊が早乙女研究所に着くと、最初に点検が行われ、壊れたパーツや武装の換装や修理が行われた。ゴッデス部隊への紹介を終えた後、ここでの待遇を聞かされ、ようやく安堵したようだった。どうやら彼女たちは"量産型のゲッターロボ"というもののパイロットとして買い取られ、きちんとした整備と補給を受けられるようだった。紅蓮と薔花は除くが。
「というわけで、近接戦闘部隊は量産型ゲッターのパイロットとして明日から訓練を受けるみたいです」
「あの爺さん、本当に平常運転だな」
相変わらずの早乙女博士に呆れるレッドフードと部隊の安全が確保できて安心する薔花という真反対な表情を見せる2人であったが、会話は穏やかに続いていった。
「へえー、つまり作戦を掛け持ちすることもあったのか」
「はい、あの時は大変でしたよ。武器庫を奪還した後に、近くの司令部跡地を爆破しろって。みんな本当に頑張ってくれて、そのおかげで何とか完遂できました」
「あたしらもそういうのあったな。あん時はかなり遠くの重要拠点がラプチャーに攻撃されてるって急に連絡が来て、急いで向かったんだよ。何とかギリギリ間に合ったけど、みんな疲労困憊だったよ」
「そうだったんですね。ゴッデスの皆さんも苦労されていたんですね」
「そうなんだよ。巷では無敵のゴッデス部隊って噂されてるけど、ほとんどかなりギリギリで勝ったってのが意外と多いんだよ」
互いの作戦や部隊の状況について一通り話し合った後、機を見てレッドフードは本題を切り出す。
「前から気になってたんだけどさ。紅蓮とはどういう関係なんだ?」
知り合って間もないが、紅蓮と薔花の2人の間には家族の絆のように深い繋がりがあることをレッドフードは見抜いており、"おそらく姉妹だろう"とあたりをつけていた。
「私とレンは姉妹だったんです。姉妹といってもどんな姉妹だったかは記憶が消されていて分かりせんが…」
「記憶消されてるのによくわかったな」
穏やかな表情で語る薔花に、レッドフードが疑問を呈する。
「ロールアウトされて初めて会ったときに、2人ともお互いが姉妹だって確信したんです。レンが言うには、死んでも忘れないと強く思っていたのだろう、って」
その後薔花は紅蓮について語り出した。負けず嫌いでよく剣の勝負を挑んでくること。酒類が苦手で花茶を嗜んでいること。ストイックで毎日鍛錬をおこなっていること。そして、誰よりも仲間を大切におもっていること。
紅蓮についての会話は先程の会話の倍近く続いた。その間薔花の語り方は非常に優しいものであった。
「紅蓮のこと好きなんだな」
「ええ、たった一人の妹ですから」
レッドフードはほんの少し彼女たちを羨んだ。自身にそういう繋がりはなく、ただの不良として生きてきた。彼女たちの有り様がそんな自分には眩しく思えるのだ。そして薔花が紅蓮を思うように、紅蓮も薔花を大切にしているのだろう。だからこそ、姉が去る事実にあそこまで荒れたのだ。
「ところで、レンについてどう思っていますか?」
「強い、あと結構シャイ。それくらいだな」
薔花としては昼間の紅蓮のやらかしに対する心配から出た言葉であるが、レッドフードとしては最初から気が合いそうな奴であり、試合に対しても概ね満足していた。
「リリスのやつが、紅蓮をゴッデス部隊に引き抜きたいって言ってたぞ。あたしもアイツが来てくれたら、結構頼もしいぜ」
この話はブリーフィングの最後に出たものであり、一名が強く抗議していたが、概ね賛成の雰囲気であった。
「それは良かったです。もしそうなれば、レンのことよろしくお願いします」
薔花は深く頭を下げた。彼女としては好戦的だが可愛い妹がゴッデス部隊の預かりとなり、ラプチャーと戦うのだ。前よりキツいだろうが、その分見返りも大きいだろう。
「安心しな。あたしが仲良くできるよう取り計らってみるよ」
そう言い、レッドフードはその願いを受け入れたのだった。
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「んじゃ、縁があったらまた話そうぜ」
「はい、また機会があればお願いします」
作戦の集合時刻が近いということで解散となり、自室に戻る薔花をレッドフードは部屋の外まで見送った。かなりの時間話し込み、時計の針は10時を指していた。
薔花が去り、作戦の集合場所に向かおうとしたところで紅蓮が大急ぎで駆けて、こちらに向かって来た。
「君、姉さんを知らないかい?」
「薔花だったら、自室に戻ったぞ」
「そうかい、礼を言う」
そのまま紅蓮は薔花の自室へ向かって駆け出し、すぐに見えなくなった。その表情からしてどうやらある程度の踏ん切りはついたようだった。
「さてと、集合場所に向かいますか」
そう小さく呟くと、集合場所へ歩いていったのだった。
これが今年最後の投稿になりますので、皆さん良いお年を。