好きとかとちゃうし!   作:白米おじさん

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オリ主回。旅人、登場します。

R7.5.30 誤字報告ありがとうございます!修正しました。


会えたんだからいいじゃない
瑠月港:狂瀾怒濤の死を迎え、黎明が訪れる


 その日、大事件は唐突に襲来した。

 

「……どないします?」

「どうもこうもないわ……」

 

 璃月港、商業西区。紅の建物が立ち並び、複数層の渡り廊下が道を作る。見慣れた街。いつもと違い人気(ひとけ)の少ない中、背の高い男女が疲労声で頭を抱えていた。

 商業西区より上に位置する玉京台の方面からは、人々の悲鳴とざわめきが風に乗って流れてくる。騒動は筒抜けだった。

 遠くで駆ける千岩軍を横目に、男──洛風は欄干にもたれ掛かり、女──夜蘭は影の部分で腕を組む。

 

「あの子たちね」

「金髪が()()()。ほんで、男の方は愚人衆(ファデュイ)執行官(ファトゥス)やっけ。名前は……」

「他国の要人くらい覚えておきなさい。「公子」様よ」

「せやった」

 

 洛風は頬をかきながら、元素力を練り直す。()()が頬を撫で、微かな会話の声が耳に届いた。眼下ではちょうど男が名乗りを上げている。その声に、洛風は耳を澄ませた。

 

『………リヤだ。「公子」と呼んでくれても……』

『うわっ、オイラたちを助けたからって見下してないか?』

『……、……んなことはな……。……というものはただの記号だか……、……』 

 

 どうやらあの白くて浮いているのは少女であったらしい。人間のサイズではないので、何かしらの元素生命体か、またはアレも妖怪の一種だろうか。世界にはいろいろな種族がいるものだ。

 身体の小ささに比例したのか、白い彼女の声は高い。非常に聞き取りやすかった。

 

 洛風は目を瞑り、会話の内容に聞き入る。時折気になった単語を呟いては、夜蘭へと情報共有。こうして自然の風を利用することは、風の神の目を持つ洛風の特技のようなもの。腕っぷしが弱い分、多彩な補助を得意とするのが洛風だ。人聞きの悪いように言えば、みみっちいワザだけが身についている、ともいう。

 

「〝モンド〟、〝「淑女」〟、〝騎士〟」

「それじゃ、やっぱりあの子がモンドの栄誉騎士なのね」

 

 若いわ、と、夜蘭が呟く。

 確かに金髪の英雄殿は見目からして随分若い。いっそ幼さすら感じるほどだ。昔よく配達に来ていた猫又の少女を思い出し……彼女は妖怪であるからして、実年齢は違うだろうなと思考を逸らす。

 

執行官(ファトゥス)の方もずいぶん若ぅ見えるなァ。宵宮……いや、トーマと同じくらいやろか」

「ああ、例の想い人さんと、お友達さんのこと?」

「せや」

「君って年下趣味なのね」

「やかまし」

 

 雑談で気を紛らわせようとするも、鬱々とした不安感が漂ったまま消えない。

 さもありなん。なにせ──()から聞こえた騒動によれば、岩王帝君が暗殺された、とのことだから。

 璃月を数千年も支え続けてきた神がそう簡単に暗殺されるものか。あり得ないだろう。

 だが、現実に──帝君は墜ちた。上司たる夜蘭は、混乱し続ける脳を整理させる時間が欲しいとでも言わんばかりに眉を顰めている。彼女の瞳は冷静だが、そこはかとない苛立ちが見え隠れしていた。……いや、苛立ちは表に出ていると言っても過言ではない。夜蘭は分かりやすく舌を打って、不快げにため息を吐いた。

 

 ──と。ここで洛風は(おの)が耳に入った言葉を認識し、ピクリと片眉を上げた。

 

「おお、怖や」

「何ですって?」

「〝公子〟様がな。『璃月じゃ壁に耳ありっていうだろ』……やって」

「……へえ」

「僕の腕、そんなに落ちとりますかね」

「いえ。彼自身、気配に聡いのでしょう。立ち振る舞いからして並大抵の男じゃないわ」

 

 その割に、先日20万モラの箸を買った(ボったくられた)という噂も聞くが。

 武芸に秀でた代わりに金銭感覚が死んでいたりするのだろうか。それとも見目通り若いから、商人に騙されたりしたのか。……どうでもいい思考を浮かべる間に、「公子」は金髪の旅人らを連れ動き出している。歩の先を見届ければ──彼らは北国銀行へと入っていった。

 スネージナヤの機関である()()銀行は、彼らの自治区に等しい。おいそれと中に入って探ることはできないし、ドアが分厚いため中の声を探ることも難しい。

 

「ここまでね」夜蘭は静かに身を引く。「また〝仕事〟があれば呼ぶわ」

「へぇへ。ほなよろしゅう」

 

 影に紛れて上司が姿を消したのを見届け、洛風は欄干にもたれたまま瞼を閉じた。

 ──たった今起きた大事件。璃月民のよりどころであった岩神帝君の崩御。足場を無くしたかのような末恐ろしさが身を襲うことだろう。

 だが、洛風にはこの程度、恐怖ではない。あの日──稲妻に帰れないのだと知った日の絶望に勝るものはないから。

 むしろ。どことなく心が躍っている。

 稲妻に帰れなくなってから二年。かの国の情勢は大きく変わったのだと、うわさで聞いた。璃月に足止めを喰らっている洛風の現況とは違って。……噂はそれだけではない。〝鎖国〟による商業的な硬直に加え、〝目狩り〟という政策により心身に被害を被った人がいるという不穏な話も耳に入っている。

 洛風の想い人もまた神の目の持ち主だ。彼女が被害を受けていなければいいが、と、不安に思う日々は長かった。

 

 噂が流れるということは交易がある。交易があるということは稲妻に入る手段もある。

 そう信じて働くこと幾数ヶ月。ようやく努力が実を結ぶ予感がした。

 

(モンドの〝栄誉騎士〟──あの子なら、大きな波を起こすかもしれん)

 

 糸のような狐目を薄ら開き息を吐く。今度はため息ではなく、期待混じりの深呼吸。

 ──何か状況が動くといいが。そんな期待感を胸に、洛風は踵を返した。

 

 

 ***

 

 

 ……──そんなこんなで。

 

 栄誉騎士こと、金髪の旅人(主人公)。彼女──ないし、彼が璃月を駆けまわって数日。台風の目にも等しい彼──ないし、彼女があっちこっちにいけばどうなるか。

 答えは簡単。仙人も、人間も、悪役(ファデュイ)も、岩神も。上古魔神(オセル)までもが勢揃いの最終決戦を経て、物語(メインストーリー)が進む。

 璃月港の人々の運命を変え、未来を変え。風の国(モンド)の栄誉騎士と謳われた旅人は暴風の如き活躍を魅せる。

 

 そして、本作の主人公たる洛風の人生をも巻き込んだ。

 

「…………」

 

 ざざぁ、と波音が響く埠頭に洛風は座っていた。海風に黒髪が揺れている。ぼさついた髪は身を整える暇すらなかったことを表すようだ。

 洛風は尚も黙る。す──っ、と深く息を吸い、肺をめいっぱい膨らませて。

 

「……──はァ……」

 

 狐目の上はいつにも無くハの字の困り眉。その肩は力なく項垂れ、悲痛な疲労感が垣間見えた。重いため息が風に乗って霧散する。

 ──いやもうほんまにどうしようかな。

 洛風の心境はと言えばこの一言に尽きる。無力感に近い感情の元凶である大量の資材を見下ろして、現実逃避に目を瞑った。

 

 璃月港で仕事──もとい、ごくわずかな暗躍──をしていた洛風は知る由もないが、物語(メインストーリー)が進むということは璃月港が莫大な被害を受けるということである。

 具体的に言えば群玉閣が大被害を受けた。マア群玉閣をぶつけて上古魔神(オセル)を封じたのだから、大被害というよりは爆散と言ったほうが正しいだろう。

 ところで、洛風は夜蘭の部下である。夜蘭は璃月七星の役人であり(年の3割も出勤していないが)、群玉閣は上司の上司の職場、のようなものであった。

 

 職場が爆散するような被害を受けた場合、修理予算が組まれる。不要なモラは切り捨て、必要な個所に回す。

 不要……つまり、夜蘭に拾われた身(外部協力者)でしかない洛風は真っ先に切り捨てられたのだ。

 

「あー…………、…」

 

 唸る洛風の懐に抱えられているのは、退職金替わりの書類──璃月から稲妻に宛てた公的文書。

 要約するとこうだ。

 

 テイワット最古の七神、岩王帝君が崩御された。瑠月港は上古魔神に襲われ、壊滅的な被害を受けている。

 これらの騒動は愚人衆(ファデュイ)の暗躍によるものである。(真実)

 貴公らも注意されたし(警告)。

 尚、以上の文書を届ける通達士、洛風は、文書到達を確認後、直ちに璃月港へ帰港する(嘘)。

 

 まァつまるところ、偽造文書である。

 未だ鎖国状態にある稲妻は正統手段が無ければ入ることが出来ない。そしてその〝正統手段〟に分類されるのが、複雑怪奇な許可を得ることが出来た商人と──国同士の通達士だ。

 

 喉から手が出るほど欲しかった、稲妻に入る方法。退職金替わりに貰うには豪華すぎる。

 が、しかし。先立つものが無ければ物理的に行くことが出来ない。

 今の洛風は一文無しなのだ。だってしょうがないだろう。上古魔神(オセル)絡みの騒動で洛風が借りていた安い借家は吹き飛んでしまったのだから。

 しかも今は無職だし。

 

「……小舟も買えやせぇへん……」

 

 マ、小舟程度で渡れる海なら苦労はしていないのだが。

 洛風は海風に乱れた前髪をわしゃわしゃとかき混ぜ、視線の先を変えた。璃月港から東に位置する孤雲閣を捉える。あそこに停泊している武装船団──南十字船隊に協力を仰げば、稲妻に向かうことが出来るかもという噂だが……。

 

「……は──…、どないしたらええんや……」

 

 モラ無いし。コネもないし。ツテもない。

 洛風は耳がいいのである程度のうわさ話は聞いている。──南十字船隊が開催する武闘大会がある、とか。

 とはいえそんなことなんて知ってどうするんだという話である。

 好成績を残せば南十字船隊の協力を得られるかもしれないが、あいにく洛風は戦いがめっぽう苦手なのである。純粋に腕力が無いし、元素能力の出力が低いのだ。

 その分コントロールは得意だが、技術だけでは戦えない。

 

 無いない尽くし。

 

 数か月ぶりの絶望感に打ちひしがれている洛風──その耳に、小さな足音が届く。

 

「おぉい!」

 

 高い声。おもむろに(ゆっくりと)振り返れば、数日前に見かけた金髪と白い子が手を振りながら立っていた。隙の無い立ち振る舞いの金髪。ふわふわ浮く白い子。……どういう原理で浮いているのかとぼんやり考えつつも、洛風は手を振り返す。

 

「お前が洛風(ルオフェン)か?」と、ふわふわ浮き寄った白い子が問う。

「はぁ、せやけど」

「オイラたち稲妻に行きたいんだ!」

「……??、ええと、詳しく聞いてもええかな?」

 

 突発的すぎる。マァ──絶望感に打ちひしがれていたとはいえ──無職の暇人だ。断る理由もなく、洛中は頷いた。

 自己紹介を挟み……そうして話を聞くこと数分。どうやら彼女らは事情があってテイワットを旅しており、次は稲妻に行きたい、とのことで。

 洛風は顎に手を当て、テイワット地図を脳裏に浮かべた。

 地続きのスメールは……層岩巨淵の事故関係で通れんのやな。

 璃月北から船が出ているフォンテーヌは……沈玉仙茶の収穫時期で立ち入り禁止令が出たとこやったっけ。

 なるほど。納得の旅路だ。

 とはいえ何故わざわざ洛風に聞くのだろうか。わざとらしく表情に疑問を浮かべると、パイモンは慌てたように両手を振った。

 

「洛風なら手段を知ってるかも、って鍾離が言ってたからさ」

「鍾離さん? 知り合いなんや」

「まあ……色々あって」旅人は苦笑いで言葉を濁す。

「ふーん。つまり、鍾離さんの紹介で僕を訪ねて来とうわけやね」

「そうだぞ」

「んん……稲妻に入る名目は用意できるんやけどなあ…」

 

 洛風は腕を組んだ。稲妻に行きたいのは洛風の方なのだが、というみみっちい言葉を飲み込んで、ウンウンと考え込むフリをする。

 いくら英雄として名高いとはいえ、旅人は洛風の胸の下くらいまでの背丈しかない。パイモンに至っては肘から先くらいのサイズしかないのだから、子供である。

 大人としてのプライドと、稲妻への想い。それぞれを天秤に乗せれば、どちらに傾くかは一目瞭然だった。

 

「せやなぁ……」

「何かあるのか?」

「まぁ……。君ら、戦いは得意やったりする?」

「それなりに」

「はは、心強いわ。ほんならいい()を紹介したる」

「いいのか!?」

「もちろん」

 

 わぁ! と、パイモンが大喜びし、旅人も口角を綻ばせている。

 若いのは楽しそうでええなあ、と洛風は老人のようなことを思いながらも、思考はあさっての方へと飛んでいた。

 海に反射した光が煌めいている。旅人の金髪を照らしている。

 薄い金色だ。

 ──宵宮はもっと、真夏のような、鮮やかな色だった。

 

「ありがとう」

「……」

「洛風?」

「、ぁ、……ええよ。どういたしまして」

 

 ストレートかつ純粋な御礼の言葉に瞬き、洛風の反応が遅れる。旅人らは怪訝そうな顔をするが──宵宮(好きな子)を思い出していたと言えるはずもなく。

 

「……何か悪だくみか?」

「んーん。君らとなら上手くいきそうやなァ、て」

「うわ! 言ってることは普通なのに顔が怪しすぎるぞ!」

「ストレートすぎひん?」

「洛風の顔が邪心マシマシなのが良くないんだろ!」

「邪心なんてそんな……あるわけないのに疑うやなんて……」

「あ…、ご、ごめん、」

「……なーんて。アハハ、素直やなァ」

「!?! オ、オイラをからかったのかぁ!?」

 

 パイモンは空中地団駄を踏んで憤慨し、旅人が「パイモンをからかわないで」とジト目で見上げてくる。なんとも楽しいふたりだ。

 洛風は大きく口を開けて笑った。未来は明るい。久々に清々しいような気持ちだった。

 

 

 

 

 洛風と宵宮が再会する、6日前の話である。

短編書き出し予定です。読みたい章を教えてください。

  • 洛風、スメール留学中(出会い前)
  • 無自覚宵宮、洛風と海遊び(鎖国前)
  • 洛風、神里兄に絡まれる(鎖国前)
  • 自覚済宵宮、八重神子に遊ばれる(鎖国後)
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