まだ見ぬわたしの碧色【完結】   作:Yuki_Mar12

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Chapter I 始まりの村 サラメーナ
(1)


 

 

 

 海を見たことがなかった。

 

 海というものについて、わたしは、聞き知っているだけで、実際にその広い水面や、潮風のにおいや、彼方の水平線を、実際に目にするという経験を欠いているのだった。

 

 ある夜、わたしは夢を見た。

 

 ザブザブという音が小さい耳鳴りのように、遠くの方より聞こえ、やさしい音色で、水でも流れているようだった。

 

 わたしは砂場に倒れていて、目が覚めると、まばゆい陽光が目にしみた。日中のようだった。

 

 うつ伏せにぐったりと倒れているわたしは、四肢に力を集中し、重たい体を何とか起こした。

 

 砂場は広かった。砂漠のようだった。わたしは遭難でもしたのかも知れない。絶対に足を踏み入れてはいけないという砂漠に、あるいは好奇心から、あるいは何らかの目的から、立ち入ってしまったのかも知れない。

 

 だが、わたし自身、何が何だかさっぱり分からないという具合だ。

 

 やれやれといった心境で、ボロを着たみっともないわたしは、苦笑いをこぼした。

 

 周りには誰もいない。家族も、友達も、知人も、誰もいない。ひと気が、絶えてなかった。

 

 水の音はまだ聞こえている。

 

 目を瞑って耳を澄ましているわたしはふと、風の涼しい流れを肌に感じ、目を開けた。

 

 ずっと向こうまで、雲を抱く青空まで、砂漠は続いている。

 

 風は、向こうより吹いてくるようだ。

 

 わたしは、風を手掛かりに歩き出した。裸足を砂地に沈めて、上げて、前へと進んだ。

 

 その内、段々と、日が暮れるように、辺りが暗くなっていき、間に合わなかったと残念に思いかけると……

 

 

 

 ――夢が醒めた。眠っていたわたしは、目蓋が開き、朝の来たことを知る。

 

 

 

 藁の感触がチクチクする。着ているボロに覆われていない部分が、藁の尖端に刺激される。藁の布団の、包まれる感覚が、わたしは好きだけど、ちょっとムズムズするのが好きじゃない。

 

 外の朝日が、わたしのいる小屋のブラインドの隙間より漏れてきている。

 

 体をひねり、横を向くと、お母さんの寝顔が見える。安らかだが、目元がたるみ、表情を悪くして、憔悴しているように見せている。

 

 実際、お母さんは憔悴しているに違いない。

 

 ゆっくりと半身を起こすと、地面に漏れる日光が、屋内にぼんやりと反射して、部屋に置かれているものが、色々と見える。

 

 鍬や鍬などの農具に、食器やかまどなどの生活道具。設備。

 

 余り多くは持てない。わたしの家は、そういう家柄というか、立場だからだ。

 

 くわしい時間は分からないけど、多分、早朝なのだろう。いつも、わたしより、お母さんの方が、早く目覚める。

 

 

 

 ――あの後目覚めずにしばらく眠りが続いていたら、夢路を行くわたしは、未だ見たことのない、そして、いずれ見てみたいと思う、海へと、到ることが叶ったのだろうか。

 

 

 

 そう考えて、再び目を閉じてみても、最早あの光景は、わたしの目の前に現れないのだった。

 

 

 

 

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