ある村落、サラメーナに暮らすひとりの少女、クローネは、農奴の娘だった。
農奴の暮らしは貧しく、不自由の多いもので、その影響か、彼女は、どこか現実離れした性格を育んでいるようだ。
クローネを女手ひとつで養う母、ロナは、日々の厳しい労働に献身し、子育てに尽力している。
サラメーナは内陸の村落で、海がない。あるのは小麦畑や、オリーブ畑や、オレンジ園などの農地ばかり。
以前、サラメーナに立ち寄った旅人の話で耳にして、ずっと覚えている、どこまでも広がる水面であるその『海』が、クローネの憧れであった。
クローネは、狭苦しくも息苦しいこの閉鎖的農村を脱けて、外に出て、海というものの姿を自身の目で見に行きたいと、おぼろげに希求する。