サラメーナは、辺境の農村であり、産業が発展しているわけではなく、主となる産業は農業だった。ものづくりを担う職人はいるにはいたが、村民の大半は、わたしとお母さんを含め、領主に土地を借りて耕作する小作人だった。
村に卸売業や小売業などのサービス業はなく、そもそも、物品の交換は基本的に物自体によってなされ、町のように金銭を介して取引を行うことは、ほとんど行われておらず、納税も、物品をおさめることをその手段とした。
村、及び、村と取引のあるいくつかの町村という狭い範囲では、手に入れられる物も限られており、物々交換で商売は間に合っていた。
だが、転機が訪れた。きっかけはあの騎兵たちだった。トニオ村長曰く、サラメーナは、ある城塞都市の交通の便益を図るため、開発される運びとなったようだ。
騎兵たちが村に来て去っていったその日の明くる朝、トニオ村長は話があると村民を招集した。
朝の、これから働きに出かけるという時に、わたし、そしてお母さん、そして他のあまねく村民は、老若男女、広場へと足を運び、村長を前に人だかりを成した。
すでにこの村のことについて、ある程度の情報が出回っており、狭い村中にあっという間に広まり、誰もがサラメーナの展望を何となく知っていた。マークさんも漏れなくいたが、やはり話を耳にしているだろう彼は、どこかシュンとして、生彩を欠いていた。
村長は咳払いすると、口を開き、サラメーナの開発について説明を始めた。
「我らのサラメーナは、長く農耕を主としてきた。そのことは、皆、承知のことと思う。あなた方の多くは田畑を耕したり、果樹園の木の剪定をしたりしているが、父母も、祖父母も、同じことをしてきたはずだ」
聴衆の中には、村長の話に微動だにしない者がいれば、折に触れて頷く者がいた。
「さて、単刀直入に言おう。この村は、開発されることとなった。ことの始まりは――皆も察しが付いていることと思うが――あの騎兵たちである。彼等はわたしに、村を明け渡すように提案した」
明け渡すだって!――と、にわかに憤慨する者が何人かいた。
「わたしはサラメーナの領主であり、皆の生活を管理し、守る立場にある。勿論、二つ返事で承諾したわけではない。だが、現実問題、サラメーナより遥かに大きい都市の意向に、ただの寒村に過ぎない村の長であるわたしが、どうやって逆らうことが出来るのか」
村長――領主は、わたしたちの味方なのか敵なのか、わたしには、断定がずっと出来ずにいる。
わたしたち、農奴は、耕作地を貸与する領主の使用人同然のものであり、生活を支配されている。だが一方で、農産品を作る役目を担わせてくれることで、税としてその一部を献上しなければいけないものの、収益があり、そのお陰で、自活出来ているのだ。村民には、必ずしもトニオ村長に反感や恨みを持つ者ばかりではなく、むしろ好意を抱いている者がおり、更に言えば、好意を抱いている者の方がより多くいる印象だ。
わたしが、しばらく悶々と考えていると、村長は、スピーチの続きを始め、わたしたち聴衆をギョッとさせる発言をした。その声は、気持ち大きく、また、その声色には、隠しきれない動揺が聞こえる気がした。
「今日、この日、この時をもって」、と村長。「わたしは、サラメーナの解散を宣言する」
春の空はスカッと晴れていたのに、何か雷でも落ちたかのごとき衝撃が、わたしたちのもとを轟然と襲った。