村長の話は、わたしたちの村、サラメーナが、最早わたしたちのふるさとではなくなることを決定付けた。そのやり方は、あまりに出し抜けで、あまりに強引で、あまりに冷血だった。
わたしは頭が真っ白になり、お母さんも、青褪め、他の何人かのひとたちも、動揺を隠せなかった。
中には、やはり突然の告示に衝撃を受け、憤るひとがいて、そういうひとが呶鳴り声を上げ、物凄い形相で村長に掴みかかろうとすると、物陰より、鎧をまとって見慣れない威容の兵士が現れて、実力で捻じ伏せ、その光景を見ていたわたしは、トニオ村長が、彼等に仲間入りし、守られることと引き換えに、わたしたち村民を売ったのだと、何となく確信されてくるようだった。
全体を俯瞰してみれば、成るほど、村長は、今までずっと、わたしたち農奴、及びサラメーナの労働者の保護者であり、また、管理者であり、身内同然だったが、あることをきっかけに、心変わりしたのだ。
村長の近くは暴動を起こそうとする村民と鎮圧しようとする兵士たちで荒々しい状況となり、わたしはお母さんに引いて連れられた。10人くらいの大人しい気質のひとたちも、わたしたちと固まって移動した。
怒声が聞こえなくなるくらい遠いところのジャガイモ畑まで来ると、わたしたちは、誰ともなしに足を止め、その場で形の崩れた輪を成して、沈んだ顔を合わせた。
「わたしたち、これからどうすればいいのでしょうか」
と、女のひとが口にする。
「どの道、農奴の身分なんて元々安泰じゃなかったんだ。こうやって追放されるのは、決して異とすることじゃない」
と、男のひとが投げ槍といった調子で言う。
「だけど、ひとっていうのは、こうまであっさりと簡単に、裏切りなど出来るものなのでしょうか」
「おれはこう推測するが、きっと、よその連中に、誘惑されたのさ。村長――否、あのオヤジが、土地の開発を認める代わりに、新しいサラメーナでの身分を保証するとか何とか、そういった口説き文句で」
わたしは、そしてお母さんは、口を噤み、じっと、輪の中で交わされる論じ合いに耳を傾けていた。
「新しいサラメーナでは、わたしたちは不要なのでしょうか」
「不要だろうなぁ。どこかの都市の交通の便益のためにサラメーナは変わるっていう話だ。宿場町にでもなるのだろうよ。田畑も果樹園もひっくり返して、その上に建物を建てるのさ」
「まぁ、ひどい……!」
「まったくさ。くたばればいいのに、あのオヤジ」
「これから、皆さん、どうなさるおつもりですか。何か企てはおありですか」
と、それまでしゃべらなかった男のひとが、ひどく淡々とした口調で輪の全体に問いかける。
「おれは」、と男のひとが言う。「とりあえずこの村を出ていく。放浪して、新しいところを探すさ」
「えぇ」、と女のひとが相槌を打つ。「そうするしかないでしょうね」
“放浪”その言葉をふと耳にして、わたしは頭がズキンと痛む気がした。
放浪とは、旅に出てさまようことだ。
男のひとは、放浪するといった。わたしたちは、土地を逐われる悲しい身となったけど、ということは、わたしたちは、晴れて耕作地に縛り付けられた農奴という身分より解放されて、自由になったのだ。
喜ぶべきことではないという戒めが、わたしをたしなめる。だが、状況は案外、最悪ではないのかも知れない。
そっとお母さんを瞥見してみると、お母さんは、ずっと険しい沈んだ表情でいる。
この状況を、わたしはどう受け止めるべきなのだろうか。