地図がない。公共の道路を出来る限り利用しない。昼日中はひっそり息を潜め、夜間に前進する。
以上の条件を踏まえた上での旅は、わたしたちにとって、率直に言って過酷だった。ただでさえ、道のりの分かりにくい未開発地を通行しないといけないというのに、暗夜の闇を照らすのは、小さい手持ちランプの薄明りだけなのだ。
苦労の割に成果の少ない旅を続行するのは、心身共に負担が余りにも大きすぎ、森の中、小川に沿って進むわたしたちは、ひとまず、夜明け頃、川辺の開けたところに寄って、休息を取ることにした。
地平線より日が昇りだしたのだろう、森を染めていた闇の色が、黒より、藍色へと変化していく。
「ここで休みましょう」、とサリーさんがランプを地面に置いてしゃがみ込む。
皆、目の下にクマを作っており、慣れない徹夜を連日することで、消耗していた。
皆、サリーさんの呼びかけでそれぞれ太い木の陰に入り、幹に背を持たせて座った。あっという間に寝てしまうひとがいれば、何か考えるように一点を睨むように見つめているひとがいた。
「なぁ、サリーさん」、とマークさんが口を開く。「この旅、いつまで続くんだ?」
「……断定的には何も言えません」、とサリーさん。「とりあえず、人里に着きさえすればいいのですが、いかんせん、道のりが見えないものでして」
重い沈黙が辺りを覆う。
「わたし、もう疲れちゃった」、とひとりの女のひとがか細い声で呟く。「これからのことを想うと、寝るに寝られないわ」
「辛抱するにしたって、終わりが見えれば頑張れるんだが……」
マークさんが言って押し黙るが、お母さんが、「サリーさん」、と、会話に割って入る。
わたしとお母さんは、一本の木のそばで楽にしていた。わたしは、ウトウトとして、後少しで話を聞き流すことになりそうだ。
「夜中に旅をするのなら、街道を使っても、別に大丈夫なんじゃないかしら。夜中に出歩くひとなんて、限られてると思うわ。わたしたち旅人か、人目を忍んで生きる賊か」
「賊が現れたら、ぼくがやっつけますよ」、とマークさん。「こう見えても、ぼく、サラメーナではガードマンだったんです。この行き方じゃ、埒が明かない。ぼくも、ロナさんの意見に賛成です」
「マークさん……」
風向きは、旅路の選択を改めるという方に向いているようだった。
会話に積極的に参加しないひとたちは、特にその意見に反対するわけではなく、サリーさんの判断に委ねるという感じだった。わたしも含め、多くの人は夜中の旅にすっかり参って疲れていたので、早く休眠したいようだった。
わたしの中で、ずっと追い求めている海の情景は、旅に出て以後、近くなることはなく、むしろ、何となく、遠ざかっていっているように思われた。疲労困憊して、想像力が貧しくなっているせいだった。
藁は村外にはなかった。寝る時に寝具はなかった。藁が恋しい。だけど、村には決して戻れない。
甘い懐郷と厳しい現実とに、まだ13歳に過ぎないわたしの心は、引き裂かれていた。