まだ見ぬわたしの碧色【完結】   作:Yuki_Mar12

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 森の中での邂逅は、衝撃だった。

 

 そこに存在しないはずのものが存在しているという意味では、鎧を装備した兵士を引き連れて目の前に立つサラメーナのトニオ村長の姿は、幽霊のごときものであった。

 

 兵士たちの面立ちは闇にまぎれてほとんど見えないが、生気を感じず、友好的と見なすには、あまりにも冷淡そうだった。

 

 サリーさんの携行するランプのあかりと、トニオ村長の携行するランプのあかりとが重なって、対峙するわたしたちの間は明るかったが、何かドス黒いものがうっすらと、漂う空気中に滲んでいるようだった。

 

「おやおや、村を出ていかれた方々が、夜更けの森などで何をしておられるのですか?」

 

 村長が威圧感を伴った怪しい笑みを浮かべて尋ねてくる。

 

「そちらこそ、何を目的にこの辺りをさまよっておられるのですか?」

 

 彼のプレッシャーに負けじと、サリーさんが尋ね返す。だが、彼女の手は、怯えからか、微かに震えていた。

 

「――トニオ村長!!」

 

 そう言って、わたしたちを掻き分けて、サリーさんを押し退けて彼と面と向かったのは、マークさんだった。

 

「マーク」、と村長は呆れたように言う。

 

「村は、どうなったんですか?」

 

「ずいぶんとすっきりしたものだよ。君等がいなくなってくれたおかげでな」

 

「なぁ、村長。おれたちを村へ返してくれませんか? おれたち、行き先が分からないんです」

 

「今更、君等が戻ってこられる余地など、サラメーナにありはしない。君等、労働者は、お役御免だ」

 

「……ふざけんなッ!」

 

 マークさんが物凄い勢いで村長に迫り、胸倉を掴み上げると、至近距離で睨み付けた。

 

「皆、領主のあんたに服従して、ツラい仕事だって我慢して頑張ってずっとやってきたんだ。そこまで奉公した村民を、どうしてあっけなく放棄するなんてことがアンタには出来るんだ? 血も涙もないのか?」

 

「あぁ、その通りさ」、と村長はやはり笑む。「金がその代わりに手に入るとするなら、貴様等のごとき奴隷なぞ、冷酷無比に、さっさと手放してくれるわ」

 

 とても荒んだ空気が充満してきており、何となくわたしは胸苦しかったし、他のひとたちも、居心地が悪そうに見えた。

 

 出会わなければよかったのに、とわたしは残念に思った。村長たちは、わたしたちの行く道を、すっかり意地悪に阻んでいる。村長はわたしたちを棄てたのであり、一方でわたしたちは、棄てられたことは不幸であったけど、そのお陰で、解放され、今は自由の身のはずだった。

 

「残念だよ。マーク」と、村長が胸倉の彼の腕を握って言う。「わたしたちが、なぜこんな遅い時間に森をさまよっているのかと言えば、その理由は……」

 

 村長が顎をクイッと、何か指示を出すように上げたかと思うと、後方の二人の兵士が腰の剣を抜き、マークさん及びわたしたちが――一瞬の間に――ことの次第を察するかしないかの内に、二本の剣が、マークさんの胴体を貫いて、背後で交差した。

 

 息が止まる気配がした。

 

 マークさんは背中を引き攣らせた後、ピタリと動かなくなり、村長の胸倉にあった手は、ダラリと崩れ落ちた。

 

 剣が引き抜かれ、見るも無残なるふたつの血だらけの風穴が彼の体に空き、その場にバタリと斃れた。

 

「村の開発には……」、と村長が胸元の乱れを直して言いかける。「村内のみならず、周縁の治安まで配慮しないといけない。賊などがいれば、村に悪さをしないとも限らない」

 

「……キャアアアアア!!」

 

 サリーさんが錯乱したように金切り声を上げて取り乱し、ランプを足元に投げ捨てた。

 

 すると、わたしたちのあかりは地面にガラスの破片と共に落ち、その場で弱弱しく燃えていたが、すぐさま全力で逃げ出すことを、わたしたちは敏活に、危機感と共に察せざるを得なかった。

 

 目の前に現れた、かつては村長だった凶漢は、わたしたちに対しては、ただの殺人鬼であって、彼の指示で、背後の兵が動き、ぼんやりしていれば、わたしたちは皆殺しの憂き目に遭ったに違いない。

 

 わたしより、お母さんの方が、反応が早く、眠気や驚きや怯えなどでぼんやり寝ぼけたようになっていたわたしは、お母さんに腕をグイと引っ張られ、ほとんど引きずるようにして、どこかへ連れていかれた。

 

 あらゆる茂みを抜けていき、わたしは、体中に、枝の尖端や鋭い葉で切り傷、擦り傷を作った。

 

 あかりを擲って、暗闇の中を、出来るだけパーティがバラバラにならないように、周りの気配を頼りに一散に駆け抜けたが、きっと、メンバーの内何人かは、いなくなっているに違いない。

 

 だが、わたしたちは、今はとにかく遠くへ――出来る限り遠くへ、逃げ果せなければいけないのだった。

 

 

 

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