まだ見ぬわたしの碧色【完結】   作:Yuki_Mar12

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 夜闇にすっぽりと包まれた森で、しかもランプがないという状況で、周囲の状況を認識するのは不可能だった。自分の足元さえ、見えないのである。

 

 そういった中で、わたしとお母さんと、他の何人かは、追手の凶刃を逃れるため、死に物狂いで、闇中(あんちゅう)を走り抜けた。

 

 いかんせん、視界が暗いせいで距離感が分からず、どれだけ走っても、まだ後ろを付けられているのではないかという怖れが払拭し切れないため、足を止めることが出来ず、また、周りのひとたちが走っている以上、自分も走り続けなければいけないという義務感や連帯感などがあって、結局夜通しクタクタになるまで、わたしたちは走り続けた。

 

 わたしは、元々あった眠気など、完全に恐怖と危機感で吹き飛び、生き延びることに全神経を傾注した。

 

 各自がそろそろ足を止めてもだいじょうぶだろうと思えるようになる頃には、すでに辺りは白みだしていた。

 

「ハァ、ハァ……皆さん、いらっしゃいますか?」

 

 先頭のサリーさんが、肩で息をし、汗ばんだ額を拭って、わたしたちのいる後方を首だけで振り返り、問いかける。

 

 わたしとお母さんと他のひとは、揃って辺りをキョロキョロ見回す……最初いたのに、いなくなってしまった人が何人かいるようだった。

 

 自己紹介し合ったばかりで顔と名前を記憶しているばかりに、離散してしまったことが悔やまれた。

 

 何より、わたしが最もツラかったのは、マークさんのことだった。落ち着いたら、一緒に海への旅に出ようと誘ってくれた彼が、まさか殺されてしまうなどと、わたしは思いも寄らなかった。だが、メソメソと悲嘆に暮れることは、状況がまだ許してくれなかった。

 

「……先へ進みましょう」

 

 深夜の森の中は、木々の呼気のせいか、心なしかジトッと湿っていたが、日が昇り始めたことで、徐々に湿度は下がっていっているようだ。

 

 もはや、夜動いて朝日の上昇と共に眠るという最近の習慣は守られず、ちょっとでも先へ進み、展望を得たいというわたしたちの思いの合体したものが、強迫めいた動機付けとなり、体力の消耗を物ともせず、各自の足を運ばせた。

 

 鬱蒼とした茂みを抜けると、わたしたちは再び街道へと出、早朝の街道は、ひと気が絶えてなく、ひっそり閑としていた。

 

 しばらく歩いていくと、空気の質が変わったというか、何か鼻に入ってくるにおいが変わったという感じがあり、ひとの気配がし、わたしは、しょぼついた目をゴシゴシと腕で擦ってみると、縹渺と立ち上る細い煙を見た。

 

「見て」、とお母さんが遠くを指さして言う。「白煙よ」

 

「確かに見えますね」、とサリーさん。「もう少し進んでみましょう」

 

 緩い上り坂を歩いていき、下りに差し掛かる箇所で、わたしたちは、遠くを見晴るかす。すると……

 

「見て、町だわ」、と女のひとがにわかに活気付いたように、高い声を上げる。

 

「ホントだ……」

 

 ジワ、と涙が、わたしの頬を伝って流れた。温かい涙だった。悲しいかというと悲しいし、嬉しいかというと、嬉しくもあった。人里にようやく辿り着いたという安心感。苦労が報われた喜び。失われた仲間たちへの回想。マークさんへの哀悼。

 

 小高い傾斜地より、名前の知らない町の外観が見下ろされる。ずっと向こうは木々が点々と生い茂り、森というほどでは全然ないけれど、眩しい朝日の方まで続いている。

 

 わたしたちのいたサラメーナのように、田畑があるが、一方で、しっかりした建物があり、あの町は、サラメーナより発展したところのようだった。

 

 風が、わたしたちに対し、横から吹いてきた。わたしたちの髪、衣服はその風に煽られて、揺れたりなびいたりし、ふと空を仰ぐと、鳥がさえずりと共に飛翔していく悠々たる姿が見えた。

 

 

 

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