教会かどこかの鐘の音が響いたのは、鶏の鳴き声が上がってから、しばらく後のことだった。
朝日が昇り、辺りはすっかり明け渡った。
「おい」、という呼び声が遠くよりした。
さっきやり取りをしたメイローゼの番兵が、花畑へと、わたしたちを呼びにやってきたようだ。
「お前たち、もう町へ入っても構わないぞ。朝の時鐘が鳴ったからな」
「そうさせて貰います」、とサリーさん。
わたしたち一同は、旅の後、地べたでずっと待たされ続けていたので、いい加減うんざりしていた。たった数日間だけど、人間らしい生活とはかけ離れた生活を送っていたわたしたちは、わけのわからない木の実や川水などではなく、調理された料理と汲まれた井戸水を求めていたし、野晒しの木陰ではなく、壁と屋根に守られたところでの睡眠がいたく恋しかった。
ようやく人里に到着し、その中に入ることが出来ると、わたしたちがそれぞれ、喜ばしい気持ちで続々と立ち上がると、わたしたちの他に、わたしたちに遅れてメイローゼに到着し、入ろうとする一行が現れた。
番兵がその姿を目にした途端、姿勢を正し、敬礼した。
「お帰りなさいませ、長官殿」
現れたのは、乗馬した数人の男のひとたちだった。装備をまとい、兵士のように見える。全員、鼻の下に豊かにヒゲを蓄え、威圧的で、また凛々しくもある顔立ちをしている。
「あれ見て、クローネ」、とお母さんに背中をポンと叩かれる。「ウサギよ」
一人の兵士が手にウサギを何匹か、耳でまとめて持っている。
「後で食肉にするのね。きっと狩ってきたのよ」
屠殺されたであろう白ウサギは、皆、目を瞑ってぶら下がっている。
「夜警の番、ご苦労」、と兵士の内、一番強そうに見える者が労う。
「祝着に存じます」、と番兵。
「そこに並んでいるのは、いったい何者なのかね?」
「旅の者なのですが、えっと……」
番兵が、わたしたちの出身の村名を言おうとするが、失念してしまったようだ。
「サラメーナの者でございます」、とサリーさんがうやうやしく答える。
「サラメーナ。あぁ、森の向こうの……」
「ご存知なのですか?」、と別の兵士が訊く。
「いや、名前だけだ。これといった関係性がないものでな」
「わたしは、先へ行かせて貰います。失礼」
と、ウサギを持った兵士が、一言断りを入れ、その場を去り、町へ向かって馬に蹴りを入れ、疾駆させた。
わたしは、走る馬に合わせてユラユラ揺れるウサギたちの“束”を、何となく寂しい思いで見送った。
「サラメーナの者らよ」、と兵士。「何をしにメイローゼに来た?」
「実は……」
サリーさんが、ことのあらましを説明する。サラメーナに訪れた変転のこと。
兵士と番兵が、半ば興味を持ち、半ば上の空で、話を聞く。
「成るほど」、と兵士が、説明の後、納得したように言う。「大方の事情は察せられた。お前たちは村をおわれ、生き延びるために辛くも辿り着いたのが偶然この町だったわけだ。同情はするが、お前たちの生活の保障は確約出来ない。とにかくこの町の長と顔を合わせるがいい。我々はそういった話を聞く役回りではないのだ」
そう言って、兵士は番兵に挨拶すると、馬を走らせ、去っていった。
後にはうっすらと砂埃が舞った。
「そういうわけだ」、と番兵。「とにかくガベラー殿と面会しないことには、お前たちはずっと放浪者の余所者なんだ。ここの住民になりたいのなら、殿下に直接話し合いに伺うことだ」
サリーさんはコクリと頷き、その面持ちは、緊張の色を帯びていた。
まだ安らいでいい時は来ていない。
ひょっとしたら、受け手がなく、わたしたちは追い返されるかも知れないし、よしんば働き口が見つかっても、また奴隷同然の自由のない生活を強いられるかも知れない。旅の選択を迫られることになるかも知れない。
話し合いの代表は、もちろんサリーさんということになるだろう。わたしたちにも力添え出来ることがあれば、したいものだが、果たして、わたしたちにどういうアピール材料があるというのだろう。
うまくことが運べば、いいのだが……。