初めての町、メイローゼの中央部にある、樹木に囲まれた、切妻屋根の石製の建物まで、番兵はわたしたちを案内してくれた。道中、町のひとにジロジロと見られ、サラメーナと同様、旅人というのは興味深い対象のようだ。
やけによそ者に対して面倒見がいいのは、番兵自身が、嘗ては外部より移り込んできたよそ者で、共感出来る部分があるからという事情があるようだったし、また、朝の時鐘までわたしたちがじっと根気強く待っていたことが、好印象を与えたのかも知れない。
石製の建物は尖塔をひとつ備えており、これがメイローゼ城であり、この町の政治の中心というわけだ。
番兵は、警備の交代の時間になった、自分は早く休みたいなどとボヤき、眠そうにあくびをすると、別れを告げて去っていった。
サリーさんが、「行きましょう」、と言い、十字の聖紋を掲げた木の扉をいささか重そうに開け、入城し、わたしたちが後に続く。
「――何者だ」、と、わたしたちが入るなり、渋い声がする。「まず名乗り、そして用件を申せ」
城のエントランスの隅に、衛兵と思しき男がひとり、入城者の死角になるところの椅子に座っており、思うに、城を出入りする者を監査しているのだろう。
「わたしはサリーと申しまして、同行者共々、サラメーナという小村の出身にございます。旅をしてメイローゼまで参りました。この度は、ガベラー殿に仕事と住まいをご紹介頂けないか、お聞きしに参りましたのですが……」
衛兵は相槌を打ってサリーさんの話を聞き、特に異とするところはないようだ。
「成るほど」、と彼は納得する。「お前たちの経てきたことは、何となく察しが付いた。殿下への謁見を認めよう。だが、殿下は今、公務の最中だ。しばしの間、待っておれ」
――また待ちぼうけを食らうのか、とがっかりする空気が、わたしたちに共有された気がした。
城を出、その辺の物陰に揃って寄ると、わたしたちは、憮然とくつろいだ姿勢になった。
「手続きが煩雑ね」、とお母さんがプリプリしてボヤく。「二度もヒマ潰しをさせられるなんて」
「仕方ありませんよ」、とサリーさん。「わたしたちは身分不詳の流浪人ですし、向こうが警戒するのも無理はありません。むしろ、身分不詳のわたしたちを邪慳に門前払いせず、話を聞いてくれようとする姿勢を見せてくれるだけで、とてもありがたがるべきと思います」
「そうかなぁ……」、とお母さんは憤りが治まらない様子だが、ふと、グゥゥ、と間の抜けた音が鳴った。
誰かが空腹みたいだ。
ひとりの女のひとがお腹を押さえ、苦笑を零す。だが、腹の虫はパーティーのメンバー全員に取り付いているみたいで、そういえば、昨夜から走りっぱなしだったにも関わらず、ずっと飲まず食わずでいる。
空腹を自覚すると、血圧が急激に下がったかのように、にわかに気が遠くなった。
「――失礼ですが」
と、誰かがあまり目立たないところにいるわたしたちに声をかける。
見たことのない男のひとが、やや遠くに立っていて、その距離感は、何者か知らず警戒はするけど、用件があって仕方なく話しに来たという印象だった。
「”リベルタ先輩“の差し入れです」
「リベルタ先輩……? 一体どなたのことでしょう」
サリーさんが対面し、差し出されたものを受け取る。
用件が済むや否や、男のひとはそそくさと立ち去った。
「何でしょうね、これ」、とサリーさんが、手の上の物を見せる。
広い器に布がかけられている。何か入っているのだろう。
布を除けると、中には、目を見張るものがたくさん入っていた。焼いた肉片に、果物のカット、大きい木の実に、丸パン――調理された食べ物だった。
「リベルタって」、と、わたし。思い付く人物がいた。「ひょっとして、あの番兵さんのことじゃない?」
「あぁ、そうかも」、とお母さんが、同感したように言う。
「ありがたいですね。皆で分けて食べましょう」
サリーさんがそう言い、パーティーのメンバーに均等に器の中身が行き渡るように、分け分けしていく。
全員のもとに食べ物が配分され、器が空っぽになり、あっという間に、皆平らげてしまったが、一定の満足感があり、まだ決着していない重要事項が複数残っていたが、ひとまず、ようやく人心地が付けるという感じだった。
時が来れば、誰かが呼びに来てくれるだろう。そういう予想で、とりあえず、わたしたちは、緊張と疲労とで消耗し切った体を、待ち時間中、休ませることにした。