わたしたちが城の近傍でしばらく休憩した後、兵士がひとりやってきて、代表者を問うた。城主ガベラーの公務の区切りがひとまず付き、謁見の許可が当人より下りたのだという。
代表者として、ふたり寄越すように仰せ付かったようだ。
ひとりは勿論、サリーさんだが、後一人を誰にするか、考えないといけなかった。
「早く決めるように。殿下は御多忙なのである」
兵士が、淡々とそう警告する。
お母さんは、難しい話は分からないと積極的に断り、他のひとも、似たり寄ったりだった。
埒が明かないとサリーさんは、パーティーのメンバーをザッと見渡すと、最後にわたしに目を留めた。
「クローネちゃん。あなた、来ない?」
「わたし……?」
「クローネは」、とお母さんが呆然として口を挟む。「連れていっても、これといって何も出来ません。むしろお邪魔になるだけかも知れません」
「嫌ならいいの。けど、もし平気だったら、わたしに付いてきて欲しい」
「……」
その場で黙然と、考えてみた。何をしに行くのか、ほとんど予想さえ出来なかったが、この町のいちばん偉いひとに会いに行くという話だ。
偉いひとは、色々知っている。だから、ひょっとすると、海に関して、何か知っていることがあるかも知れない。
そういう風に考えてみると、わたしは、元々お母さん同様、気乗りしなかったのだが、段々と行ってみてもいいという気になってきた。
「わたし、行く」
そう、わたしが決心して言うと、お母さんを始めとして、皆、驚嘆で目をみはったようだった。
「クローネちゃんは、何もしなくていい。ただ付いてくるだけで大丈夫」
そう言って、サリーさんが緊張を和らげようとしてくれる。
兵士は、代表者が決まったと見ると、後に付いてくるよう、指示し、わたしとサリーさんは、彼の背を追った。
十字の聖紋のある扉を再び通って入城し、ずっと兵士――思うに従卒なのだろうその後ろ姿にくっついていく。
通路を行き、階段を上り、やがて、大きい扉の前へと来る。やはり十字の聖紋をてっぺんに掲げており、ただの部屋ではないという雰囲気を強く感じさせる。両脇には衛兵が立っていて、警備は万全という具合だ。
コンコン、と兵士が扉をノックし、返事を確認すると、ゆっくりと扉を開く。
「入るがよい」、と先に入室した兵士が、扉の付近で立ち止まると、そう言ってわたしたちを中へと促し、わたしたちも、彼に続く。
城主の部屋は、荘厳であり、同時に簡素だった。ずっと向こうにある玉座まで赤い敷物が敷かれており、大きく高い、意匠の細かいアーチ窓が玉座の両側にあって、室内へと豊かに採光している。
玉座には、男がどっしりと座っている。彼は、褐色の肩ほどまである髪を後ろに撫で付けており、豊かにヒゲをたくわえている。鼻が高く、眉間には深い皺が刻まれており、表情を険しいものにしている。年は、お母さんとだいたい同じくらいだろうか。太ってもいなければ、痩せてもいない。彼は、特に綺麗でもないありふれたチュニックを着ているが、腰に巻いている真紅の布が、その位の高さを明示しているようだった。
「朝から配下の者たちと打ち合わせし、指示を出すなどしていたのだよ。さぁ、わたしがガベラーだ。近くへ来たまえ」
彼は、何ともざっくばらんに話す人柄のようだ。
サリーさんが一礼し前進すると、わたしも彼女に続いていき、面前で拝跪した。
「移住者は、リベルタを始めとして、前例がある。ことのあらましはすでに耳に入っている。だが、お前たちの口から、改めて直接、事情を聞こうではないか」
――請われて、サリーさんは、何度か話したことのあるわたしたちのサラメーナを発端とする一連の過程を、改めて説明した。
ガベラーさんは、相槌を打って聞いてくれている。
わたしたちはこのようにして、つまり、身の上相談を持ち掛けに来ているわけだが、果たして、目下放浪者であるわたしたちは、この町に居着く名分を得ることが出来るのだろうか……。