わたしたちに漫然とブラブラする余裕などなかったので、この町の統治者であるガベラー氏への謁見のことを城外で待っている他の皆にサッと伝えた後、即、彼に勧められたように、メイローゼの商工組合へと足を運ぶことに話が決まった。
商工組合の本部であるギルドハウスは、城の近くの通りに面しており、勿論、城には到底及ばないが、そこそこ大きい施設だった。木の骨組みが露見している建築が特徴的だった。
ギルドハウスにあるギルド、すなわち同業者組合は、何種かあって、建物を建てる建築業のギルドがあれば、道路などの公共物の補修など担う整備業のギルドがあり、様々あり、そのバリエーションを見ると、メイローゼの発展の度合いがおのずと推知されるというものだ。
中には農業ギルドもあり、しかし、わたしたちの多くは、新しい仕事を求めた。皆が農作業の経験者だが、しょせん奴隷の労役としての経験に過ぎず、追い出される形ではあったが、ふるさとを発って新しい生活を開拓しようという志を持っているわたしたちは、因循姑息を忌み嫌い、やはり新しい、元々やっていたものとは異なる職種を望むのだった。
ところが、ギルドハウスに勤めるそれぞれのギルドの代表である親方に聞いて回ってみても、未経験者はお断りということで、つっけんどんに求職を断られたし、農業ギルドに行くように促された。
農業ギルドの地主に尋ねれば、確かに人手の募集があった。
だが、小作人ばかりだった。小作農といって、他者の土地を借りて耕作する下級の農業従事者だ。
わたしたちが、では、小作人になることを受け入れるとすれば、状況は農奴としてサラメーナにいた時とほとんど変わらないことになる。それは、わたしたちの旅の意味を否定するものであるし、わたしたちの変化への意志が強くなかったという悪しき証となってしまう。
就労の決定を保留にして、わたしたちはひとまずギルドハウスを出た。
「どうしましょう」、とサリーさんがひとり、呟く。「せっかく新しいところへ辿り着いたというのに、また小作農に手を出したら、元の木阿弥だわ」
「そうね」、とお母さん。「けど、世の中こういうものなのでしょうね。何も分からないひとをあえて雇う理由なんてないもの」
わたしたちは、沈んだ雰囲気の中、口を噤んでいたが、ひとりの男のひとが声を上げて駆けてき、皆で振り返った。彼はパーティーのメンバーのひとりで、彼ひとりだけ質問したいことがあって、ギルドハウスにしばらく残っていたのだ。
「お帰りなさい」、とサリーさん。
「ちょっと聞いてきたんですが、必ずしも、お払い箱っていうわけでもないみたいですよ、俺たち」
「どういうこと?」、とお母さん。
「何人かの親方の話では、徒弟としてなら、雇用しても構わないそうです」
「徒弟とは、何ですか?」、とサリーさんが率直に訊く。聡明である彼女にも、未知のことがあるというわけだ。
「徒弟っていうのは、職人の末端――いや、職人以前の雑用で、仕事に習熟するまでは無給なんですって」
「無給って、どうやって生活していくのよ」、とお母さんが失笑する。
「さぁ、そこまでは分かりませんが、新しい職種への門戸が閉ざされているわけではないことが確認出来たのは、おれは、取りあえず収穫だと思いますね」
「ありがとう。ためになったわ」、とサリーさんが礼を述べる。
「お母さん」、とわたしはふと思いついたことがあって呼びかける。
お母さんは、わたしの方を見て、小首を傾げる。
「今日、わたしたちはどこに泊まるの?」
その言葉を吐いた後、お母さんは眉をひそめ、渋面を呈した。
まずいことを聞いてしまったようだと直後にわたしは悟ったが、聞かないといけない重要事項だった。
仕事をどうするかという問題。そして、寝泊まりする――一日二日だけでなく、永続的に寝泊まりする、衣食住の揃った環境をどうするかという問題。
そのふたつが、当座の喫緊の課題であり、更に難題でもあった。
わたしは、憧れの海へ、いつになれば旅立つことが出来るのだろう。
めくるめく状況に振り回されるばかりで、わたしの夢は、その混沌の中に、沈み込んで消えていきそうだった。