わたしたちの新しい故郷、メイローゼと、わたしたちの古い故郷、サラメーナとは、戦火を交えることとなった。
こういう形でサラメーナと関係性を持つことになるというのは、やはり心苦しいことだったが、覇権争いの激しい世の趨勢を鑑みれば、戦争が起こるのは当たり前だし、メイローゼとサラメーナを隔てる距離は、所詮、わたしたちが数日要したほどのものに過ぎず、決して遠くはないのだった。
再び元のパーティーへと戻ったわたし、お母さん、サリーさん、その他の人々は、普段暮らしている農業ギルド所管の集合住宅の、サリーさんの部屋に集まって、とりあえず話し合いの場を設けることにした。
ひどく暑い晩夏の日和で、肌という肌が汗ばみ、喉がよく乾いた。あるいは、汗には冷や汗がまじっていたかも知れない。
「まさかこういうことになるだなんて……」と、サリーさんが拳を口元に添えて呟く。
わたしたちは、輪を成して部屋に座った。同じ住宅の部屋なので、サリーさんの部屋が、わたしたちの部屋と特別違うということはなく、個人の荷物や道具などの他は、似通った家具調度と、くたびれ具合だった。
「だけど」、とお母さん。「サラメーナが、ああいう形でよそに乗っ取られた以上、そう遠くないところにあるこのメイローゼが、ずっと無風地帯に安んじていられるというのは、無理があるわね」
「まだ春しか過ごしていないというのに」、とひとりの男性。
ふと、ドンドンと扉を乱暴にノックする音が聞こえ、一同がビクッとなり、今発言があった男性が応対のために立ち上がって扉を開けに行くと、依然としてサラメーナとの共謀を疑う不安感の強い町民が外にいて、文句を言いたげだった。
「お前たちが敵と通じているんだろう!」
「あぁ、ハイハイ。詳しいお話は外でさせていただきます。今、部屋は取り込み中なので」
彼は渋々、疑り深い彼等の誤解を解き、納得させるつもりのようで、わたしたちへと意味深に目配せすると、扉を閉めて出ていった。
「誤解が解けたらいいね」
わたしがポツリと、呟く。
「戦争と聞いて皆、不安になってるんでしょうね」、とサリーさん。「その不安を慰めるために、わたしたちは恰好の的なのでしょう。何せ、戦争で争うことになる敵地の出身者なのですからね」
「勝手に不安のはけ口にしないで欲しいわ」
と、お母さんが憤然と吐く。
「わたしたちは、どうやって今回の戦争に携わればいいのでしょう」
とサリーさん。
「携わるって、わたしたちは何かしなくちゃいけないわけ?」
と、ひとりの女性。
「あの兵士が、会戦の地は、近傍の平野だと言っていました。戦争している間、わたしたちが日常生活を送るというわけにはいかないでしょう。何らかの形で、自軍のバックアップを担わないと」
「戦争……」、とお母さんが憂わしげに呟く。「勝てばいいけど、負けたら、わたしたちはひょっとすると、また、居場所を逐われて、あてもなく旅することになるのかしら」
「きっと、そうなると思います」
サリーさんのあっさりした肯定に、わたしはまた胸が悪くなるようだった。
「わたしたち自身が前線に赴かないといけない事態にならないとは限りません。最悪、武器を持って少々荒っぽい真似をせざるを得なくなるかも知れません」
「嘘でしょう……」
お母さんが絶望し、他のひとたちも――大半が女のひとだったが――同じように、シュンと虚脱感に襲われたように、項垂れた。
わたしには、これから何が起こるのかという実感がなく、想像が湧かなかった。
わたしの頭に常にあるのは、やはり海の情景であり、今回の戦争の話を耳にしたことで、海の情景の前景に、武装した兵士の姿や、砂埃の舞う戦場のイメージがまざまざと浮かび、わたしに不安を覚えさせ、率直に、不愉快だった。
「戦争の時代が来たのです」
サリーさんの、確信を持って言われたその言葉が、わたしを始めとして、他の人々の胸に、苦痛を伴って、深く突き刺さったようだった。