兵士に混ざってする戦闘の訓練は、かなりツラいものだったけど、提供される食事が豪勢であるのは、勿怪の幸いだった。
何といっても、肉を口に出来るというのが、基本的に雑穀や木の実などの粗食ばかりだったわたしたちにとって、そのツラさを緩和してくれる清涼剤だった。
肉は、いつもウサギの肉で、火で炙って焼かれており、以前メイローゼに辿り着いた時にわたしたちが町の出入口で見た騎兵が、やっぱり訓練に参加していて、狩猟してきてくれるのだった。
腹が減っては戦が出来ないということの意味を重んじるひとのようで、戦闘員は、戦闘員である限りにおいて、あまねく平等であり、その食事の内容に貴賤を持ち込もうとしなかった。
会戦の日が近付いて来、いよいよ緊張感が高まって来、食事の味も、昂奮の為に、おいしく感じられなくなってしまった。
最前線で真っ先に敵陣に切り込むのは、位の低い兵士と決まっており、わたしたちは、その中に含まれていた。
わたしは勿論そうだったけど、お母さんも、サリーさんも、その他のメンバーも、もともと戦いを生業としていないので、兵士のように、戦死を誉れとはしておらず、生き延びることを最優先にして動く心積もりでいたが、このようにして不可抗力で、最前線に配されることとなり、だけど、指揮官に反抗するなど、出来ようはずはなかった。
当日、開戦は夜明けという風に取り決められており、ガベラーさんを統率者として平野へと移動してきたわたしたちは、命令された通りに布陣し、合図を待った。
だだっ広い平野には、ほぼ全面に渡って下草が生えており、所々に水たまりがあった。彼方には丘が空に稜線を描いている。
――敵影が、丘の方に、未明の淡い暗闇の内に、ぼんやり見えている。
胸がドキドキする。槍を持つ手が汗ばんでベタベタして気持ち悪い。
近くにはお母さんもサリーさんも、馬に乗ったリベルタさんもいるが、とても何かしゃべろうと思える精神状態ではない。張り詰めた緊張感で、息苦しくなるほどであった。
しばらくして朝日が丘の上に燦燦と上った頃、ずいぶん低い音程で、地鳴りに似た音が響き渡り、どうやらその音が、角笛による、戦闘開始の合図のようだった。
わたしたちは、鬨の声を上げて一斉に駆け出す――少しでもためらえば、すぐ追走してくる後続に押されて転倒してしまう。
向こうの声も、わたしたちと同等か、より以上に大きくて迫力と威圧感があり、だけど、負けまいとわたしたちも、喉を絞る。
激しく激突する両軍、知らない顔ばかりの中に、乗馬したトニオ村長の姿が見えた。
騒々しい攻防の渾沌とした中で、わたしは手近に相手を見つけて、槍で突こうとして突くと、相手はあっけなく斃れた。だが、近くでは、味方においても、相手に攻撃されて斃れる者がいるのだった。
ダメだ、怖い、逃げ出したい、と思っても、この敵味方の入り乱れる中、逃げ道などあるはずがなかった。
ふと、軍馬が激しくすぐそばを走り抜け、わたしは肝を潰した。
皆、どうしているだろう……お母さんは、サリーさんは、などと気を配っている余裕はなく、常に意識を研ぎ澄まし、周囲を警戒していなければならなかった。
――おい、娘、一旦退くぞ!
叫び声が近くで聞こえたかと思うと、リベルタさんが馬上より身を屈めて手を伸ばし、わたしの腕を掴んだ。
聞き返す余裕もなく、わたしは槍を地面へと落とし、彼に馬上へと乗せられ、馬が、颯爽と駆け出す。お母さんは……? サリーさんは……?
わたしとリベルタさんだけが、争乱の只中より脱出し、馬は、ひと気のない方へとひた走る。
最初、敵がわたしたちを標的とし、追いかけてきたが、味方の兵士が進んで攻撃してきたのに応じるため、追走を断念し、結局、わたしたちは平野の中央より、安全地帯である森林のそばへと逃げ果せた。
だけど、わたしは全然安らいだ気持ちになれなかった。なぜかと言えば、わたしだけが無事ではてんでダメなのだ。お母さんとサリーさん、そしてパーティーのメンバー、そしてメイローゼのひとたちの皆が、揃って無事でなければ、わたしの無事は意味を成さないのだ。
わたしはサッと馬より跳び下り、戦いを見遣る。
形勢は互角ではないようで、メイローゼ側が、じわじわと後退している。朝日の昇る丘のある方とは反対へと押しやられており、ポツポツ交戦を諦めて撤退している者が見える。
雲行きは、あまりよくないようだった。