わたしたちは、戦争に負けるのだろうか。
そばにいるリベルタさんは、険相で戦場を睨んでいる。
わたしたちの後に、疎らに逃避者が馬に乗って森の入り口へとやってくる。
どの馬にも、子供が兵士のお腹に腕を回して乗っており、彼等もきっと、わたしと同じく、戦力として組み入れられ、血なまぐさい戦場を懸命に切り抜けてきたのだろう。子供と言っても、10は越えていて、その面差しにあどけなさが残ってはいるが、背丈はほとんど大人同然だ。本当に幼い子供たちは、戦場にはおらず、町で待機している。
「わたしたち、負けるんですか」、とわたしはおずおず問う。
「さぁ」、とリベルタさん。「まだ勝負は決していないし、形勢は予断を許さない。だが、サラメーナの連中が弱くないことは確かだ。短期戦で退けることが叶わないと見て、子供をまず撤退させろというガベラー殿下のご命令で、お前、そして他の者たちが避難させられてきたというわけだ」
「リベルタ」、と他の兵士が呼びかける。「呑気に見物していられるほど、こちらに余裕はないようだぜ」
「分かってる。子供たちは全員、もう連れ出してこられたのか?」
「全員かどうかは分からない。あるいはすでに犠牲となって斃れた者がいるかも知れない」
――わたしは、わたしと同じくらいの年の子供が戦死したことをイメージし、思わず戦慄が走った。
「惨いことだ。こうして早めに逃がすのなら、端から参戦させなけりゃ、よかったのに」
「だが、彼等はいずれ、メイローゼを支えることになる者たちだ。愛郷心を育むために戦争の一翼を担わせるのは、悪いことじゃない。ガベラー殿下には、きっと我々なぞには到底知ることの出来ない深慮遠謀がおありなのだろう」
「成るほど。だが、教育としてはちょっと厳し過ぎるんじゃないかと、おれは思うぜ」
「ねぇ、リベルタさん」、とわたしは、矢も楯もたまらない気分で呼びかけた。
リベルタさんはわたしの方を向く。
「お母さんは、サリーさんは、無事なんですか?」
「あの中で揉みくちゃにされているに違いない」
「わたし、戻りたい!」
「ダメだ」、とリベルタさんは呶鳴り、皆、ビクンと怯える。
「何で?」、とわたしは抗弁を試みる。「お母さんたちが危ないんです!」
「絶対にダメだ。あの戦場は熾烈なんだ。せっかく逃げてきたのに、争乱に割り込んでいって、また無事に帰れるという保証はない」
わたしは、戦争に勝てばいいのだと主張しようとしたが、自信がなく、二の句を継げなかった。
「リベルタ」、とさっきの兵士が再び呼びかける。「おれたちは戦線に戻る。お前は子供たちを導いてやれ」
「あぁ、分かった。武運を祈る」
「お互いに、生き延びて無事にメイローゼへと帰還できますように」
兵士たちは祈念と共に敬礼し合い、後に残されたのは、リベルタさんと、わたしを含む子供たちだけだった。
彼等は、わたしたちの居場所が悟られないように、森を迂回して戦場へと向かっていった。
「さて」、とリベルタさん。「おれたちは、時機を見てメイローゼに帰る。こっちが勝てば仲間と町で落ち合うことになる。お前も母親に再会出来るだろう。だが、こっちが負ければ、メイローゼは敵の手に落ちて、最早おれたちの町ではない。その時は……」
リベルタさんが、続きを言おうとするが躊躇し、結局言わないでグッと飲み込む。
わたしは勿論、他の子供たちも、顔を不安の色に染めている。
「とにかく、今は安全に過ごせる場所を確保することが先決だ。皆、ぐずぐずしてないで行くぞ」
わたしたちは、歩き出す。わたしたち子供は、歩く。リベルタさんは、手綱を持って、馬を曳く。
彼曰く、戦争の大局は、日暮れ頃には決まっているだろうという見通しだそうだ。
運命が明らかにされる時は、そう遠くない。
メイローゼが勝てば、わたしはきっと、お母さんたちのもとへと帰ることが出来るだろう。だが、負ければ、わたしは、見知らぬひとたちと共に、また、放浪することになるのだろうか。
胸がドキドキして苦しい。逃げてきたのに、まだ、戦場で殺し合いの只中にいた時の極限の緊張感が、解かれずにしつこくわたしの中に残っているようだった。