***Side Story***
彼はメイローゼに生まれ、父母共に仲睦まじい家庭において健やかに育ち、身体的に屈強であり、その素質を見込まれ、騎士となった。
騎士となるためには、側仕えより始めねばならず、彼は城に住み込みで働くようになった。騎士になるには、武芸は勿論のこと、礼儀作法もまた大切であり、彼はまじめに日々の勤めに取り組んだ。
武芸を磨く第一の実地訓練は、狩猟だった。彼はメイローゼの近傍の森に先導者の騎士に随伴していった。
いちばんやさしい狩猟の得物として、ウサギが指定され、彼は剣を持って森中を駆け巡り、何匹か狩り集めた。ただ狩るためだけに狩るのではなく、町に持ち帰り、食肉に加工する予定だった。
その後、訓練の難度が上がり、狩猟の対象が易しいものではなくなり、すばしっこい獣を狙ったり、鳥類を弓矢で射当てたりした。そして訓練は対人の模擬線となり、彼の武芸は日進月歩で洗練されていき、メイローゼにおいて強者となった。
ある日、上官、同輩を連れ立っての森での狩猟より町へ帰還すると、町の出入口付近に、見知らぬ者が複数列をなしており、彼等はよそより来たみたいだった。
あまり興味がなかったので、彼は獲物のウサギを持って先に城へと帰った。
城に仕える肉屋にウサギを渡して、その日の昼食は焼肉となった。とれたての獣肉は新鮮で柔らかく、塩コショウの味付けでおいしかった。(衛兵のリベルタが、城に戻った後、端肉を分けて貰えないかと訊いてきて、骨などに付着した端肉なぞ、大したものではなかったので、彼は些少の訝しさはあったけど、了承した。)
城の大きい食卓には、騎士が列しており、城主のガベラーもいた。
「ガベラー殿下」
と、彼は、おおむね満腹になった頃合いに呼びかけた。
すぐそばの席にいるガベラーは、彼の方を向いた。
「今朝、町の入り口にいた者たちですが」
「あぁ、彼等は旅人だ。サラメーナという村より来たらしい。自発的に旅してきたのではなく、追い出されたようだ。痛ましいものだ」
「彼等と面談なさったのですね。殿下は、どういう処遇をお与えになったのですか?」
「わたしは特に、厚遇も冷遇もしなかった。彼等がメイローゼで暮らすことを望み、わたしはただ、しかるべき助言を与えたまでだ」
「お言葉ですが、いやにあっさりとよそ者をお受入れになるのですね」
「世の情勢は時々刻々変化している。我らのメイローゼは、あいにく外部との交流が盛んではない。決して平和ではないこの時流にあって、いつまでも狭い範囲でのみ、町の運営を続けるというのは、悪手というものだろう」
「つまり、新しい価値観といったものを町に混入させ、進展を図っていくと、そういうご意図がおありなのですね」
「ウム。そうだ。だが、郷土の者と対立を生まないとは限らない。新風を招くつもりなのに、実際には嵐の災禍を招いてしまうことになるかも知れない」
「その時には、わたしが率先して鎮圧致します。殿下はご心配なく」
「そういえば、面白い娘がいた」
「面白い娘ですか……はぁ」
「あれが、こう言ったのだ。海へ行きたいのだ、と」
「海? その娘は、海の出身だとか、海に知人・友人がいるとか、そういう個人的事情があるのですか」
「詳しくは聞かなかったが、恐らく違う。あれは、何かの切っ掛けで海に興味を持ち、旅をしたいのだそうだ」
「海……わたしは生まれてこの方行ったことがありませんし、特別行きたいとも思いませんが、何かその娘を惹き付けるものが、海にはあるのでしょうか」
「きっと、憧れだろうなぁ」
「憧れ、だけですか」
「ハハ」、と城主は朗々と笑う。「あれはまだ10をちょっと超えただけのまだ尻の青い子供だ。そういう子供の持つ憧れというのは、中々しぶといものなのだよ。お前は、ずっと城の暮らしばかりで、そういう憧れを持つ機会がなかったのだろうが」
「はぁ……」
騎士は、腑に落ちない様子だ。
だが、ガベラーが、メイローゼに時代の変転への適応力を付けるために、よそものの流入を受けるのだというその思惑が確認出来て、とりあえず彼は、合点が行った。
そして、メイローゼという狭い範囲でしか生きてこなかった彼は、郷土へと忍び寄る、世界にあまねく流れる暗流を意識するようになり、遠くない将来勃発するであろう戦争のために、改めて、気持ちを引き締めたのだった。
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