***Side Story***
サリーは生来、利発で聡明だった。彼女は智慧の女神の寵愛を受けてこの世に生誕し、育った。
彼女がその成員となる家族は、ところが、あまり恵まれたものではなく、常に貧窮していた。
小作人の一族だった。他者の農地を借りて耕作するというみずからの権益をほとんど持つことの出来ない立場の男女の間に、彼女は生まれた。
天は二物を与えずと言うが、サリーは頭脳明晰であるだけに留まらず、明眸皓歯であり、美々しい女性への道を進んだ。今は白髪の多くなったサラサラの髪は、当時は薄褐色であり、顔立ちが嫋やかで、村の男たちは密かに恋心を抱いたものだった。
勉学の機会は、その下等の立場ゆえに与えられなかったが、サリーは物覚えがよく、身の回りの物事は勿論、鳥獣の名前・特徴、サラメーナの植生などをよく記憶し、農作業においても、他者より合理的に動くことが出来た――だからといって彼女が出世するわけではなかったのだが。
ある程度の分別が身に付く年頃になると、サリーは段々と自身の置かれた立場を悟るようになり、だが、どうしようもなかった。立身出世を志しても、小作農の先には厚い障壁があり、進路は閉ざされていた。絶対的格差が、村には根強くあった。
自己の才能を思うさま開花させることが出来ない悔しさはあったが、さして野心を持つことのなかったサリーは、細々とした小作人の立場に甘んじた。
サラメーナの女性たちが、総じて下等の位置に押し留められ、家事を始めとした雑用をさせられている姿ばかり目にしていたサリーは、内心で、私塾を開設して、女性の地位向上を理念として、女性教育に挑戦したいという夢を持っていた。だが、そのためには、資金も権利も、何もかも、必要とされる条件を欠いているのだった。
彼女をめとりたいという男はたくさんいたが、サリーの強い意志で全て断り、生涯、独り身を貫くことにした。寂しいという感じはあったけど、結婚に興味がなかったし、また結婚の手続き自体、小作人にとっては、高位のひとの許可を仰いだりしないといけなかったので、億劫だった。
サラメーナが解散されて以後、彼女は、多くの放浪者と旅を共にしたが、心細さと同じくらい、どこか晴れ晴れとした気分があった。
居住地をおわれたのは不安にさせることではあったけど、忌まわしい村の慣わしを脱することが出来たのは、幸いと言えないこともなかった。
彼女の前に、ずっと諦めていた新しい生き方への展望が、唐突に開けた。
だが、彼女がその人生を改めるには、機運の巡ってくるのが、遅すぎたようだった。
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