日暮れまで……
その時が来れば、大勢は決する予定となっている。メイローゼが勝つか、サラメーナが勝つか。白黒、はっきりするだろう。
睡魔との争いに負けたリベルタさんは、まだ寝息を立てている。そもそも睡魔と争ったかどうかは定かではないけど。
知らない間に、向こうの男子3人も、眠っているようだ。きっと、緊張が解けて安心したのだろう。
「ねぇ、ファーチェ」、とわたしは隣人に呼びかける。
わたしと彼女も、きっと、あるいは明確に、あるいは潜在的に、眠たいのだろうが、まだ、話をしていたいという思いを共有しているのか、目覚めていた。
ファーチェはわたしの方を向き、小首を傾げる。
「ファーチェみたいに可愛い女の子なんか、絶対に戦場にいちゃダメだよ」
出し抜けの追及に、彼女は面食らったように目を見開く。
線の細い彼女の体格と、その整った面差しとで、いかにもか弱い乙女という印象の彼女が、戦場などという極限に荒々しく騒々しい環境に身を置くのは、わたしにしてみれば、非常に不似合いだった。わたしは、そのことについて、どこかで義憤を覚えていた。
「クローネ、その気持ちは、率直に嬉しいんだけど……」
「わたし、ガベラーさんが極悪人に思えてくる。いくらなんでも、戦わせていいひとと悪いひとがいるんじゃないかなぁ」
「でもね、今回戦争に参加したのは、わたしの意志なの」
「嘘……?」
今度は、わたしが面食らった。
「戦争って、わたし、詳しくないんだけど、やっぱり人手は多いのがいいと思うのよね。だから、ちょっとでもメイローゼ側が有利になれば、と思って、手を挙げたの」
「親御さんは、納得したの?」
「勿論、大反対したわ。でも、わたしはそもそも、メイローゼを守りたいっていう思いがあったから、後方で守られているっていうのは、何となく、じれったくなる気がしたのよね」
「偉いね」、とわたしは心服する。「わたしなんか、嫌々戦ったのに」
「ううん」、とファーチェは首を左右に振る。「けど、一度戦場に出てみると、心底おっかなくて、二度としないって、やっぱり思ったわ。戦場は、男のひとのものっていう気がした。女のひとは、きっといないのがいい。だって、邪魔になるもの。それに、よしんば敵に殺されないにしても、女のひとなんて、捕まって、何されるか、分かったものじゃないしね」
――干し肉の欠片をわたしはまだ掌中に持っていた。空腹感は……さほどなかった。とにかく、恐怖の余韻が強く、体全体が依然として硬直していた。
わたしは、「はい」、と手の中のものを隣人に差し出す。
「? 干し肉じゃない。クローネ、食べないの?」
「うん。何か気持ち悪いし、それに、ファーチェは、とっても偉いから、わたしの分まで食べて欲しい」
「ダメよ。クローネ。お腹が空いていなくても、食べないと。わたしたちは、しばらく食べ物がないんだよ?」
「そうは言っても、日暮れまでの我慢でしょう? その程度、数日間もまともに食事せずに旅してきたわたしには、平気だもの」
わたしは、強引に彼女の手を取って、干し肉のかけらを握らせる。
「クローネ……」
と、ファーチェは、どこか気兼ねする様子だが、結局、わたしの好意を受け取ってくれた。
「ありがとう。この干し肉は、食べずに、大事に取っておくことにするわ」
「うん。後は好きにしていいよ」
「わたしたちも、そろそろ寝よう」
「そうだね。けど、誰かひとりでも、見張り番するのがいいんじゃないかなぁ」
「きっと大丈夫よ。ここは森の奥で、誰も来やしないわ」
「そう……そうだよね」
わたしは、ちょっと考えた後、隣人に同意した。
そして、わたしとファーチェは目を瞑り、廃墟の壁に背を預けた。
ちょっとしてから、わたしは薄目を開け、隣を窺ってみた。ファーチェの薄いお腹が、規則的に浮いたり沈んだりする。寝付いたようだ。その様を確認することでわたしは安心して、このメンバーの一番最後に、休むことにしたのだった。