まどろみの中で、わたしは現実に先んじて、メイローゼへの道を進んでいた。
ずっと森の道なき道を苦労して歩いていき、先導者は常にリベルタさんだった。周りには、ファーチェと3人の男子がいた。ひとりでは到底進むことが出来ない森の奥でも、皆いっしょにいると、心強く励まされるようだった。
リベルタさんの背を、わたしは黙々と追っていたわけだが、彼の後ろ姿が知らない間に変化して、ふと彼が振り返ると、その顔が、マークさんのものになっているのだった。
リベルタさんとマークさん、二人に共通しているのは、衛兵をしているという点で、また、年齢もおおむね同じであるように見えた。背丈は、マークさんの方がややより高いかも知れないが、さほど差はない。髪型では、リベルタさんが丸刈りであるのに対して、マークさんは、波打った癖毛を耳が隠れるほど伸ばしていた。
わたしたちの先頭を行く彼の容貌は、リベルタさんのものより、マークさんのものへと移ろい、わたしは、メイローゼに帰るというのは誤りだと悟った。
そうだ。マークさんとは約束を結んだ。彼が、わたしの憧れる海への旅に同伴してくれるのだと……。
わたしの足は期待感で軽くなり、ファーチェも男子たちもずっと後ろに置いてきぼりにして、まっすぐにマークさんの背を目指して、小走りで近付いていった。
だが、追えば追うほど、マークさんは遠ざかっていき、呼びかけてみても、一度として振り返ってくれず、とうとう森の深奥の闇中に、彼は溶け込むようにしていなくなってしまったのだった。海のことになどまるで思いを馳せられそうにない、森の奥深くへ――
………。
……。
…。
夢が醒めた。
彼は――マークさんは、そうだ。最早この世にいないのだ。
目覚めは穏やかだったが、気分はかなり沈下しており、わたしはすっかり、虚無感に苛まれていた。
「――クローネ」
自分の呼吸の音が、体の内側に低く響く。スゥ……ハァ……と鼻で呼吸すると、お腹が膨らんだり、しぼんだりする。
「――クローネ!」
肩を両手で揺さぶられ、わたしはようやくハッと我に返る。
「……何だ。ファーチェか」
「大丈夫? ぼんやりしてるけど、熱でもあるの?」
彼女はそう言って、わたしに額に手をやると、その後、自分の額にもやって、体温を比較する。
「熱は、なさそうだけど」
「平気よ。ファーチェ」
そう言って、わたしはおもむろに立ち上がるが、軽い立ち眩みを覚え、壁に手を突く。
どうも、日が頂点を超えて傾く方へと動きだしたので、わたしたちも再出発する運びとなったようだ。
「やっぱり、まだ休んでるのがいいんじゃない?」
リベルタさんも、男子たちも、すでに起きており、充分休憩して準備万端といった感じだ。
リベルタさんの丸刈りの頭を見て、わたしは、どこか寂しい思いがしてくるようだった。
「ううん」、とわたしはファーチェの勧めを斥ける。「ちょっと夢見が悪かっただけ。歩いていれば、多分、すぐ持ち直すよ」
「別に、おれたちは急ぐわけじゃない」、と、リベルタさんが会話に入ってくる。「お前の気分が芳しくないのなら、まだしばらく休むといい。だが、いつまでも呑気に休んでいるわけにはいかない。今日の日暮れの前には、町へと戻りたいんだ」
「分かりました。わたしは本当、大丈夫です。体調に問題はないんです。ただ……」
ファーチェは心配するようにそばでわたしを見、リベルタさんと3人の男子たちも、だいたい同じ目をわたしに向けているが、半ば訝しがるようであり、わたしは、負い目を感じた。
マークさんとの別れを吐露してしまおうかと思ったが、寸前で飲み込んだ。
「行きます。休憩は終わりで構いません」
――確かに、調子は万全でなかったが、精神的にちょっと乱れがあっただけで、体はちゃんと動く。浅い眠りで見た夢の印象なぞ、どうせ程なく薄まり、忘れていくだろう。
リベルタさんが馬を曳いていき、その次に男子たちが続く。最後に、わたしと、ファーチェ。
黙然と歩きながら、わたしは、ポケットに忍ばせてあるアイテムを手に取り、正面に持ってくる。
桃色の貝殻。
海までは、まだ遠回りをしないといけないようだった。