サラメーナとの戦争がどういったもので、どのように休戦まで到ったのか、詳しい話をお母さんから聞きだすまで、わたしは取りあえず、一晩待たないといけなかった。
お母さんは(他の兵士、徴募兵と同じく)グッタリと憔悴し切っていた。夜食は喉に通らないとパスし、すぐに部屋の寝床で気絶するように寝た。
何もまだ聞いていなかったが、わたしには、きっと激戦だったのだろうと推知された。サリーさん、そして他の亡くなった戦死者の死を悼むには、平穏に過ごせる時間がまだ遠かった。
わたしは、中途半端に日中休んでしまったので、母といっしょには寝付けなかった。
日が落ちてから、小さいランプを持って外をブラブラしていると、たいまつを持ったリベルタさんに遭遇し、子供は家に帰って寝るよう、注意されたが、わたしは曖昧に答えて、ブラブラ歩きを続けた。彼は特に執着してくる感じではなく、思うに彼も、寝付くに寝付かれず、時間を潰しているのではないだろうか。
町の中ほどにあるつるべ井戸まで来ると、そばに人影があり、誰なのだろと気になって、わたしはそっと近付いてみた。
「――クローネ?」
ファーチェが、井戸で水を汲んでいるようだ。井戸の縁にランプが置いてある。
彼女も、誰かの接近を察して警戒していたのだろう。少しばかり後退りしており、わたしと知ると、警戒を解いて元の位置に戻った。
「ファーチェ」、とわたし。「もうすっかり暗いよ。寝なくていいの?」
「うん。何か、眠れないんだ。何でだろう」
「わたしも、そう」
ファーチェが、滑車の縄をズルズル引き、水で満たされた木桶を上げると、持ってきた小さい飲用の容器で水を掬い取り、口を付けた。
「聞いたよね」、と彼女。「戦争、まだ終わってないって」
「うん。けど、詳しいことはさっぱり。お母さん、あっという間に寝ちゃったから」
「そう。再戦は、3日後だってさ」
「また、わたし、出ないといけないのかなぁ……」
「嫌なら、断りなよ。わたしは断るつもり」
わたしは、「うん」、と、曖昧に返した。本心では戦争に出たくないけど、周りがよそ者のわたしに与えてくる重圧を覆す自信は、まるでなかった。
「それに、わたしが聞いたところでは、城主様は、講和のすべを模索してるんだって」
「講和……要するに、戦争をやめて、お互いに仲良くしようってこと?」
「うん。使いの人が夕べ、緊急で出かけていったよ」
「そのひと、サラメーナの場所は分かるの?」
「多分、戦争で捕まえたひとに案内させたんじゃないかしら。何人かいるんだって。今は、お城の牢屋の中だろうけど」
ファーチェがふと、井戸水の入った容器を差し出す。彼女が今飲んだものだ。
「クローネも飲む? まだ暑いよね」
「飲む。ありがとう」
わたしは受け取って口にする。地下の冷えた水が、喉から一直線に胃袋まで流れていく感覚が、刺激的だった。
「そろそろ夏は終わりだね」、とファーチェ。「おいしい野菜と果物が採れる季節が近くなって、わたし、楽しみだなぁ」
「そうだね。まぁ、収穫はわたしの仕事になるんだろうけど」
そう言って、わたしはファーチェと、他愛のないことで微笑み合った。
季節は晩夏。秋の気配はまだはっきりとはしないが、月日が秋に近いことは確かだ。
だが、なぜかわたしの頭の中では、秋の作物で溢れる田畑の風景が、ひどく遠く見えた。
戦争を超えた先の将来の日々が、わたしのイメージでは、とても朧気で、暗色の覆いに隠されていた。
夜空を見上げると、蒸し暑さを増長するように、星はひとつとして見えず、雲が覆っている。羊雲の模様は消え、夜空全てが、暗雲でいっぱいになっている。