翌日は、昨夜の空模様を反映し、雨となった。
天気と同じく、わたしもそうだったし、町の皆も、きっとそうだったのだろうけど、すっきりしない気分でいた。晴れていれば多少は朗らかに過ごせたはずなのに、悪天候となって、放出されるべき不安や怖れが、雨の陰湿さで、放出されることが叶わず、内面に押し込められるようだった。
……。
お母さんは、朝になっても中々目覚めなかったが、昼近くになってようやく起き出した。まだ寝ていたいのか、苦虫をかみ潰したように渋い面持ちだったし、髪は乱れまくっていて、ひどい有り様だった。
「おはよう、お母さん」
「……おはよう、クローネ」
わたしはテーブルに付き、お母さんはベッドの上で半身を起こしている。
「昨夜聞いたよ。戦争のこと。ガベラーさんが講和を考えていること」
「そう。説明の手間が省けて助かるわ」
「お母さん、次は戦いに出るの、やめようよ。わたしは、勇気を出して断るつもりだし」
「そうね。わたしも、出来ればそうしたいなぁ」
お母さんは俯き、しばし考え事でもするように沈黙した。
「でも――」
と、彼女はボソッと口を開く。
「多分、わたしたちは勝てないんじゃないかしら」
「待ってよ。まだ、勝敗は付いてないじゃない」
「クローネは途中で抜け出したから分からないだろうけど、敵方は相当手ごわかった。けど、洗練された戦い方、という感じじゃなくって、怖かった」
「気迫か何かで?」
「そうとも言えるし、違うとも言える。何となく、メイローゼのひとたちと、サラメーナのひとたちとでは、全然違う生き物っていう感じがした。わたしたちは人間で、向こうも勿論、人間なんだけど、向こうはどこか、戦う生き物っていう感じが強かった」
雨音が絶えず、耳に微弱に響いている。いつもは聞こえる隣室などの騒音が、その日は聞こえず、建物のみならず、町全体が、静まり返っているようだった。
畑の仕事は、勿論、この緊急事態で休みであり、作物を放置するというのは、獣害や病害のために、絶対あってはならないことだったけど、戦争と戦争の短いインターバルに、農作業などやっていられるわけはなかった。戦闘員ではない後方のひとが、代わりにやってくれればいいが、あまり期待出来そうになかった。
「講和が成立するって、祈るしかないね」、とわたし。
「そうね。そうなるのが、一番平和だと思う。けど、メイローゼとサラメーナがお互いに対等の立場で、交渉なんて出来るのかしら。きっとサラメーナには、サラメーナを乗っ取ったより大きい
お母さんは終始、悲観的だった。町のムードを鑑みても、恐らく、他のひとも同じように予測しているだろうし、そういう思いや考えを汲み取って、城主は講和の使いを派遣したのだろう。
駿馬に乗っていった使いが、次の戦いの前までに、サラメーナに着けばいいのだが、間に合うかどうか、定かではなかった。
わたしの頭にはすでに、逃げ出すことが善後の案としてあった。だが、サラメーナより旅してきたメンバーはバラバラだし、取りまとめ役のサリーさんは、他界している。
わたしは、戦争で死ぬわけにはいかないし、敗戦して町を乗っ取られて誰かの拘束の中で苦しんで生きるわけにもいかない。
海まで……海まで行かなければ……。
わたしの中で、ずっと消えずにある憧れの海のイメージは、今、自由という概念と深く結び付いていた。
自由を求めることは、海への旅と、同一化していた。