まだ見ぬわたしの碧色【完結】   作:Yuki_Mar12

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 雲は、夕方に差し掛かる頃にはおおかた流れ去り、雨がやんで、青天井が覗いた。雨上がりの町に吹く風は冷ややかで、秋の気配を含んでいるようだった。

 

 だが、季節の移ろいにしみじみ耽ることは出来なかった。

 

 次なる戦いに必要である英気を養うため、町のひとたちは、戦後の一日をゆっくりと過ごした。

 

 次の日は晴れで、わたしは、ファーチェといっしょにいた。彼女は、メイローゼに来て始めて、わたしが親交を結べた相手だった。ほぼ同齢であり、同性であり、気遣わしい上下関係がなく、彼女といると、わたしは気楽だった。自然と、わたしが彼女のもとへ足を運ぶ頻度は増えた。

 

「クローネは、サラメーナの子なんだよね」

 

「前はね。今は違うけど」

 

 わたしたちは、おしゃべりして、町を巡っていた。そういえば、まだお互いの詳しいプロフィールを交換していなかったので、いい機会だった。町は、以前と比べてひと気が疎らで、閑散としている。

 

「どういうところだったの?」

 

「大したところじゃないよ。農業が主立った産業で、他は特にない。家とは呼べないボロい小屋があったりして、ずいぶん鄙びてた」

 

「そっか。けど、わたしも実は、よそから来たんだよ」

 

「嘘。そうだったの?」

 

「うん。お父さんが遍歴職人で、前にいた町の親方の指示で、ここに引っ越してきたの」

 

 その親方は、彼女曰く、メイローゼを知らず、前の町に親方を増やす余裕がなかったので、厄介払いのために移動を命じたという。

 

「ということは、ひょっとすると、またファーチェは家族と、よそに行くことになるかも知れないんだね」

 

「そうだね。けど、お父さんはこの町で親方になるつもりみたい。うまく行くといいんだけどね」

 

「ふるさとは、遠いの?」

 

「結構、遠いかも知れない。海辺の町で、そこでわたしは、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃんといっしょに暮してた」

 

「海……? ねぇ、ファーチェ。今、海って言った?」

 

 わたしは驚いて、いったん立ち止まり、ファーチェは、ちょっと離れてから立ち止まり、後ろを振り向く。

 

「うん。言ったよ」

 

 ファーチェがきょとんとし、怪訝そうにしている。

 

 わたしは、彼女の隣へと行き、再び足並みを揃えて歩きはじめる。

 

「わたしは」、と彼女は話を続ける。「今、お父さんと暮らしてる。ふるさとのおじいちゃんとおばあちゃんは、高齢で病気がちで、旅なんてとても出来そうになかったから、離れ離れになっちゃった。今も元気にしててくれればいいけど、どうなんだろうね。寂しいなぁ」

 

 ――わたしは、半分上の空で、耳を傾けていた。

 

 海というキーワードが出たことで、わたしは、ずっと薄暗い内面に光明が差し込んでくるようだった。

 

 ファーチェはだが、死んだマークさんとは違って、ただの少女で、旅の同行者として見るには無理があった。

 

 だが、運命というのは、折に触れて粋な計らいをしてくれるものだ。

 

 わたしと海の間には、ずっと繋がりがなく、わたしが海へと接近するのに、跳躍が必要だった。大胆さや、精力や、剛勇さが必要だった。

 

 だが、今、ファーチェという海辺の町をふるさとにする少女とわたしは出会い、知己の間柄となったことで、わたしにとって、海という存在が、ちょっとばかり、身近になったようだった。

 

 

 

*

 

 

 

 わたしは後で気になって訊いてみたが、ファーチェの母親は、すでに病に斃れていないそうだ。

 

 彼女は現在、父親と二人で暮らしている。

 

 髪の結い方や、その他の作法は全て、母親に習ったことのようで、母親について語る時、ファーチェはひどく懐かしそうで、傾聴していたわたしも、思わずしみじみし、すでに亡くなっていることが、残念で仕方がなかった。

 

 

 

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