まだ見ぬわたしの碧色【完結】   作:Yuki_Mar12

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 わたしたちの現在いるところがどこなのか、知る者はいなかった。

 

 あるいは、わたしたちがのぼりはじめた山も、誰かの縄張りとなっているのかも知れない。

 

 わたしたちは無自覚の内に、許可を得ずに誰かの土地へと踏み入り、発覚すれば何かしらの罪を着せられることを犯してしまっているのかも知れない。

 

 村や町ではない、よりずっと小さいコミュニティを運営してその中で暮らしている者はいる。半ば流浪者で、半ば定住者といった感じで、外部との交流の中で暮らしており、豪族とか土豪と呼ばれ、独立した主権と領土を持っている。交渉など、話が出来る豪族がいれば、蛮族としか言いようのない、話し合いの余地が全くない豪族もいる。

 

 ――この世の趨勢を考えれば、小さいコミュニティは、その規模ゆえに小さい勢力しかなく、遅かれ早かれ、より大きい組織、集団の侵攻を受けるなどして、滅び、消えていくのだろうと思われる。

 

 今はまだ夜中……明るく、人間の動きが活発化する日中になったら、ひょっとすると、誰かこの山に現れて、一悶着起きないとは断定出来ない。

 

 ――ずっと暗かった夜道が、淡い藍色になったかと思うと、空にあまねく広がる太陽の照射が、山木の枝の交差の向こう側に、鈍い青色と共に見えだす。

 

 夜が明けてきたようだ。

 

 何となくホッとしたが早いか、眠気が急激に襲って来、体が動かなくなる。他の皆も一緒のようで、その辺の開けたところで、楽にする。

 

 まだ余力のあるひとが、薪を集めて、ランプの火を移して、焚火をこしらえようとする。

 

 やがて火が立ち、わたしたちは温まるついでに、濡れた衣服の水分を飛ばす目的で焚火のそばに寄り合い、寝る。

 

 この山が誰かの所有地で、よそ者が立ち入れば、違反の咎で科料を求められたりすることになるかも知れないなどと想像出来るひとは、わたしたちの中にいなかった。皆、初秋のやや冷えた夜気に濡れた体を晒して歩いたことで、凍えて疲れ切り、率直に言えば、頭がおかしくなりそうだった。

 

 束の間の眠りに、わたしたちは決して癒しきれない疲れとストレスの解消を託した。

 

 全員、起きた頃には、日はすでに空の頂点を過ぎていた。焚火は消えており、濡れた服は、ずいぶん乾いて、気にならないくらいになった。

 

 わたしたちは山道を再び進みはじめる。

 

 眠った分、体は軽く、峠までさほどかからなかった。精神は、未だに疲労と不安に削がれていたけど。

 

 峠に並んで皆で彼方へと目をやる。

 

 足元より続く山林と森林……その右手は、森林の延長で、遠くに町が見えたが、サラメーナのようだった。勿論、これだけ離れたところでは、どういう模様なのか、詳しく確認することは到底叶わない。その更に向こうには連峰。森林・野原の間を川が流れていたが、果てしない遠方まで枝分かれして続いていた。

 

 では、左手に視界をずらしていくと、段々と木々の青の密度が下がっていき、砂色が目立ちだす。

 

 砂漠だった。

 

「ねぇ、リベルタさん」、とわたし。「わたしたち、あの砂漠をどれくらい歩いていけば、人里に出られるんですか?」

 

「そうだなぁ」、と彼は考え込む。「3日、4日……そのくらいは見るべきかと思う」

 

「嘘?」、とお母さんが動揺して口を挟む。「わたしたち、ロクに食べ物も飲み物も持ち合わせていないのよ。しかも、もうずいぶん消耗してる。3日も4日も、歩き続けられるわけないじゃない」

 

「現実的じゃないのは確かだ。それに――」

 リベルタさんの面持ちに、サッと陰がかかる。

「おれが砂漠を抜け出してきたのは、砂漠での暮らしが嫌になったせいなんだよ。砂漠は資源に乏しい。おれの生まれ育った町では、強者が幅を利かして、いばってた。常に争いが行われ、少ない資源を奪い合って、勝者が敗者を蹂躙してた。親には、そういう競争を勝ち抜ける強い人間になるよう、言われたが、物心の付いた頃には、おれは、強い人間になることより、よそにいくことが自分の願いになった」

 

 だから、砂漠の町を目指して歩くのは気乗りしないのだと、彼は最後に結んだ。

 

 聞いていると、わたしは、シュンとしてしまった。

 

 意気が挫けそうだった。前に進むことも、後ろに退くことも出来ない状況だった。

 

 旅の答えがどこにあるのか、まるで見当が付かなかった。

 

 ガベラーさんの息子は、まだ小さく、10にも届かなかったが、夫人と手を繋いで、ぼんやりした目で、茫然としている。幼少のあどけない心が、早くも絶望の悲しみを覚えてしまったようだった。

 

「砂漠を行くなら、命を賭けるつもりで臨むしかない」、とリベルタさん。「多分、ひとによっては途中で、体力が尽きて事切れる」

 

 ……。

 

 この窮境にあって、わたしを失意させずにとどめているのは、やはりわたしの憧れ、わたしの夢だった。諦めるには、まだ情熱が冷めずに残っていた。

 

 他のひとの思いは知らないが、海と自由を求めて、わたしは旅している。わたしの旅の動機付けは、そのひとつだけだ。

 

 わたしたちは、熟考し、選択することにした。来た道を引き返し、見えているサラメーナに向かうか、メイローゼにとんぼ返りするか、砂漠へと勇気をもって立ち入るか、である。尤も、どの選択も互いに同程度の勇気を要求するけど。

 

 わたしたちの思いは、それぞれバラバラだった。誰もがすぐに決断することが骨だった。全ての者に、難題が課されていた。だが、自分を生き永らえさせる道を見出すのは、結局、自分自身なのだった。

 

 

 

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