***Side Story***
メイローゼは小さい町であり、ひとの出入りを厳しく管理していたということはないが、開かれた町とは言えないくらいには、閉鎖的だった。
そのわけは単純で、メイローゼの位置するところが、林地であり、樹木に取り囲まれているためであった。
その昔――何十年も前、メイローゼは、ある大領主の所有する全ての領土の――荘園の一部だった。大領主は、広い地域を支配し、各所に配下を送ってその土地の領主とし、恩給地を与えることで、支配・被支配の封建的関係を築いた。
だが、大領主がその生涯を終えて他界し、その上後継人がいなかったことで、彼の統べていた荘園全体のまとまりが均衡を失って崩れ、領土間に分断が生じた。
荘園においては主従関係ばかりが尊ばれ、横の繋がりがほとんどなかったので、大領主のいなくなったことが、荘園の崩壊に繋がったのは、自然の成り行きだったと言える。まして、領土と領土の間は大抵の場合、深い森林に隔てられていて、交通の便がよくなかったので、一個の共同体として連携を密に取り合うのは、都合が悪かった。木立の中に通された社会基盤としての道は、時日の経過に従って、落ち葉が積もって森林化するなどし、風化していった。
分断が生じるといっても、人々が争い合うわけではなく、残された者たちが、互いに相手の独立を尊重することで、主を失った荘園内の平和は保たれた。
だが、分断された荘園の領土の主たちが息絶えることによって、森林の木々が文明を覆い尽くし、ガベラーが上の者より領主の座を引き継ぐことになる頃には、最早、その記憶さえ忘れられていき、かつてひとつの荘園の中で同じ勢力で、友好関係にあった領土のことなど、まるで知らないという状況にまでなってしまった。
ガベラー……彼はメイローゼの領主の家に生を受け、育った。
ガベラーは恵まれた才気を持った男であり、何より、戦って勝利することを誉れとする天性の武人だった。
凡庸であれば、遺産や財宝を損耗させ、一族を衰退させてしまうのに、彼の場合、うまく町を運営し、慣習を絶対とせず、むしろ人々に自由を与え、町の活性化を図った。どこの馬の骨とも知れない流れ者を拒まず、町の繁栄に寄与すると見込んで受け入れた。彼は、前例通りの生き方しかしないのではなく、新しいことに挑戦していこうという気概を持った勇士だった。彼を慕う町民は多く、民の反乱や暴動などの起こることがなかった。
勿論、支配者としてガベラーは、町民に対して、税などの徴収はするが、決して搾取はしなかった。納められたものは公平に分配したり、城内に非常用として備蓄したりして、私服を肥やすためなどには決して利用しなかった。
ガベラーは、ほのかに分かっていた。時代の波が、穏やかではなくなろうとしているのだと。そして、平穏で安定したメイローゼの暮らしが、ひょっとしたら遠くない将来、外部の勢力の侵略によって脅かされるかも知れないと、予想し、危惧していた。
折に触れて町を訪れる旅人の話を聞いていく内に、彼は自分のその予想と危惧について、確信の度を強めていった。
ガベラーは町の女性をめとり、ひとりの男児を設けた。
男の子が彼の希望だった。後継ぎとして、絶対にひとりは欲しかった。女の子もいればいいと思っていたが、子宝というのは授かりものであり、妻が身ごもったのは、たったひとりのその男児だけだった。
月日は流れ、ガベラーの息子が成人しない内に、時代の荒波がメイローゼに物々しく押し寄せた。サラメーナという新興の町が、領土拡張のため、メイローゼに対し、宣戦布告してきたのだった。メイローゼとサラメーナは、それぞれ森を隔ててある独立した領土であり、実は過去において、ひとりの大領主が所有する荘園の中で、互いに友好関係にあった領土でもあった。
ガベラーは勿論、自主独立を死守するつもりで、サラメーナと対峙したが、相手の勢威は猛々しいものがあり、英明である彼は、敗北を予覚した。
講和を交渉してみたが、なしの
ある夜、再戦の約束の時日より早い時機に、敵が奇襲をしかけて来、不意を衝かれたメイローゼは、おっとり刀で応戦せざるを得ず、だが、ガベラーは嫌に冷静であり、出来るだけ非戦闘員である民を逃がそうとした。
悲しむ妻と息子を彼は無理矢理説得して送り出し、彼は、彼の率いる兵士、騎士たちと共に、敗北を覚悟の上で、敵方に抗った。
メイローゼへは絶対に足を踏み入れさせないというガベラーの強い意志が兵士たち全員に行き渡り、サラメーナの兵士、騎士たちは、町の近傍の平原より先へは、彼等の抵抗に苦戦して思うように進軍が叶わなかったが、両軍が、払暁に近い深夜より昼に近い朝まで激戦を繰り広げた後、決着が付き、戦場となった平野には、夥しい屍と流血の跡が残されたのであった。