カブとそら豆が育ったということで、その日の仕事は収穫だった。畑に植わるカブの葉っぱの根に近い部分をギュッと握り、引っ張ると、土塗れの白い根が現れる。そら豆は、枝に生育してふくらんだ莢を、柄の部分よりナイフで切り取ってカゴの中に集めた。
わたしとお母さんは二人で協力して、農作業に当たった。
わたしたちが、領主に貸し与えられた土地に成った作物を収穫していると、あっという間に一日が過ぎていった。
まだ夕陽が残って明るい中、母は先に家に帰るといってひとり、田畑を後にした。
わたしは、蝶々が舞っているのを目にし、疲れのせいか、どこか夢見心地の気分で、ちょっと散歩して帰ろうと思ったのだが、道中、あるひとと出くわし、そのひとというのは、警邏のマークさんだった。夜警のために出てたようだった。
「やぁ」、と松明を片手に、腰に短剣を帯びた彼は、昔からあまり変わらない面立ちで、わたしに挨拶する。
「こんばんは」
「クローネちゃん、ひとりかい?」
「はい。お母さんは先に帰りました。仕事が終わったところなんです」
「そうか。お疲れさま。おれは、今から仕事だ。やだなぁ」
マークさんは、ため息と共に慨嘆する。
わたしたちのいるのは、村の斜面の上の方で、そこからは、オリーブ園やカブ畑のある村の佇まいと、村外の情景がよく見えた。
村の建物は、格差をよく表していて、しっかりした石造りのものは、領主のもので、木を組んで藁を被せただけの小屋は、農奴の住居として、あるいは貸し出されたものであり、あるいは安普請で作られたものだった。
畑の回りには木の柵があり、農具が立てかけられていたりし、どこかの家畜小屋の牛が、モーと鳴き声を上げる。
村外のある方角は、連峰まで鬱蒼とした森林が続き、ある方角は、起伏のある草原が見えるが、その先は、決して足を踏み入れてはいけないと注意されている砂漠がある。
「お母さんは、元気?」と、ふと、マークさんが尋ねる。
わたしとマークさんは、誰が言うともなしに、そばの柵のそばに並んでしゃがみ込み、ちょっと話すことにした。
「元気、って言えたらいいんですけど、最近、お母さん、疲れてます」
「まぁ、無理もないね。来る日も来る日も仕事、仕事。しかも、領主の言い付けさえあれば、農作業だろうが、道の整備だろうが、何でもしないといけないからね」
「聞いてみたいことがあるんです」、とわたしは、ちょっと勇気を出して言ってみた。
マークさんはやや面食らったように目を見開いて、わたしの問いを待ち受けているようだった。
「わたし、お父さんが欲しいんです。もともといたお父さんは病気で死んじゃったけど、お母さんが気に入れば、わたし、だいじょうぶです。お父さんがいれば、お母さんも、今より少しは楽になると思うんです」
「クローネちゃん。それは、難しい話だなぁ」
マークさんの口元に、苦笑が浮かぶ。
そして彼は、ややためらいを含んだ口調で、わたしに教えた。農奴には結婚の自由がなく、領主が全て取り決めることになっているのだと。
わたしはショックを受け、自分の置かれている境遇の不自由さに、気が遠くなった。仕事さえしていればいいのだと、勝手に分かったつもりでいたが、わたしもお母さんも、その自由は、領主に縛られているのだ。