まだ見ぬわたしの碧色【完結】   作:Yuki_Mar12

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 わたしの手元にあるお金は、わたしたちが一生遊んで暮らせるほど有り余っているわけではなく、日を追うごとに、着々と費えていった。元々あった分と今の手持ちを比べると、当たり前だが、明確に少なくなっている。

 

 お母さんが気分の落ち込みより回復したその日、わたしたちは、また買い物へ出かけることにした。とはいえ、行動が見張られている可能性があるので、四人で固まって動き回ることは控えた。

 

 わたしたちの目的はまだきちんと共有されておらず、どうするかという青写真がしっかり頭の中に入っているのは、わたしだけだったので、わたしは、荷物の運び手として、ティークさんに頼み、ふたりで出かけることにした。ファーチェとお母さんには、留守番をお願いした。

 

 わたしが砂漠に出ようという思いをお母さんに打ち明けた時、お母さんはまず驚いてポカンとし、しばらく無表情で沈黙した後、「そう、大変ね」、とだけ、短く述べた。

 

 その様子は、どこか気の抜けた印象を与え、わたしは、自分の思いがちゃんとお母さんに伝わっているのか、確信が持てず、もやもやした感じが残った。

 

 買い物に出かけてみると、確かにわたしは、人目が気になった。辺りにいるひとがこっちを見ているという感じがし、見てみると、相手と目線が合うのだった。だが、睨み合いにはならず、どっちかがそっぽを向いて終わるのだった。

 

 勿論、わたしには疑心暗鬼になっている部分があり、変にそわそわして、ひとの注目を浴びやすい状態になっている可能性はある。

 

 だが、自分が監視されているということを完全に否定し得る証拠がなく、わたしとティークさんは、通りを行く時は日陰を選んで早足で歩き、買い物に訪れた店ではさっさと用件を済ませた。

 

 その日の買い物で、砂漠の旅に必要とされるアイテムはほぼ揃った。容器に満たした水や、全身を覆うマントや、ドライフルーツや木の実などの保存の効く食料など……。

 

 さほどたくさんの持ち物が砂漠の旅に要るわけではなく、後は覚悟と根性だけだった。厳しい砂漠を渡り切る強い心が、思うに最大のアイテムなのだろう。大体、持ち物が多いと運ぶのに苦労する。きっと砂漠には極力身軽で行くべきに違いない。リベルタさんに、詳しい話を聞いておけばよかったと今になって悔やまれる。

 

 

 

 そろそろサラメーナにお別れを告げようかとわたしが想像を巡らせた夜が明けると、翌朝、お母さんの不調がぶり返した。

 

「まだ、具合が悪いの?」、とわたしが尋ねる。

 

 ファーチェとティークさんもそばにおり、皆でベッドのお母さんを見下ろしている。

 

「何か、気持ちが悪いのよ」、と青い顔のお母さんが答える。荒い呼吸に合わせ、肩が上下する。

 

 起き上がろうとするお母さんを、わたしは制するが、彼女が強情に体を動かす。そのかたい動きはわたしに老衰を偲ばせた。

 

「でも、今日発つのよね、クローネ」

 

「そのつもりだけど、その様子じゃ、とても旅になんて行けないよ」

 

「ううん、大丈夫。出発しよう。この町に長居は出来そうにないし」

 

 お母さんが体を転回させ、脚をベッドより床へと出す。

 

 ふと、気配がしたと思うと、わたし、ファーチェ、ティークさんは息を殺し、辺りに注意を払った。

 

 わたしたちは、互いに顔を見合せて頷き合うが、緊張は解けない。

 

 前日は杞憂だったが、今日は、誰かがいる。間違いなくいる。扉のそばで、その誰かがわたしたちの部屋に、聞き耳を立てているようだ。

 

 コンコン、とノックの音がする。

 

 わたしが返事すると、扉が開き、宿の受付の男が顔を出し、「ごきげんよう」、と挨拶する。てっきり偵察を言い渡された兵士か何かだと思っていたわたしたちは、その登場に拍子抜けする。見たところ、彼はひとりのようだが……。

 

「失礼ですが、お客様方は、いつ頃までこちらにお泊りになるのでしょうか?」

 

「わたしたち、今日出ていこうと思ってはいるんですが、いかんせん荷物がまとまらないもので……後ちょっとだけ、待って頂きたいです」

 

 と、わたしが答える。

 

「かしこまりました」、と男は恭しい態度で一礼と共に納得する。

 

「そういえば」、と彼は顔を上げて続ける。「ロナ様はおられますか」

 

「わたしでしょうか」、とお母さん。

 

「ロナ様、町長のガルドが話したいことがあると、待っております。ロナ様のご都合がよければ、ぜひ部屋までお越しいただきたいのですが」

 

「ガルドさんが……? いったいなんだろう」

 

 お母さんは戸惑いを隠せなかったが、とりあえず応じることにして、何度か苦しそうに咳した後、ベッドより、受付の者の案内に従って部屋を出ていった。

 

 自分が呼ばれたのではないので、わたしは特に疑いを挟まずに、お母さんを見送ったが、よくよく考えてみると、ガルドさんが部屋に呼び出して一対一で個人的に話したいことなんて、お母さんに対してあるのだろうか。その名前と、わたしの母親であることくらいしかせいぜい知らない彼女に対して。

 

 何かが不自然で不吉だと、直感がわたしに訴えている。

 

 わたしは不安になって、お母さんが部屋より出た後、扉を少しだけ開けて、こっそり隙間より様子を窺ってみる。

 

 歩いていく受付の男のすぐ後ろに、お母さん。そして、彼女を挟んで両隣に武装した兵士がいる。

 

 ――兵士?

 

 わたしはにわかに、訝しさに駆られる。

 

 お母さんを中心とした何人かの集まりの見た感じは、罪人が連行されるのと大差はなかった。罪人はしょんぼりとし、罪人を囲って拘引する番兵は、しかつめらしく背筋を伸ばして歩を運ぶ。

 

 

 

 わたしは固唾を飲み込んで、不安と共に、少しだけ開いた扉をそっと閉じた。

 

 

 

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