(1)Side Story
***Side Story part1***
資源に乏しい砂漠では、利他的精神や謙譲などは美徳とはされず、私利私欲のために、人々は生活していた。
そのため、いさかいが絶えず発生し、人々は勝者と敗者とに分かれ、勝者は全てを得、敗者は全てを奪われて失った。
だが、いさかいの多さにうんざりした人々は、中には砂漠の外へと逃亡する者があったが、自分たちが統合され、ひとつの集団として結束し、闘争ではない平和的手続きによって、富や利益などが各自に行き渡ることを望んだ。
いさかいの連続に消耗していたので、砂漠の人々の同意はすんなりと形成され、数々の町村を合併したひとつの国が誕生した。ギルツァー帝国だった。ギルツァーというのは、砂漠でいちばん優秀とされた伝説の男(彼はすでに逝去しており、名声が残っているだけである)の名前であり、立派な国にしたいという人々の思いより、その名前が採用された。
砂漠の人々は最初、ようやく戦乱を脱することが出来たと幸せだったが、やがて砂漠の資源の乏しさに、公平性の確保が厳しくなり、強者がより多くを得、弱者が貧窮するという状況に再びなっていき、結局元に戻るのかと諦めの声があちこちで聞こえた。
だが、形成された同意の効力はまだ残っており、再び秩序が乱れることにはならず、国民は、乏しい資源を補うため、砂漠の外へ進出することにした。果てしない砂漠を渡るには、屈強さが必要で、屈強であれば、砂漠の向こうに行くことが出来、従って、砂漠の人々は、砂漠の向こうでは、いつも有利だった。
サラメーナ、メイローゼ、その他の大小の町村……ギルツァーはことごとく攻略して圧服し、その支配下に置いた。
……。
コリーという男がいた。
ポルトオレアという港町の出身で、造船の職人だったが、遍歴に出るよう、親方に命じられ、乗り気でなかったコリーは、だが、しぶしぶ発つことにした。遍歴とはいっても、その実は、親方が彼を厄介払いしたいだけのことだった。
海の町に生まれ育ったコリーは、ふるさととして、海が深く刻まれており、旅のお供に、海のものを荷物に加えていくことにした。貝殻や魚の干物など、当地ではてんで大したものではないが、そのものの値打ちというのは当人次第であり、異境でふと寂しくなった時に町の思い出を蘇らせて自身の活力にするアイテムとしては、それ等は充分だった。
両親はコリーに、立派になって帰ってくるように言って見送った。
勿論、彼は帰ってくるつもりだった。立派になれるかどうかは定かではないけど、とにかく愛郷心を育んだポルトオレアには必ず帰ってきたいという思いでいた。
初め、彼は造船の職人なので、海を渡るのがいいかと思われたが、旅立ちの日があいにくの悪天で、しかも即時乗り込める船がなかったので、陸に切り替えた。
彼は特に造船にこだわりがあるということはなく、その職人に彼がなったのは、ポルトオレアでいちばんありふれた、普通の職業だったためである。
コリーにおいて、海が好きである他方、船を造るのが好きでないというのは、あるいは矛盾かも知れないが、とにかく彼は、親方の命令に従うことで、家族や仕事などのしがらみを抜けだし、ひとりの自由人になれたかのようだった。
旅路は決して安楽ではなく、途中、彼は川船に乗るなどして、気ままに動き回った。お金はほとんど持ち合わせていなかったが、彼は人好きのするキャラクターで、ちょっと話さえすれば、大抵のひとは彼に親しみを持って打ち解け、心を許すのだった。
コリーは、いくつかの町、村を巡り、人々との出会いと別れに一喜一憂し、たくさんの人間の面立ちとその人生の色とりどりの断片を見て巡った。世の中では、いろんなひとたちが、いろんな生き方をしていて、一人一人に大なり小なり個性があって、面白かった。
コリーにおいては、ポルトオレアは確かに愛郷心があって好きだったけど、他の町も村も、ぜんぜん悪くなかった。ところによっては、彼は、物乞いと思い込まれて邪慳に扱われたり、追い払われたりしたことがあったけど、反対に旅人の境遇が同情を買って親切にして貰ったり、やさしくして貰ったりしたことがあった。
悲喜こもごもある、ある意味忙しい旅路だった。
サラメーナという寒村に、クローネという小さい娘がいた。
日暮れまで人里に着けなかったコリーは、目の利かない暗夜をせかせかと歩き、ようやくサラメーナへと辿り着いた。不安がややあったが、村に入れて欲しいと出入口の若い男の衛兵にコリーが哀願すると、彼は人情が働いたのか、独断で許可をくだし、更にコリーを泊まらせてくれる場所まで見つけてやったのだった。
クローネの家だった。彼女の家は、粗末に出来た藁の小屋で、中は貧相だったが、決して最悪ではなかった。
娘のクローネと、母のロナがふたりでその小屋に細々と住んでいた。ロナはかなり嫌そうにコリーを迎えたが、クローネは満更でもない感じだった。
その人懐っこさが気に入り、コリーはクローネとおしゃべりした。すると、彼女が夢を持っていることが分かった。その夢とは、未だ目にしたことのない、海原を見に行くことなのだ、と。
そのセリフを聞いて、同じく海を愛するコリーは感激し、彼はその余勢をかって、クローネの手に、自分がふるさとより持ってきた、海のアイテムを授けてやった。桃色の花弁のようにかわいい貝殻と、魚の干物だった。
クローネは子供が普通そうするように、プレゼントを受け取ると喜び、満面に笑みを浮かべた。
クローネの笑みを眺めていると、海という言葉に不意に出くわしたことで、コリーはにわかに郷愁に襲われ、海原にざわめく波や、両親の顔などが次々と脳裡をよぎり、悲しい目付きで、彼が帰郷したくなるようにいざなった。
だが、立派になって帰るように言った両親の顔や、意地悪に厄介払いした造船職人の親方の顔などが浮かび、まだ成果がなく、成長出来ていないコリーは、自分の誇りを呼び覚まして、彼等を見返すことの出来る技能か宝物を得るまでは、諦めずに旅を続けようという思いに俄然燃え上がり、クローネのいるサラメーナを哀惜と共に後にしたのだった。
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