まだ見ぬわたしの碧色【完結】   作:Yuki_Mar12

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 海を見てみたいということを、わたしは以前よく口にしていた。口にするようになるきっかけは、やはりコリーさんの話を聞いて想像力を刺激されたことだった。

 

 だが、わたしはもう、そのセリフを口にすることは出来そうになかった。

 

 お母さんが、悲しい顔をするのだ。わたしが夢を口にすると、お母さんはシュンとなり、物憂い感じになる。

 

 もし、お母さんが怒ってくれれば、わたしは、すっきり出来たかも知れない。お母さんが鋭い威光を見せてくれれば、わたしは意固地になって、みずからの夢に固執出来たかも知れない。

 

 だが、お母さんの悲しむ顔を見ると、わたしはにわかに罪悪感が込み上げて来、反省を促されるのだった。

 

 以来、わたしは気を遣うようになり、だけど一方で、海への夢想を捨て切ることは出来ず、結果として、内面に閉じ込められたその夢は、わたしの睡眠中の夢は、ふとした時の空想によく出現するようになった。

 

 そして、現実に表現せず、イメージとして目に浮かべば浮かぶほど、海は現実のわたしを誘惑し、悩ませるのだった。

 

 肉屋さんが来た日、彼のスピーチが終わると、わたしは、聴衆が仕事へと気持ちを切り替えそれぞれの持ち場へ散っていく中で、タイミングを見計らって話しかけてみた。

 

「ん、何だい。お嬢ちゃん?」

 

 テキトーに作り話をして聞かせたお母さんは、すでにいない。

 

「聞きたいことがあるんです」

 

「聞きたいこと?」

 

 肉屋のおじさんは、わたしと目線が近くなるようにその場にしゃがみ込み、わたしと対面した。

 

「海って知ってますか?」

 

「海かい? 勿論、知っているとも。昔はよくあちこち遍歴したものでね」

 

「わたし、海へ行きたいんです」

 

「海へ……成るほどねぇ」

 

 そう言って、おじさんは顎に手を添え、考え込む様子だ。

 

「まず、お嬢ちゃんに言っておきたいんだが、情報――つまり、知りたいと思った物事の話というのは、基本的に、タダじゃないんだ」

 

 その言葉を聞いた時、わたしは決して察しの悪いニブチンではなかったので、お金を要求されるのだと察知して、青ざめた。わたしは無一文だった。

 

 だが、おじさんも察しがよい方らしく、わたしの血の気の引いたことを敏活に察すると、すぐに否定して安心させてくれた。

 

「子供相手に金銭を要求するほど、おれは卑劣漢じゃないぜ。安心してくれ。それに、海の話なんて、おれにとっては、大したものじゃない。だが、このサラメーナから、一番近い海へ行くには……」

 

 おじさんはやや険しい顔で、海への道程を教えてくれた。村外へまともに足を踏み出したことのないわたしには、ほとんど未知の地名ばかりで、旅のイメージがてんで湧かなかったが、とにかく、おじさんはわたしに情報をくれたのだった。

 

 彼によると、一番近い海でも、相当遠いらしく、わたしに対し、暗に諦めることを勧めた。また、わたしは子供に過ぎず、旅に出るには、頼もしい同行者が必要であって、その同行者はいなかった。お母さんは、到底頼めなかったし、他に知り合いはいなかった。

 

 海への旅が現実味を帯びていないことがはっきりしたけれど、そうなると、ますます、わたしの内面における海の存在は増長されるのだった。

 

 

 

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