まだ見ぬわたしの碧色【完結】   作:Yuki_Mar12

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 砂嵐が近くにある間、わたしたちはとても自由には動けず、やり過ごせるまで、じっと耐え抜かないといけなかった。

 

 コリーさんは、わたしたちの状態を考慮し、よくなったという確認が出来たことで、しばらく遠慮されていたが、わたしたちとずっと旅してまわることは不可能だといよいよ断言した。ただでさえロクに食べる物も飲む物も得られない砂漠で、大人数で旅することになれば、わたしたちは限られた糧食を巡って醜い争いを頻発させるだろう。

 

「だが」、とコリーさんは言った。「海までは連れていってやる。クローネ、お前がはっきりとその口で言った海までは、な」

 

「……」

 

 わたしは、自分で行きたいと主張したのに、踏ん切りが付かずにいた。

 

「クローネさん」、とティークさんが、困り顔で呼びかけてくる。「港などのあることが期待出来れば、わたしも娘も両手をあげて賛成するのですが、いかんせん砂漠では……」

 

「港などない」、とコリーさんがきっぱり答える。「ただ浜と海とがあるだけだ。人っ子ひとりいやしない」

 

 そこまで言われると、わたしは、おのれの主張を撤回すべきだという良心の呵責に苛まれてくる。

 

 ――わたしはずっと旅してきて、結局、どこにも行けなかったということになるのだろうか。海を象徴に自由を求めて歩きまわって、そしてわたしが至ったのは、打ち破ることの叶わない壁だったと言える。その前で転回して、自由のなかった方へと引き返させる行き止まりの壁だ。

 

 だとすると、わたしは、自分があまりにも不憫に思えて来、虚しさと悲しさと怒りで頭がボーッとするようだった。

 

 わたしの意地が、わたしを海に固執させた。海に行くことを選択すれば、わたしは、ファーチェとティークさんを本当の道連れとして、『壁』の前まで引き連れていくことになる。彼等にとって、海が何だというのか。……愚の骨頂だった。

 

「クローネ」、とファーチェがすぐ目の前に立って、わたしと対峙する。彼女の瞳には、何か強さを感じさせる光明を宿していて、わたしの瞳は、きっとどんより淀んでいるに違いなく、思わず気後れを感じた。

 

「クローネ」

 と、ファーチェは改めて呼びかけ、わたしの手を両手で挟み込むようにして取った。

「この選択は――どの選択も必ずそうだけど――ただの一度きりしか出来なくて、間違いは許されない」

 

「そうだね」

 と、わたしは悄然と返す。

「わたしには、自信がない。わたしにあるのは、やっぱり海に行きたいっていう、ただのわがままだけ。わたしがこのわがままを通すことで、ふたりを悲運に巻き込むわけにはいかない」

 

「うん」

 と、彼女はコクリと頷く。

「わたしもお父さんも、クローネの従者じゃないし、言いなりになるわけじゃない」

 

「わたしが悪いんです」

 と、ティークさんが、バツが悪そうに謝る。

「いちばん年長者であるこのわたしが、頼りになる導き手であればよかったのですが、リーダーシップをとるには、わたしには足りないものが多かったのです」

 

 コリーさんとミゼルさんは、わたしたちのやり取りを、やや遠くより傍観していた。

 

「クローネ」、とファーチェ。「色々言わせて貰ったけど、最悪なのは、ここでギスギス揉めて散り散りになること。砂漠ではきっと皆で力を合わせるのがいい――食べ物はちゃんと分け合って。で、最高なのは、わたしたちの誰もが納得して合意できる落としどころを、この選択において得ること」

 

「だけど選択肢なんて、ないも同然じゃない」

 

 わたしが投げ槍に言うと、ファーチェは「ううん」と首を左右に振った。

 

「海に行ってみてもいいんじゃないかって、わたしは思う。港はないけど、海に行って、その後海岸線をずっと行けば、多分、港のあるところに辿り着けるはず」

 

「港が近くにあればいいですが、どうなるか分かりません」、とティークさん。「我々の出身であるポルトオレアに帰る……もし港が見つかれば、わたしはそうしようと思います」

 

 

 

 ……希望のないこの状況で、まだ可能性は完全に潰えていないようだった。わたしにとってそれは、驚くべきことだったし、勿論また、喜びでもあった。

 

 サリーさん、リベルタさん、お母さん……皆、いなくなったけど、まだわたしたちには、生き延びるための知恵と勇気が残されているようだった。

 

 

 

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