わたしたちは、海に行くことにした。海に行くこと自体が目的ではなく、港を探す旅の始点にするために赴くのだった。
だが、わたしにとっては、長きに渡って求め続けていたところなので、海に辿り着いた時、わたしはひとつの通過儀礼をようやく終え、その先に待望していた新しい自分になれたという矜持が得られるのだろうと思う。
コリーさんは、海を選んだわたしたちに対し、あまり賢明でないとさげすむようであったが、その一方で、(自身が元々旅人だったゆえか)ひた向きに理想郷を追い求める旅人の愚直さへの共感があるようでもあった。
彼はぶっきらぼうで取っ付きにくい雰囲気をまとっていたが、わたしたちに対しては、ずっと心を開いてくれていたようで、わたしたちは、そのことについて、彼への恩義をきちんと認識し、感謝しなければいけない。彼は冷血漢ではなく、温情のある優しい人柄の持ち主だった。
「そういえば」、とコリーさんが道中わたしに向かって言う。「お前たちは全員、家族同士なのか?」
わたしはさびしい思いで首を左右に振る。
「違うのか」
「必ずしもそうではなくて、ファーチェとティークさんは父子です。けど、わたしは違います」
わたしとコリーさんが並んで歩く隣では、ファーチェとティークさんとミゼルさんとヤギが歩いており、グループがふたつに分かれていた。
「わたしのお母さんとお父さんは亡くなって、もういません」
「そうか」、とコリーさんは暗然とする。「つまらないことを聞いてしまったようで、すまない」
「平気と言うにはわたしはまだ心細いですけど、大丈夫です。気にしないでください」
「心細いのはよく分かる。しかしお前は、ずっと旅して生きていくつもりなのか?」
「さぁ、どうでしょう。その質問にはっきり答えるのは難しそうです。でも、わたしの旅は海までのものなので、海に到着すれば、きっとどこかに落ち着いて暮らしたいと思うようになるのではないでしょうか」
「世の中は徐々に変化してきている。今までそれぞれの小さい共同体で過ごしていた人間たちが、覇権を求めて争い合って、滅ぼされたり、支配されるようになったりしている。共同体は統廃合を繰り返すことで、大きくなり、世の中を構成する社会集団の単位が、小さいものから、大きいものへと転じている」
「そうですね。実際わたしは農村に住んでいたのが、村長が一方的に村を廃村にしたことで、離脱せざるを得ませんでした。それにわたしは、領土間の戦争に直接的、間接的に関わることがあって、コリーさんがおっしゃる世の中の雰囲気は、何となく分かる気がします」
「その内、風変わりで自由気ままに生きられる旅人なんていう商売は、廃れてなくなっていくんじゃないだろうか」
「わたしも、旅人として同じ見通しを持つことがあります。わたしは定住出来るところを求めて長くさまよってきましたが、わたしの旅は自由を根源に続いてきたものではなく、むしろ根源は不自由だったように思えます。偶然落ちかかってきた問題や災いによって繰り返しはじき出されてきたせいで、わたしはどこにも落ち着くことが出来ず、結果、旅人として流浪している」
――広大無辺の、どの方向に目をやっても砂原しか見えないこの砂漠の侘しい雰囲気は、自由ではなく、むしろ不自由のために不可抗力で旅して来ざるを得なかったわたしの不遇のシンボルとして相応しいもののように思われた。
わたしは未だに自由を勝ち取ることが叶わず、惨めに敗走し続けている状況だが、わたしの自由への願望と希求の炎は、なお燃え続けていて消えないのだった。