村の警備を担う警邏の一人のマークさんは、愛郷心のあるひとで、サラメーナに寄ってくる訪問者の中で、無害と思われる者と、胡乱で危ぶむべき者とを区別し、無害の方には、寛大に村内を案内し、逆にそうでない方には、頑なに入村を許さなかった。
彼の愛郷心は、この村に生まれ、育ったことから来るものであり、また、彼の両親を始め、領主など、恩義を感じる相手がいるということもその要因としてあった。
この度、村へやってきた騎兵たちは、マークさんにとって心を許せる相手ではないらしく、マークさんと騎兵たちは、物々しい雰囲気の中で緊張感を漲らせている。
「あなたがこの村に愛着をお持ちなのは分かりました」
と、パラディンがマークさんに言う。
「では、あなたが慕うとおっしゃる、この村の首長であう領主殿をお呼びいただけませんか」
「一体、何のためにですか?」、とマークさんは猜疑心を露わにして訊く。
「会談をさせていただきたく存じます」
「どういった内容をお話しになるおつもりで?」
「そこまで懇切丁寧にあなたにご説明するいわれはないでしょう。手続きが煩雑になる」
そう言って、パラディンは軍馬をサッと飛び下りると、マークさんの正面まで行き、腰の剣の鞘に手を添え、鍔を指で押し上げ、刀身を覗かせる。
「あまり面倒をかけられると、こちらも黙ってはおりますまい」
「――!!」
マークさんは、眉間に皺を寄せ、警戒の度を一気に高めたようだ。
その様子をすぐさま察知したらしい観察力のある村人のひとりが、一触即発の彼らの間に割って入り、仲裁を試み、ひとまず領主である村長を呼び寄せる運びとなった。彼が周りに村長を呼んできてほしいと声掛けし、誰かが応じて、村長の屋敷の方へと駆けていった。
パラディンは剣を収め、マークさんは、気乗りしない感じではあるものの、仲裁に従うようだった。
程なくして、呼びに行った者が帰って来、村長がやってきた。チュニックを着た白髪の男性で、短いけれど、こめかみより顎にかけて白髪まじりの髭をたくわえている。
「お初にお目にかかります。領主殿」と、騎兵たち一同は、頭を下げて一礼する。
「ようこそサラメーナへ。将校殿。トニオと申しまして、この村の村長です」
と、村長も一礼を返したが、その後すぐに、マークを睨み付け、小言を述べた。
「マーク。全くお前さんは、何年この村の警備をやっておるのだ。悪人は退ければよいが、きちんと相手を見極めて応じなさいと常日頃言っているではないか。この方々がお前の目に悪人と移ったのなら、お前はひとを見る目がない。お前の愛郷心はすばらしいものだが、玉に瑕と言わざるを得ない」
マークさんは、下がれ、と命ぜられると、半ば萎縮して、半ば気に食わなそうに、一礼して、後退した。
その後は、トニオ村長と騎兵の間だけのやり取りが始まり、村長は彼等を屋敷へと案内し、それまでの物々しい雰囲気は消え去り、わたしたちは、自分たちの仕事へと続々と戻っていった。
わたしもそうだったが、きっと他の村人も、働きながら、訪れた騎兵が何者で、村長と何を話しているのか、気になっていることだろう。
だが、真相は屋敷の中にあり、太陽の下、田畑で労働するわたしたち農奴ごときには、知る由もないのだった。
***