予想外
元々期待はしていなかった。魚沼支部で九重静殿に警告もされていたし、自分自身無理があるのは承知していた。
ただ銃器関係の支援は可能だろうとの事だったし、支援をお願いするなら頭を下げに行くのが筋だと思っただけなのだ。
「今、お茶が来るから一服してよ」
なのに黒札のキノ殿が自ら対応してくれるだと!?
「ありがたく」
この一言を絞り出すのも一苦労だ。どういう事なのだ?
応接室に通され、待っていたのは黒札のキノ殿と秘書だろう少女、そして腹心の九島喜太郎殿だな?
北神奈川支部の主人と支部長代理が揃って出迎えてくれるとは……
セツニキ先生のお願いだから仕方が無い
「話だけでも聞いてやってくれ、かぁ」
恩人のセツニキ先生のお願いなら仕方が無い。
まあ、皇室に潰れて欲しい黒札は居ないと思う。面倒事は勘弁してほしいだけで……
自分と関わりの無い所で、しっかりと存続してください。気分としてはこんな所かな?
ボクだって、関わりたくはない。
特に政治。ボクは一地方で限界なんだよ! これ以上の仕事を持ってくるなぁ!
愚痴を言っても仕方ないけど。
文句を言っても仕事は減らない、チクショウが。
「自分で引き受けたんだもんね」
悲しいけど、コレ仕事なのよね……
「静さんの話では、北神奈川支部の事情はある程度知ってるハズ。セツニキ先生も無理な支援をしろとは言っていない」
さて? ボクが望まれた事は何だろう?
とりあえず話を聞いて見るしかないか。
そんな訳で葛葉キョウジ氏と面会なのだ。
北神奈川支部からの支援
「なるほど……SP*1用の拳銃は手配するよ。自衛隊に合わせて〝9㎜ガイア拳銃〟*2で良いよね?」
有難い。悪魔に通用する銃が無い訳では無いのだが、種類はマチマチ。弾種が揃うだけでも補給の負担は減る。
「通常弾とガイア弾の補給も定期的に行おう。弾がない銃なんて飾りにしかならない」
とても有難い。拳銃弾の心配は無くなりそうだ。
「目安で良いから必要数を教えて欲しい。こっちも余裕がある訳じゃないんだ」
ならばガイア弾を潤沢に使える訳ではないと?
「だからボクが昔に作った〝簡易退魔弾の製作術式〟を提供する」
簡易とは言え退魔弾を作れる魔法陣か。
「練習用を兼ねて通常弾を多めに送る。雑魚にガイア弾を使うのは勿体ないからね」
つまりガイア弾は切り札にしろと言う事だな。
「承知いたしました」
頭を下げる。あまり多くを求めてはダメだと静殿に警告されている。
キノ殿の負担は大きい。穏健派とはいえ、メシア教が管理地域に存在するのだから。
そしてメシア教を恨む海外からの避難民も多い、揉め事はさぞかし多かろうな……
「サブマシンガンや狙撃銃は必要かい?」
「頂けるなら有難く。必要数は多くはありませぬが」
運用出来る人員が限られる故に銃だけ有っても意味が無い。宮様の御家族をお守りするのだ、戦力はもっと欲しいのだがな。
「じゃあ、サブマシンガンは〝H&K MP5A5〟、狙撃銃は〝豊和 M1500〟*3が良いかな? MP5は9㎜拳銃と同じ9㎜パラベラム弾だし、M1500は猟銃としても使われてるからガイア弾も供給できるよ」
銃に関しては至れり尽くせりだな。
「アサルトライフルは如何かな?」
アサルトライフルか、対人用としては過剰でも対悪魔戦を考えるなら有った方が良いのか?
「試してみとうございます」
「そっか、〝H&K G36〟*4なら十分な数を用意できる。準ガイア銃だけど、使用する弾薬は〝5.56x45mm NATO弾〟だ、ガイア弾も供給出来るよ」
「助かりまする、やはり戦力の派遣は無理にございましょうか?」
キノ殿の顔が苦渋に歪む。
「難しいな。そもそもボクの支部に所属する黒札はボクを含めて5人だけ*5。一人は異界保持の要*6、一人は空戦部隊の隊長*7、残り二人もカウンセラー兼ヒーラー*8と尼さんだ*9。全て迂闊に動かせない人材だよ」
なるほど。
「黒札以外の人員だけど、北神奈川支部の人員は小粒って言われていてね。集団戦なら頼れるんだけど、個人単位だとね?」
「数が増えるだけでも、有難いのですが?」
「出すなら日本人が必要なんだろうけど……家の支部の人員も根願寺には思う所があるようでさ」
自分達の危機には動かなかった癖に、か。
「そしてボク自身も簡単には動けない。ない袖は振れないよ」*10
「やはり……」
諦めるしかないな。
「これ以上は無理だよ? 北神奈川支部だって赤字経営なんだ、恥ずかしい話だけどね」
うむ……自分達も苦しい中での、精一杯の支援か。無理を言ってしまった様だ。
「一応の確認なのですが、官位は本当に不要なのですか?」
この混沌とした北神奈川支部を纏める一助には成りそうだが?
「いらない。ここに住むのは日本人だけじゃない。外国人が多いから、日本の権威は邪魔になると思う」
邪魔? そうなのだろうか?
「官位なんて外国人には理解できないよ。軒野家は普通の庶民だし、必要なのは実力だからね」
既に実力を持って、民を従えている……後付けの権威は自分達のリーダーを取り込もうとする動きにしか見えないのか。
事実でもある。これも無理だな……
何故か飲み会に巻き込まれた
「酒宴ですか……」
俺も暇ではない。直ぐにでも戻りたいのだがな。
「諦めて欲しいな」
笑いながらキノ殿が言う。
「支部の皆だって、わかってるハズなんだ。何時までも恨んでても意味が無いってね」
それでも恨んでしまうのが人間だ。
「だから切っ掛けを作りたい」
「切っ掛け、で御座いますか?」
「一緒に酒を飲めば、少しは変わるよ」
酒で恨みを洗い流して欲しいとは……そんな事を言われるとは思わなかった。
蟠りを残したままでは、弾薬の支援継続に影響が出かねない。多少なりとも関係改善を図るべきだと?
弾薬の補給は必要だ、出来る限りはやってみるか。
「キョウジ殿、こちらに来られよ。一緒に飲みましょうぞ」
壮年の男に誘われ、酒杯を手渡される。
「根願寺には恨みがある。だが、キョウジ殿が努力していた事も知っている。助けたくても手が足りなかったのであろう?」
仕方が無かったとは言いたくないが、過去は変えられん。根願寺は地方を見捨てたのだ。男が酒を注いでくれた。
「宮様の御家族の事だが、我らとて余裕があるならお助けしたい。だが人手が足りない、悔しいが無理なモノは無理なのだ」
過去の俺と同じか。酒杯に注がれた酒を飲み干す。
本来は美味い酒なのだろう、スッキリとした辛口の酒。今の俺には妙に苦いが……
「正直に言えば恨みはある。この地はキノ様に救われたが、それまでに死んだ者も多いのだ……俺の息子も死んだ」
言葉が出ぬ。お役目とは言え、我ら根願寺の力不足で地方では大勢の人々が死んだ。
「しかし、恨み言はもう言わぬ」
なんと!?
「我らは悪魔に備えなければならない。古い恨み事に捕われている暇は無いのだ」
そうか、お主は強いのだな……
「忘れる事は出来ぬ、だが恨みは酒で洗い流そう。もう一献いかがかな?」
今宵の酒は妙に苦い……だが忘れらぬ酒となりそうだ。
キノネキそういう所だぞ?
「うんうん、仲良く成る切っ掛けくらいにはなったかな? 恨みは消えないけど、共通の敵になら一緒に対処できそうだ」
ギリギリまで頑張って、それでも足りなくて助けを求て、制度上は自分達を救う義務がある存在に無視された。
こんな恨みを一朝一夕に許せる筈は無い。
でも根願寺にも、自分に出来る限りの努力をして、精一杯に助けようとしていた人が居るんだ。
葛葉キョウジ……正直、レベルは低い。でも誰よりも努力した人。地方を見捨てなかった人。
結果は出せなかった。力は足りず、地方を救えなかった。それを責めるのは、力ある者の傲慢だと思う。
ボクの部下達だって知ってる事だ。根願寺に怒りは有れど、それをキョウジさんにブツケルのは筋違いだって。
だから酒で流して貰う。
喧嘩でも戦でも、和解するには酒が一番! おじいちゃんのセリフだけどね。
マダマダ友人とは言えないけど、少なくとも顔見知りにはなった。
後は流れに任せるしかないかな? ボクが口出し出来る事じゃ無いからね。
「後はお土産を渡せば良いだろう」
多少のマッカと北神奈川支部の地酒。ついでにお菓子を持たせよう。
これは北神奈川支部としてではなく、ボク個人からの贈り物だ。継続して渡せるものじゃない。
その辺りは言い含めて置こう。
「まずは虎屋の羊羹だね。〝夜の梅〟を贈ろう」
虎屋って京都のお店は無事だったのかな? まあ神奈川でも健在だってお知らせするのは良い事だろう。
本店の職人さんを始め、かなりの人員を保護出来たから、新規にお店を作った。虎屋横浜店だね。
規模は縮小するかもだけど、味は護っていけるだろう。
「文明堂は横浜の工場売店を護れたから〝ハニーカステラ〟も贈れる」
ここも東京から逃げて来て合流出来た職人が居る、材料の問題はあるけど、終末後に文明堂の味を残そうと頑張っているんだ。
本来の献上品には劣るとしても、それなりに高級なカステラが用意出来た。
「宮様の御家族も色々お疲れだろうし、懐かしい味で癒されると良いな」
お店側にも余裕はないから、ボクのポケットマネーでお贈りしよう。
かつての献上品そのものでは無い。だが出来る限りの美味しいお菓子をお届けしたい。
そんな菓子職人達の想いを伝えるのもボクの仕事だろう。成り行きとはいえ、想いを託されたんだしね。
宮様の御家族って何名だっけ? まあチョット多めに渡せば良いか。
こういうキノの気遣いが〝情に厚い頼れる義の人〟と宮様の御家族に認識される原因となるのだが、本人は理解していない。
後日、直筆の御礼状が届きキノは驚く事になる。
「なんでさぁ!」
自業自得だ諦めて?
キノには自爆芸が似合うと思っている
キョウジさんが黒札を呼ぶ時の敬称はなんだろう? とりあえずキノは殿付けで呼ばせてみたけど、大丈夫かな?
宮内庁御用達のお菓子は作者の好みです。一応は和洋で一つずつ? カステラは既に和菓子かも知れないけどw
色々不自然な所があるかも知れないが、これが作者の限界です、多少の違和感は許して頂きたい