【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE 作:暁色の王冠
第1話
出逢いは、突然だった。
平成二十二年(二〇一〇年)九月、一人の男の子は自分の家の自分の部屋で一つのゲームを楽しんでいた。
彼が世界で一番愛したゲーム、ポケットモンスター ブラックだ。
真新しさがまだまだ残っている制服をハンガーに掛け、ベッドに寝転ぶとお馴染みの携帯ゲーム機を開く。下校途中に家電量販店に立ち寄り、世界の何処かに存在するトレーナーとポケモン交換をしてきたので、その確認のためだ。
一つひとつの動作に興奮を覚える。
英字で埋まるポケモン図鑑、突然地図上に出現した「ユナイテッド・タワー」という施設。それは常に"新しいもの"だった。
「ブルンジって何処だろう……。そんな国あったんだな」
大きな大陸の中の、ちっぽけな点。それを眺めながら彼は小さく呟く。
ふと、彼は静かな部屋の中で自分以外の別のなにかの気配を感じた。視界の隅でもぞもぞと動く"なにか"がある。
恐る恐るそちらへと意識を傾け、注視してゆく。
突如として、絶叫が響いた。
†
一人の青年は突如としてそのような過去を思い出してはくすりと笑った。
口から漏れ出たその声が聞こえたのか、近くに佇む仲間が振り向く。
「どうかしたんですか? リーダー」
「いや、何でもねえよ」
リーダーと呼ばれたその青年は二人の仲間を従えて夜に紛れながらその時を待った。
今は任務中である。
「昔のことを、初めてポケモンに会った時のことを思い出したんだ」
「呑気ですねぇ。まぁリーダーにはその位の気楽さがあってこそですが」
「おいおい、リーダーだぞ?
筋骨隆々の仲間の一人が、もう一人の背が低い方の仲間の頭を強めに叩く。本人的には加減したつもりなのだろうが、叩かれた本人の表情を読み取るにそんな事は一切ないかのようであった。
「最強……ねぇ」
二人の仲間を従えた青年は下手な嘘に出くわしたときのような声を発する。自分自身がそのような立場にある自覚が、今ひとつ無かった。
その名を知らない者は"この世界"において存在しなかった。
四年前にポケモンが姿を現して以来、世界の景色は一変してしまった。
時にそれは非力な人間に力を分け与え、日常世界に溶け込み、今となってはポケモンの存在無しに回らなくなってしまった。
工事現場では人間と共にかくとうタイプのポケモンがその力を発揮し、飲食店にはほのおタイプのポケモンが、空を見上げてみればひこうタイプのポケモンが人間を乗せつつ荷物を運んでいる。
災害が起きればみずタイプのポケモンが救助にあたり、テレビを付ければ手品師がエスパータイプのポケモンと共に手品を披露している。変電所にはでんきタイプのポケモンも居るという話も聞いたことがあった。
そうでなくとも、ポケモンは大事な友人、仲間として大切に育てている人も中にはいる。このように、現代を生きる人々にとっては無くてはならない存在となっていた。
しかし、ポケモンが与えた力はそれに留まることは無かった。
人間とは非力な生き物である。
ポケモンの持つ能力を悪用して犯罪に走る者や、秩序を脅かす者で溢れるようになってしまったのだ。
前提として、生身の人間はポケモンには勝てない。それまで平和とされていたこの国の治安は大いに乱れてしまった。
そんな人々を取り締まり、平和を取り戻さんとする動きが徐々に見られていくようになっていく。
ジェノサイドと呼ばれたその男はそんな取り締まる側の人間だった。
この世界には闇に堕ち、無法を働く人々がいる。そんな者達を
ジェノサイドは、そんな
「まぁいいだろ。今回の標的は他の組織でも無い、ただの一人の人間だ。改造ツールを使用してポケモンを作成し、ミラクル交換に流したり、独自のネットワークを築いてデータそのものを売買している疑いがある。改造データがこの世に顕現してしまうと、予想だにしない悪影響を与えかねない。それを防ぐための今回の任務だ。特に過酷でも何でもない。俺が直接出向いて対応すればいいだけだ」
時刻は二十二時を過ぎようとしていた。
目当てらしい男が特に警戒もせずに歩いている。遠目からでしか確認出来ないが、その姿はリーダーのジェノサイドとは年齢が近そうであった。
「あの男でしょうか」
「あぁ、間違いない。情報の通りだ。駅のある方角からこちらに向かっているな。帰宅途中なんだろう」
行ってくる、とだけ簡単に告げてジェノサイドはその身を翻しては瞬く間に標的に近付き、一言二言会話を交わすと何かの力を使っては地に叩き伏せた。
終始涼しい顔をしながらジェノサイドは片手に標的の持ち物であるらしいゲーム機を持っては仲間の元へと戻って来る。
「さて、どうしようか? ゲーム内のポケモンをすべて逃がすか? それとも機械ごと破壊するか?」
「俺がこうしますよ!」
筋骨隆々で長身の仲間、ケンゾウが叫ぶとその手から奪い取っては地面に叩き落とした。
「……まぁいいや」
このような光景は今回が初めてではなかった。四年間常に見続けていた、彼の"日常"である。