【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE 作:暁色の王冠
「まぁ、こんなモンかな」
変身を解いたゾロアークがこちらへと駆け寄って来る。ジェノサイドは椅子代わりにしていた階段から立つと尻をパンパンと軽くはたいた。
バルバロッサの情報によると、自分を目当てに多くの
そこへ、無人のバイクが構内に侵入し、そのままジェノサイド目掛けて突っ込んで来た。
ジェノサイドが命令する前にゾロアークが"ナイトバースト"で吹き飛ばす。
赤と黒の光を纏った鉄の塊はその瞬間にも爆発、炎上した。
「なんでキャンパス内にバイクが……? 直前に乗り捨てたようだな」
ジェノサイドのその言葉を証明するかの如く、彼の前には一人の男が立っていた。
「オイ、今のはテメェか? 構内はバイクの侵入禁止だぞ。つーか事故るところだったじゃねぇか。まともに乗る事も出来ねぇようだから壊してやったぜ、感謝しろ」
「やるねぇ〜……。流石は天下のジェノサイド様だ。今までのバトル見させてもらったが、"イリュージョン"で敵を翻弄させつつ首を獲る。それが貴様の強さだな? ジェノサイド」
ジェノサイドは身構えた。今自分と対峙している人間は新たな敵だと。
相手の挑発的な言動のせいもあったが、それとは別に戦いを強いられる他の要因が醸し出されていた。
これまでとは違う、圧迫感。嫌悪感。
それがひしひしと、身体の奥深くへと突き刺さる。
「これは、なんだ……? 匂い?」
ジェノサイドは己の嗅覚が強く刺激されていることに気が付いた。
臭いものではない。かと言って百パーセント不快なものでもない。これまでに嗅いだことのない、不思議な、そしてひとつの感情を揺さぶられる"匂い"だ。
「これで何人目だろうな……新手か?」
「じゃなかったらなんだ? 仲間か? 違うな」
短髪の男が答える。その髪は薄茶色に染めているようだった。
男は深緑色のジャケットを上に着ているが、ボタンはひとつも留めていない。風が吹く度に裾が強く揺れている。
「お前が来てから妙な匂いがする。原因はそのポケモンか」
ジェノサイドの感覚を刺激している香りの正体がその男の隣に居る。
フレフワンだ。
「当ったり〜。いやぁやっぱりジェノサイドだな。こんなマイナーなポケモンの事もよく分かっている。お気に入りのポケモンだから嬉しいぞ俺は」
「長々とうるせぇな。何しに来た? 戦うってんなら相手になるぞ」
ジェノサイドは大きく腕を振るう。それを見たゾロアークが両腕に力を込めようとするのを見て男が動いた。
「あらかじめ自己紹介しておこうか。Aランクの組織"フェアリーテイル"。そのリーダーのルークだ。よろしくな? Sランク組織のリーダージェノサイドさん」
宣戦布告。
ほんの数分前まで戦っていた"エレクトロニクス"の男と同じパターンだ。
ジェノサイドは内心ウンザリしつつも臨まんとする。
「"共有された情報"をもとに人を集めてみたんだがやっぱりケタ違いだよなぁ。二人倒した後のオレでもまだまだ疲れは無いと見える」
「踏んで来た場数が違いすぎるんだよ格下。持久戦したけりゃ二百人は連れて来いクソザコ。って待て、テメェ今情報がどうだの人をどうこう言ったな? ってことはアレか。テメェがこの包囲網の首謀者か」
「うおっ、またまた当ったり〜。やっぱジェノサイドお前すげぇよ。流石修羅の道を歩んだだけはあるな。何でもお見通しか。時間が時間だったからあまり良い連中は集められなかったけど、どうだった? オレの作戦ナイスだった?」
「ふっざけんな。雑魚相手に時間取らせるなよ」
「ゴメンゴメン、それは謝るよ。だからこうして今オレサマが……」
「テメェも含めて言ってんだよこの雑魚」
ジェノサイドは言い終える時間さえも与えない。
合図が一切無い大技は、ほとんど不意打ちのようなものだった。
ゾロアークの放った"ナイトバースト"がルークと名乗った男に突き刺さる。
衝突と同時に爆発が生まれ、黒い煙が舞う。
本来ならば軽い怪我では済まない。手加減をしたつもりは皆無だからだ。
ジェノサイドもそう思った。
だが。
「無傷……だと。そこのフレフワンの仕業か」
「大正解〜。"ひかりのかべ"ってすげぇな。衝撃がほとんど伝わってこなかったぞ」
あらゆる特殊技を半減させる"ひかりのかべ"。
これを前では、突破は困難であることを思い知らされる。
そもそも、悪タイプであるゾロアークでフェアリータイプのポケモンを相手取るということがそもそも無茶ではあるが。
「お前……少しは楽しめそうだな」
戦いを楽しもうとしている自分がいた。
本来ではエレクトロニクスの男を倒してとりあえずは基地に戻ろうと帰るつもりだった。
それを、この男に阻止された。
逃げるという選択肢もあった。負けと逃げは違うので組織が解体される事はない。だが、ここで逃げるのは勿体無いと思っている戦士のような自分がいた。
包囲されている。
改めて思うと逃げ出したくなるほどだった。だからこそ、"逃げ"も考えた。
だが。その割には多方面からの攻撃を受けない。ダーテング使いのハバリも、エレクトロニクスの男も、そしてこのルークと名乗る男も。
不思議と全員一人ひとりが前に出て戦っている。彼らが纏めて一斉にかかりに来たり、取り囲んで戦うと言った組織的な動きをまるで見せない。
そこが奇妙な点だった。
更に、他に敵が見当たらないのも不思議だった。
ジェノサイドがギョロギョロと目を開いて周りを何度も見る仕草を繰り返すも、やはり闘争心を剥き出しにしているのは目の前のルーク以外に無い。
隠れているのかもしれない。機を伺って周囲に紛れているのかもしれない。それとも、ほぼほぼ有り得ないが自分以外の他の生徒に倒された可能性もある。
考えれば考えるほど、敵の動きが分からない。仕組みが理解出来ない。
だからこそ、単純な動きしか今はしない。
「雑魚ばかりで退屈してたんだ。戦えよ」
「そう言ってくれるとオレとしても嬉しいぜジェノサイド様よォ!」
ジェノサイドはボールを同時に二つ操る。ひとつはゾロアークのダークボール、もうひとつはヒールボール。
「ゾロアークは戻れ。代わりに行け、マリルリ!」
やる事はただひとつ。
「マリルリ、"じゃれつく"!」
茶色い髪をして、深緑色のジャケットを着た目の前の男を倒すのみだ。
「"ムーンフォース"だフレフワン」
馬鹿正直に進んでくるマリルリに対し、フレフワンは足止めをせんと遠距離から攻撃しつつダメージを与える。
マリルリの攻撃は当たらない。
「クソっ、簡単には入り込めねぇか。面倒だ」
「なんだか似合わねぇなぁ? ジェノサイドが可愛い系のポケモン使うなんてよ。今の内に"トリックルーム"」
瞬間。
フレフワンを中心にその周囲の空間が大きく歪みだす。
現実世界との"ズレ"が強く、そこに空間が構成されているのか、そもそもそんな思考そのものさえも分からなくなるような錯覚を覚えるほどの歪み。
その範囲は徐々に広がり、ルークを、マリルリを、そしてジェノサイドを包む。遂にはバトルのフィールド全体に及んだ。
トリックルーム。
それは、一定時間遅いポケモンから先に動けるようになる特殊な環境だ。
普段は鈍足だが火力の大きいポケモンを使う際の補助技としてのイメージではあるが、そもそもこの技とフレフワンの相性は抜群に良かった。
「フレフワンも鈍足だが、それだけじゃねぇな……? 固有特性の"アロマベール"か」
「へぇ? 意外だ。マイナーだからあまり知られていないものかと思ってたぞ。実際知らぬまま俺の前で散ってった雑魚なんかも居たっけなぁ……」
ルークはそう言って自身の記憶を思い出そうとしているのか、頭をポリポリと搔きながらそう言う。彼も彼で
"ちょうはつ"や"アンコール"、"かなしばり"等の俗に言う"メンタル攻撃"という実戦級の技を無効化する、非常に有用な特性を相手のポケモンは持っている。
"トリックルーム"の始動役であれば喉から手が出るほど欲しい力だろう。
敵ながら非常に優秀に思える反面、不穏な空気も感じ取っていた。
フレフワンはあくまでも始動役。つまり、その後ろに本命が控えている。
"トリックルーム"展開の中、物理技主体のマリルリは思うように動けない。
技の都合上接近しないと攻撃出来ないのに対し、相手のフレフワンは遠距離から特殊技を放ってくる。
仮にマリルリに特殊技を備えていたとしても、"ひかりのかべ"の前では無力だ。
(このまま"トリックルーム"が消えるのを待つか……? いや、その前にマリルリが倒されてしまうだろうな)
ジェノサイドは悩んだ。
この時、どうすればよいか。
「だったら……。ソイツに対応出来ねぇ技を叩き込んじまえば良いじゃねぇかよォ!」
そう叫ぶと、呼応するかのようにマリルリもその身に水を纏いだした。
そして、ジェノサイドの命令を合図に突進する。
「"アクアジェット"!」
その技の名の如く噴射して飛んでいったマリルリは"トリックルーム"を無視して、フレフワンが動こうとしたその絶妙なタイミングに割り込んでいく。
特性"ちからもち"も相まった絶大なる火力がフレフワンに叩きつけられる。
「……へぇ」
しかし、フレフワンは一撃では倒れない。
一度フラフラした様子を見せるものの、すぐにバランスを整えると平然として立ち直った。
対してマリルリは強すぎた勢いが祟ってあらぬ方向へと飛び、そのせいでまたも距離が空いてしまう。
「たとえゲームのデータに基づいているとはいえ、バトルの形式がゲームと同じと思うなよ。こちらではゲームでは表現出来ない動きも可能だ。その分戦術も広がる……。どちらかというとポケモンのアニメの世界に近いものだと思いな」
「アニメの世界、ねぇ。わざわざ解説ごくろーさん。そんなんとっくのとうに知っていた事だが、お前にしては面白いこと言うじゃねぇかジェノサイド。ところでだ。お前は一体何のためにここまで戦っているんだ? 折角だし教えてくれよ」
余裕の表れか、時間稼ぎか。
ルークは唐突にバトルとは無関係の話題を振り始めた。
その不自然さにジェノサイドは眉を細める。
「何のため、とは逆にどういう意味だ。俺は"ジェノサイド"だからこそ戦っている」
「それだよ、だからその、なんでわざわざ"ジェノサイド"と名乗ってまで戦う必要があるんだと聞いているんだ。その名を振りかざしてまでやらなきゃ行けない事があると言うのか?」
ウザい。面倒臭い。
ジェノサイドがまず抱いた感情だった。
答えるのも億劫だ。ノリに任せてバトルを始めてしまったが、本音としてはさっさと終わらせてこの場から退避したいところだ。長話に付き合うつもりはさらさら無い。
「"ジェノサイド"という名を、その組織を追うと一応ひとつの目的だか目標に辿り着く。まぁ
「"ポケモンを対象とした不正利用の防止とポケモンそのものの保護"。これがどうしたってんだ? 設立当初特に明確な目的もなく適当に語句並べただけの決まり文句に過ぎない」
「違うね、それは嘘だなジェノサイド」
ルークは笑う。不敵に笑いながら指を差す。
「お前は、お前らは"ポケモンのため"と言って行動して来た……。当初の
「だからなんだってんだ、くだらねぇ。俺は世間様の言う通りテロリストか何かだろ」
「いや、そのテロリストが間違いだ。お前はテロリストなんかじゃねぇ」
一瞬だけ鼓動が早まった。
これまでの敵とは違うという緊張感が確実なものとなった。今ジェノサイドは確かに内心不安を抱えた緊張に支配されている。
「お前たちはテロ行為なんて一切していない。そもそもだ。お前の掲げる方針にある"不正利用の防止"ってヤツだが、お前これポケモンの悪用だけじゃないよな? 改造とかチートも含んでいるよな?」
「へぇ……。お前面白いな。それに気付いたのはこれまで戦ってきた人間でお前が初めてだよ。まぁ、それを知ったところでどうにもならんがな」
「それで、」
ルークはジェノサイドの言葉を無視する。
それによってムッとした彼の表情を見てルークはほくそ笑んだ。
「これまで無差別な襲撃だのポケモンを使ったテロだの何だの言われ続けてきたお前らだったが、その行為の裏には表の世界の人間だろうが、組織の人間だろうが関係ない。改造に手を染めた人間をピックアップして狙っていたって訳だ。そうだろ? まぁそんな事普通は誰も気付くはずがないから"無差別に襲撃"だなんてブッソーな言葉で一括りにされちまってさぁ」
ジェノサイドは黙って聞き続けていたが、実はそれを知ったごく一部の人間からは支持されていたこともあったのだが、どうせ言ったところで無視されるのが落ちなので何も言わないことにした。
「んで、ここから本題。オレが一番知りたいところなんだけど」
ルークの薄笑いが消えた。
声のトーンも変化し、それは真正面にジェノサイドを捉えている。
「これまで多くの人から誤解され続けて悪者扱いされ続けて肩身の狭い思いをしながら、それでいて今みたいに多くの