【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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包囲網第二幕・妖精の王②

 場違いなまでの、敵からの問題提起。

ジェノサイドはその言葉を聞きながら、いや、聞いたせいで今が戦闘中である事を一瞬だけ忘れた。

代わりに、ここまで歩んできた戦いの記録、これまで見てきた記憶の全てが、ぶわっと頭の中を駆け巡っては消えてゆく。

そんな中で思い起こされたのは、消えていった嘗ての仲間たちの姿、自分が本当に守りたかったもの、そして守るべきものの為に怒るその対象。

 

 それらが、不意に意図せずして蘇った。

目の前の男のせいで。

そのうえで、ジェノサイドはこう答えた。

 

「今ここで俺が言うと思うか? 企業秘密って言葉が何で存在するんだろうなぁ?」

 

「お前は会社じゃねぇだろ……」

 

 つまらなそうにルークは小さく呟いた。

 

 意識は戦いへと戻る。

今ジェノサイドがすべき事は過去に思いを馳せることでは無い。

目の前のフレフワンを倒す。ただひとつだ。

 

「マリルリ、もう一度"アクアジェッ"……」

 

 言っている途中に異変が起きた。

 

 なんの前触れもなく、フレフワンは突如としてボールへと戻って行った。

ルークは一つの命令も出してはいない。

勝手に戻ってしまったのだ。

彼はボールを手にしていなかった。なのでフレフワンは文字通りポケットへと吸い込まれていく。その感覚は"バトンタッチに"似ているもののようだった。

 

「流石、最高のタイミングだぜ」

 

 ルークは別のボールを握りしめる。

出番だ、と小さく呟いたようだったが、それに呼応して現れたのはニンフィアだった。

甘い色のリボンのような装飾を身に付けた可愛らしいポケモンがフレフワンと入れ替わる。

 

 ジェノサイドは舌打ちをした。何が起きたのかを理解した。

 

「フレフワンに"だっしゅつボタン"を持たせていやがったか……嫌なポケモン持ってきやがるな」

 

「まぁまぁそう言うな。この子はこの子で凄いんだぜ」

 

 "トリックルーム"の効果は続いている。ここまでは想定通りの動きだった。素早さが物を言う環境下において、そのアンチテーゼとなるこの戦術はルークに多大な勝利を齎してきた。あとはニンフィアで全抜きをしてしまえばいいだけだ。

いつもの光景、いつもの勝利。

ルークはこうして今まで勝ってきた。

それが、ジェノサイドにも通用する。

 

「今のお前のポケモン一撃で倒せる位にはな」

 

 ルークはニヤリと笑う。

ジェノサイドがそれを発見した時にはもう遅かった。

"アクアジェット"という命令より先に彼が動く。

 

「"ハイパーボイス"!」

 

 姿かたちの無い衝撃波が飛んできた。

音だけのその強い衝撃に、うるささにジェノサイドは聴覚を一瞬奪われ、反射的に目を瞑った。

その直前、彼は確かに見た。

自身のマリルリが技を受けて飛ばされるのを。

目を閉じるまでの一瞬の出来事だったので、何かの見間違いと思うほどだった。

 

 静寂はすぐにやって来る。

ジェノサイドはゆっくりと目を開ける。

 

「間違いじゃ……なかったか」

 

 マリルリは倒れていた。

戦闘不能。もう戦える力は残っていない。

無言でボールに戻すと、それから暫くジェノサイドは固まった。

 

 ルークは、そんなジェノサイドの姿とニンフィアとを交互に見ることしか出来なかった。

 

(なんだ? 天下のジェノサイド様がたかが一匹倒された程度でここまで考えるか? 戦闘放棄か考え事か……。まぁ後者だろうな)

 

 今ここでどんなに時間を消費してもバトルにはカウントされないので、"ひかりのかべ"も"トリックルーム"も消えることは無い。

なので、何もしないという行為はなんの意味も為さない。

ゆえに、ルークにとっては彼が不気味に見えた。

 

「オイ、遅延行為とかどうでもいいからよ、さっさと次のポケモン出せよ。それとも万策尽きたか? 格下相手によぉ」

 

 明らかな挑発。だが、それでもジェノサイドの表情に変化は無かった。そもそも、ちゃんと聴いていたのかどうかも怪しい。

だが、その心配をよそに次のポケモンが繰り出された。

"ひかりのかべ"を意識してか、物理主体のポケモン。ヒヒダルマだ。

 

「ヒヒダルマだと……?」

 

 ルークはその声色とは裏腹に内心驚いた。

タイミングが分からないからだ。

 

(なぜこのタイミングでヒヒダルマなんだ……? 炎で物理だから相手にとっては相性は良いんだろうが、コイツまだ"トリックルーム"の影響下にある事を忘れているんじゃねぇのか?)

 

 不可解。それに遭遇すると頭の回転が早まる人間が中には存在する。ルークもその一人だった。普段以上に負荷を掛けているのが自分でも分かるほどだ。

 

(奴は"きあいのタスキ"でも持たせているのか? そうすれば反撃に転じる事は可能だ。だが……)

 

 一部のポケモンには、その姿や特徴からイメージを持たれる場合が少数ながらもあったりはする。それが実戦に向くか否かは別として。

例えるなら、ホエルオーならば"しおふき"というように、ヒヒダルマにもそのようなやんわりとしたイメージがある。

 

(ヒヒダルマと言えば"フレアドライブ"だ。だから普通はヒヒダルマにタスキは持たせねぇ。技との相性が最悪だからな。と、なると奴のヒヒダルマの型がどんなものか、何故このタイミングなのか……益々分からねぇ! ジェノサイドっ! テメェは何を考えていやがる!)

 

 その答えは、本人以外は分からない。

だからルークは悩む。だが、どれほど悩んでも結局答えは「わからない」だった。

それに、あまり考えていられる時間も無い。

その分相手に攻撃を許してしまう隙を与えてしまうからだ。

 

 防御面が脆いフレフワンとニンフィアにとっては正に天敵。

本来ならば相性の良いポケモンと取り替えたいところだが、手持ちの問題上そうもいかない。ならば、今ここで摘むしかない。

 

「仕方がねぇな。相手の攻撃が届かない遠距離から"シャドーボール"だ!」

 

 マリルリ戦と同じく、物理主体のポケモンがこちらまで迫ってこないよう遠くから技を放つ。

理想としては"ハイパーボイス"を使いたかったが、ニンフィアの特性は"フェアリースキン"だった。ノーマル技に補正がかかり、フェアリータイプの技へと変化するものなのだが、それが仇となりヒヒダルマには半減されてしまう。

なので、ニンフィアの高いとくこうが活かされて尚且つ補正の掛からない"シャドーボール"なのだ。

 

「避けられるなら避けてみろ! お前のヒヒダルマに突破出来るかなぁ!?」

 

 興奮のあまり叫んだルーク。

目を大きく開いてその様を凝視する。

だから、見えた。

 

 黒い塊がヒヒダルマに直撃する直前に、ジェノサイドが何か命令したのを。その通りにヒヒダルマが動いたのを。

 

(来る……! 奴は"フレアドライブ"を使いながら"シャドーボール"を避けてこちらに向かってくる!!)

 

 そう身構えたルークだったが、実際は違った。

ヒヒダルマの口から赤い炎が、"かえんほうしゃ"が放たれた。

 

「なんだとぉ!?」

 

 その炎は黒い球とぶつかり合い、爆発し霧散した。

 

「"かえんほうしゃ"……? 一体奴は何を……まさか!?」

 

 物理一本の普通のヒヒダルマでは有り得ないチョイス。

"普通"ならば。

だとしたら、考えられるのはひとつしかない。

 

「特殊技を使うヒヒダルマ……まさかそいつは、夢特性の"ダルマモード"か!?」

 

 "ダルマモード"。

超火力を有するヒヒダルマのもうひとつの姿。

特定の条件下にてこうげきが大幅に下がり、代わりにとくこうが大幅に上昇する。

簡単に言えばこうげきととくこうが入れ替わるものだ。

つまり、超火力がとくこうにシフトする。

しかし、その特定の条件下というものが。

 

「お前馬鹿か!? そいつはダメージを受けていないと使い物にならない代物だ。しかもヒヒダルマの耐久はお世辞にも高いとは言えない……。"ダルマモード"なんていう失敗があったからこそギルガルドというポケモンが生まれたのをお前は知らないのか?」

 

 正確には体力が半分を切って初めてフォルムチェンジが成立する。

要するに使いにくいポケモンなのだ。

 

 それでも相手はニンフィアだ。普通の思考力でいるならば、本来のヒヒダルマで戦った方が遥かにマシである。

 

「なんとでも言え。俺のヒヒダルマは、こんな所で終わるほど単純なモンじゃねぇぞ?」

 

 ジェノサイドは嗤った。まるで相手を嘲るように。

 

 ルークは益々悩んだ。

最早ジェノサイドという男を理解すること自体無意味で無駄で不可能である事を悟る。

それでも状況を変えるために考えるしかない。

 

(下手にダメージを与えてしまえば"ダルマモード"が発動してしまう……。だが、奴の耐久力では耐え切るとは思えない。でも、タスキを持っている可能性は? "フレアドライブ"の有無は? クソっ、分からねぇ……)

 

 悩みに悩み抜いた末に、答えをひとつ導く。

 

「ニンフィア、"めいそう"だ」

 

 一見無防備とも取れる姿勢でニンフィアは佇む。

全神経を集中させ、とくこうととくぼうを上げる技だ。

 

 それを見たジェノサイドは今だと言わんばかりに指示を出す。

 

「"フレアドライブ"」

 

 ヒヒダルマは、全身に巨大な炎を纏って突進の構えを見せると、こちらへと突き進んできた。

 

「キタァ!!」

 

 この時を待っていた。

強く感激したルークは叫ばずにはいられなかった。

 

「"めいそう"はあくまでも陽動! ただの陽動で火力も上げられるんなら得しかねぇだろっつーの!」

 

 すべてが予想通りだった。

そしてこれからも、予定通り指示を飛ばす。

 

「ニンフィア! "シャドーボール"!」

 

 ヒヒダルマと"シャドーボール"を衝突させることによりダメージを与え、相手が地面に着地した瞬間を次の技で仕留める。

作戦は完璧だった。ここまでは。

 

 二つの技が炸裂し、黒煙が舞う。

何も見えないことで不安を覚えたルークだったが、煙はすぐに飛散し、ニンフィアが立っている光景が見えたのでそれはすぐに消えた。

 

 しかし、ヒヒダルマの姿が無い。

倒れるどころか、どこを見てもその姿が見えなかった。

 

(遠くへ吹き飛んだか……?)

 

 最初はそう考えたルークだったが、やはり何処にも見当たらない。

確認のためにニンフィアから視線を逸らしたその時。

 

 後ろから、"なにか"が迫った。

かなり速い"なにか"だった。

それはルークにもニンフィアにも追い付けない。

既に"ひかりのかべ"と"トリックルーム"の効果は消失している。

 

 "それ"はニンフィアの超至近距離から光線を放った。

避ける術は無い。直撃を受けたニンフィアは飛んだ。

 

 だが、違和感はそれだけでは無かった。

得体の知れない物体の放った光線。それがかなり特徴的だった。ルークはそれに見覚えがある。

赤と黒が混じったような、禍々しくも痛々しい色をしたそれは。

 

「まさか……"ナイトバースト"!?」

 

 答えが出た瞬間だった。

つまり、それは。

 

「ヒヒダルマは……これまでの動きすべてが……奴を出した時からの全部が、お前が魅せていた幻影だったのかよ!?」

 

 それを聞いたジェノサイドは再び嗤う。

それが合図となり、得体の知れないヒヒダルマは真の姿を現した。

鋭い爪と眼差し、獣と表すにふさわしい体毛。細い腕と足。

紛れもなく、ゾロアークだった。

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