【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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激闘 ライブハウス

 九月二十日。土曜日。

外はまだ明るい。そんな中でも、ジェノサイドは仲間と共に動いていた。

 

「この辺りでしょうか、リーダー」

 

 彼と共に動き常に隣を守るように歩いているのは、鍛えたような筋肉を備えた坊主頭のケンゾウと、彼ら二人と比較して背が低く、まるで寝癖を直さずそのままにしているかのようなボサボサ頭をしたハヤテだ。

二人は仲が良いだけでなく、自他共に"ジェノサイドの両腕"として組織内でも認められている側近のようなポジションでもあった。

そのため、組織として行動する際はこの二人もセットで動くことが多い。今日がそんな日だった。

 

「あぁ。既に居場所は掴んでいる。奴はその内出てくるだろう」

 

「出てくる?」

 

「あぁ。今回の目的は組織"レシェノルティア"への攻撃だ。名前を聞いたことは?」

 

「たまに、ちらっと聞くぐらいは……」

 

「だろうな。俺も画面越しにしか見たことがない」

 

「レシェ……ってなんすかリーダー?」

 

 しかめっ面をするハヤテをよそに、ケンゾウが割り込む。

 

「言えないからって諦めるなよぉ……。レシェノルティアは深部(ディープ)集団(サイド)の組織だよ。ネット上……SNSだとかでいっつも邪魔をして来る連中なんだ。誹謗中傷やデマだけならまだ良いんだけど、僕達が別の組織と戦っている時に漁夫の利を得るような言動をしたり任務の邪魔になるようなパフォーマンスを繰り返す質の悪いストーカーみたいなものなんだよ。最近は"例の大学に奴がいる!" みたいな事も言ってて軽い騒動になっちゃったよね」

 

「オイ、それマジか!」

 

「ケンゾウ……まさかこれまでの話全部知らなかった……?」

 

 何も知らないという事は理解力の問題だったのか、本当に情報が入ってこなかったのかどちらかだとしてもリーダーの両腕ともある人間がこのようでは些か不安ではあった。

だが、それを無理矢理押し殺して一転、ハヤテは振り向く。

 

「それで、リーダー」

 

「なんだ?」

 

「レシェノルティアの連中がこの街にいるという情報……その特定はどのようにされたのですか?」

 

「あぁ、それなんだが、すべてバルバロッサに頼んだ。奴曰く結社の持つデータを参考にしたらしい」

 

「それって……バレたらマズいやつでは……?」

 

「あぁ。マズいよ。だからバルバロッサに任せたんだ。奴ならある程度平気らしい。結社に知り合いでも居るとか、奴なら許される特権的? みたいなものがあるらしい。詳しくは知らん」

 

「いやそれめっちゃ重要な話ですやん……。今度詳しく聞いてみた方がいいですよ?」

 

「リーダーリーダー! それってつまり俺らの情報も同じように扱われて敵に渡ったらヤバいってことっすよね!」

 

「ケンゾウお前……。今日はやけに冴えてんな。確かにお前の言う通り、相手方にもバルバロッサのようなポジションの人間が居て、俺らの情報を入手されたり拡散でもされたらかなりタチ悪いよな。と言うより、今から戦う相手はまさにそんな事ばかりを繰り返している奴だ。出処は不明なものの、不特定多数の組織の情報を入手しては売買してるって話らしい。それが木曜にあった包囲網にも一枚噛んでいるって時点で俺からしたら一発アウトだろ」

 

「リーダー、一つ引っかかるのですが……」

 

「どうした?」

 

「レシェノルティアは深部(ディープ)集団(サイド)のデータを他組織に売っている連中なんですよね? そんな事したら結社に怒られるんじゃないですか?」

 

「怒られるって……なんか表現可愛いな。そこは詳しくは知らないな。情報源が結社が秘匿中の秘匿としている管理のためのデータだった、ってなら確かにヤバそうだが、よくよく考えたら結社が嫌う深部(ディープ)集団(サイド)の組織とかもゴロゴロ居そうだし、そんな邪魔な組織がレシェノルティアの工作のお陰で消えました、となったら嫌な顔もしないだろう。実態としては見て見ぬフリと言うか黙認と言うか……あそこまでの特殊な技能を持った人間をどうこうってする訳にもいかないんだろうな、結社としても。もしくは、"実は組織レシェノルティアと結社は協力関係にありました"って可能性も有りそうだがな。ってかそっちの方が有り得る」

 

「なんか……思ったより恐ろしくないですか? それ」

 

「だろ!? 俺たちが暮らしている、一見すると平和そうに見えるこの世界も見方を変えたら案外脆いもんさ」

 

 ジェノサイドはニヤリと笑う。二人が知り得ない情報を披露したというマウントも、この笑みには含まれていた。

 

 今彼らが動く理由。

それは、ジェノサイド含め組織のデータや情報を外部に流す不届き者を叩く。その代表としてジェノサイドが選ばれたに過ぎない。

 

「レシェノルティアはDランクの低レベルな組織だ。こんな弱小組織倒したとこで何かが変わるわけがねぇが……まぁ抑止力ってことで。お小遣いも欲しいしな」

 

「リーダーリーダー! ずぅぅぅっと気になってたんすが、ランクってどうやって決まるんすか? てかランクってなんすか!?」

 

「け、ケンゾウ!? まさか今の今まで知らなかったなんてオチじゃないよね!?」

 

 深部(ディープ)集団(サイド)の個々の組織にはランクが振られている。

Sを頂点とし、AからDの下級ランクが用意されており、どの組織も設立時はDから始まる。それからは結社から下された任務を受けたり、組織間抗争を繰り返すことでランクも結社の判断を元に上がっていく。

組織ジェノサイドが最強と言われる所以は揺るぎないそのランク付けにあった。

 

「じゃあ、今日のレシェなんとかはDだからクソザコってことか?」

 

「レシェノルティア! まぁ……そうなるね。でも今どきランクなんてアテにならないからよく分かんないけどね。それよりもリーダー、今日は個人的な都合があった日では? いくら相手がザコとはいえ、リーダー自ら赴くのはリスクが高すぎます。ここは僕とケンゾウに任せて、そちらに行くべきではなかったのではないですか?」

 

「いや、別に。割とどうでもいい用事だしほっといて来たよ。個人的にはこちらの方が大事になった」

 

「ですが、事が事ですし僕とケンゾウに任せて今から戻っても全然良いですよ?」

 

「どんだけ俺を帰らせたいんだお前。……まぁ、最初はそれも考えたんだけどね。場所が場所だからそれも止めようってなった」

 

「場所?」

 

「今日此処で、俺らはレシェノルティアと戦う。その一方、"表の"世界では今日この街で俺の所属するサークルの集まりがあって、友人たちもここに来ることになっている」

 

 嫌な偶然もあるものだった。

ほんの数日前、ジェノサイドが学生として暮らす表の世界では『Traveling!!!!』という旅行サークルが調布(ちょうふ)という街で飲み会を行う事を決めた。

そんな街には『レシェノルティア』という深部(ディープ)集団(サイド)の組織も紛れている。

 

 その世界の対比がたまらなく気持ち悪い。

そのせいでジェノサイドは行く気を失せた。

 

「とにかく行きたくなくなった。仮に行くとしても、抗争の後に何食わぬ顔で飲み会に飛び入り参加ってのも嫌すぎるだろ」

 

「ギャップが……半端ねぇっすね」

 

 ケンゾウもそのイメージにドン引きする。

 

「ではリーダー、これからレシェノルティアの基地へ向かうとして……どうします? もう始めますか?」

 

「そうだな。早めに終わらせておこう。奴の居場所は掴めている。駅の裏路地にあるごく普通のライブハウスだ。普段はそこで収入も得ているらしいな」

 

「リーダー! それはつまり基地を使って金を得ているってことっすけど、そんなのは認められるんすか!?」

 

 それはケンゾウの野太い声だった。

彼はどちらかと言うと論を交わすよりかは拳を交えるタイプの人間なので、こういう話題はあまり好まないからか乗ってくることはない。なので今この話を交わしている姿は、ジェノサイドにとって妙な意外性を放っているようなものだった。

 

「結社が俺らに押し付けたルールは幾つかあれど、その中に『基地を金銭目的で利用してはならない』とか、『組織的活動以外での金銭の取得は許されない』なんてものは無いからな。まぁオッケーなんだろ。ライブハウスが実は深部(ディープ)集団(サイド)の組織所有でした、ってのがバレたら多分ダメだろうけど」

 

「だったらリーダー! 俺らも基地を魔改造して副業始めましょうよ!」

 

「アホかケンゾウ。あの基地は姿を隠すのを徹底した形なんだよ。今更それを崩すなんて有り得ない。そうですよね? リーダー」

 

「ハヤテはよく分かっているな。その通りだよ。基地を変える予定は無いな。でも、それが収入源にもなれたらと考えると中々面白いアイデアなのも確かだ。金の蓄えはあるから変えようと思えば変えられるんだけどな」

 

 そのように会話を続けた三人は駅構内を歩き、反対側へ出ると少し歩いて問題のライブハウスの前へと辿り着く。

 

「こうして見るとライブハウスも良いな」

 

 ジェノサイドは地下のライブハウスへと続く通路を歩きながら正直な感想を述べた。

 

「地上から地下への通路が決まっていて、それでいて細い。入口も狭いから敵からの侵入もある程度防げるな」

 

「頭も良いですよね。それでいてライブハウスの利用料も得られるというのも面白い発想です」

 

「いいから早く行ってくれ! 狭い!」

 

 用心して歩く二人の背から、ケンゾウの悲痛な叫びが聞こえる。

急かされた気がしたジェノサイドとハヤテは早足気味に進み、扉へと近付いた。

 

「いいか、ドアを開けたらすぐに攻撃だからな。油断するなよ」

 

 二人の返事が聞こえる。

ジェノサイドは勢いよく扉を開ける。そして叫んだ。

 

「レシェノルティア! Sランク組織ジェノサイドはお前らに対し宣戦布告する!」

 

 ルールに則り宣言するジェノサイド。本来は戦うと決められた日時以前にやるものと半ば暗黙の了解とされているものだが、当日その瞬間に行っても何の問題も無いため、今回はそれに従った。と言うより、以前やられた神東大学での包囲網の事件もその瞬間に発せられている。彼の心情的にはやられた事をやり返したつもりだった。

 

「いない……?」

 

 堂々と侵入した三人であったが、薄暗い部屋には自分達以外の誰かが居る形跡が無い。

三人の足音と、ジェノサイドの声が無駄に響くのみだった。

 

「人っ子一人居ないっすよ」

 

「おかしいな……此処で合ってるはずだが……」

 

 言いかけた時だった。

背後からずるりと、鋭い刃物で撫でられたようなおかしな感触が全身を伝う。

 

「リーダー……? リーダー!!」

 

 異変にいち早く気付いたケンゾウが駆ける。

だがそれも間に合わず、あたりに人が倒れる鈍い音が響く。

 

 二人はそちらを見る。

刀剣を持った一人の男が、倒れたそれに対し冷たい笑みをぶつけていた。

 

「また誰か来たと思ったら……まさかのジェノサイド? 凄いのが来たもんだなぁ」

 

 表情とは対照的にその声色からは喜びを感じられない。その男は剣を二人に向ける。

 

「ここに来たってことはあれか? 妙な所から情報仕入れてきた感じだよね。ボクが此処を根城にしているなんて、結社にしか伝えてないからね」

 

「俺たちや結社が分かるってことはテメェレシェなんたらの人間だな! てめぇこそ武器なんか使っていいとでも思ってんのか!」

 

 ケンゾウは剣の威嚇にも怯まず、拳を握り今にも突っかかりそうな雰囲気を放つ。人が見ればそちらの方に恐怖を感じる程だった。

 

「ん〜、宣戦布告したら基本ポケモンしか使わないけど、戦闘中に不意打ちに拳銃ぶっぱなして敵を倒すとかたまに聞くし別にいいんじゃない? それにボクはまだその宣戦布告受け入れてないからね。あくまでも今はまだ組織対組織ではなく、組織対個人ってところかな」

 

 結社からの規定には、組織間の戦いへの決まりはあっても、組織と個人との戦いの規定は存在しない。それはつまり、個人であれば相手が組織そのものだろうが、組織の長であろうがどんな手を使っても良いということだ。

 

「ボクはルールに従った。その上でたった今ジェノサイドを斬り殺した。組織の長が死ねば組織はもう成り立たない。ホラホラ、ジェノサイドはもう滅んだんだ。帰れ帰れ」

 

 その言葉に苦い顔を交わす二人。

だが、その二人は違和感を感じていた。

刀剣を持った男も同様だった。人を斬ったという感覚が無い。

ジェノサイドの倒れた体から異音がした。

と思うと、その体は空中に浮かぶと一回転し、ゾロアが姿を現す。今度も主人に変身していたのだった。

 

「ゾロアの……変身?」

 

「と言うかは化けだな。いやー、びっくりした。眺めていたからどうとでもなかったけど、もしもあれが自分だと思うとやっぱりビビるよなぁ。後ろからの不意打ちはやっぱり慣れない」

 

 そう言っては本物のジェノサイドはその部屋に備え付けられていたカウンターの影からもぞもぞと現れる。元から薄暗い部屋だったのでタイミングを見て入れ替わったようだ。

 

 嬉しそうに走ったゾロアはジェノサイドの腕の中へと飛びつく。

ジェノサイドはゾロアを抱え、撫でながら言う。

 

「お前がレシェノルティアか」

 

「うん。レシェノルティアのヨシキ。覚えてくれると嬉しいな」

 

 その名前には聞き覚えがあった。

バルバロッサから提示された情報、そこに載っていた人物。

Dランク組織レシェノルティアのリーダーとして記録されていた名だった。

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