【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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暴いた真実、ふくらむ疑惑②

 突如として空が、闇が塗り潰された。

そこに居る誰もが、今ある現象を説明出来ない。

それはまさに、怪奇で、摩訶不思議で、そして非日常的な景色ゆえに美しいものとして映っていた。

 

「なんだ……あれは」

 

 (おのの)くようにして呟いた(なばり)洋平(ようへい)は、外の景色を一通り眺めたあと、周囲に異変が起きていないか教室内を一瞥した。幸い、サークルのメンバーの中に危害を加えられた者はいないようだった。

むしろ、普段絶対に見られないその光景にはしゃいでいる者までいる程である。

先程まで窓際で会話をしていた四年の先輩たちは綺麗なものを見る眼差しで興奮しているようだった。

 

「すごーい! ねっ、見てよほら桃花(ももか)!」

 

「見てるって。でもあれ何だろうね? 凄く綺麗」

 

「あの……高草木(たかくさぎ)先輩、名里(なざと)先輩、気持ちは分かりますが……窓も開けっぱですし危ないので離れましょう?」

 

「レン君、意外と冷静なのね? 逆に怖いかも」

 

 佐野(さの)の彼女である高草木(たかくさぎ)結衣(ゆい)が微笑みながら隠の顔を見つつそう言う。隣の名里(なざと)桃花(ももか)も明るい表情を向けているようにも見えた。

 

 自分が来てから訪れた暗い雰囲気が、夜空共々吹き飛ばされたようでこの時ばかりは内心外の異変に感謝していた隠だったが、その安らぎもポケットで振動したスマホによって断ち切られることとなる。

 

「な、何でこんな時にハヤテから……?」

 

「レン、誰からだ?」

 

「ちょっと待ってろ穂積(ほづみ)、後で説明する。もしもし!?」

 

 隠は早口になりながらも仲間からの通話に応えた。この時間に深部(ディープ)集団(サイド)の面々から連絡が来ることも中々無く、今ある状況と相まって嫌な胸騒ぎが響く。

 

『あ、よかった……。すいませんリーダー。こんなお時間に』

 

「それはいい。どうかしたのか?」

 

 電話越しにハヤテは、向こうも只事でないことを察した。彼の語気は明らかに普段のものと違う。荒々しく、どこか暴力的なそれだった。

 

『それがですね、今基地でちょっと変なことが……』

 

『ヤバいヤバいヤバい! マジヤバいっすリーダーぁぁぁぁ!! 助けてー!』

 

 突然ハヤテのものと入れ替わった絶叫に物理的に耳を痛めるジェノサイド。その声には聞き覚えがあるので簡単に怒鳴り返す。

 

『すいません……ケンゾウのやつが僕の携帯をひったくりまして……』

 

「声で分かったよ。なんかそっちも混乱しているな?」

 

『えぇ。分かります? と言うのもリーダー、先頃から基地全体に変なサイレンが鳴り響いているんです』

 

「サイレンだと?」

 

 あまりにも奇妙な報告だった。ジェノサイドは基地にそのような類の物を取り付けた覚えは無い。

 

「知らないぞそんな物は。お前ら何かいじくったのか? まぁいい。とりあえず聴かせてくれ。このままでいいから」

 

『いえ、僕は何も……。このままですか? 分かりました』

 

 ハヤテは携帯を耳から離して出来るだけ高く腕を伸ばす。少しでも多くの音を拾えるように。

 

「……聞こえるな、確かに。甲子園とかで聴きそうな不気味なサイレンが」

 

『えぇ。とにかくこんな状態なので基地中が軽くパニックなんです。なので今はメンバー全員に外に出ないよう指示を出したところです』

 

「よくやった。サイレンは何処から流れている? それは分かるか?」

 

『いえ、まだ何も……。基地と言っても広いですからね』

 

「バルバロッサは? 奴は居るか?」

 

『いえ、姿が見当たりません』

 

 身体全体を徐々に蝕むような心地の悪い鼓動が早まった。ジェノサイドは嫌な予感を募らせてゆく。

組織の中で一番の頼りとなる人間が不在となると、やれる事も動ける範囲も自然と狭まってしまう。

ジェノサイドは、あらゆる算段を頭の中で何度も講じながらとりあえず返事だけはしてみた。

 

「わかった……。通じるかどうか分からないが、俺からバルバロッサへ連絡してみる。お前たちは引き続き基地内で待機しつつ見回りを頼む」

 

『分かりました。……ところでリーダーはこの後どうするおつもりですか? こちらへ来られますか? どうも、様子が普段と違っているようで……』

 

 流石はハヤテだとジェノサイドは感心の意味を込めて鼻で笑った。

彼の言う通り、今日この時間だけで色々と起きすぎてしまっている。

 

「ケンゾウと変わってくれ。そして一瞬でいいから外に出るように行ってくれ」

 

『いいんですか? まぁ扉はすぐそこなのですぐに見られますが。あっ、ケンゾウ、リーダーから。あと扉開けて外出てだって』

 

 はっきりとではなかったが、電話越しに二人の会話が聴こえた。今向こうで二人は一緒に居ることにどこか安心感を覚える。

 

 ケンゾウは戸惑いつつも携帯を握り、扉を開けようとするところだった。

 

「まぁあれだ。とりあえずは落ち着くことだケンゾウ。落ち着いて空でも眺めてみろよ。嫌なことがあった時は空を眺めると記憶に残りにくいって言うだろ?」

 

『なるほど! それはいい考えっすね! こんな時にも俺のことを想ってくれるなんて……なんて優しい人っすかリーダーは! よーし、これで外を……ってなんじゃこりゃー!』

 

 当然それは優しさではなく意地悪である。こんな最悪とも言える状況の中、気分転換のためか、余裕を見つけつつあったからか、それとも単にちょっかいを掛けたくなったからか、とりあえず様々な思惑を抱いたジェノサイドは必死に階段を登ったり、思い切りドアを開けるなどの自然の音の果てに発せられたケンゾウの叫びに、必死に笑いを堪えて身体を捩らせる。傍から見れば物凄く変な挙動と顔だったようで、周りの先輩たちや同級生がおかしな物を見ている顔を自分に向けているようだった。

 

『リーダー……これは一体……』

 

 隣から叫び声がする中、ハヤテが冷静を装って携帯を取り戻す。

 

「分からねぇ。お前から電話が来たほんのちょっと前に突然こんな事に……。今何が起きているのか、全く分からないんだ。今俺の目でもこんな空模様だ。どうやらそっちでも同様みたいだな」

 

 スイッチが切り替わる。

隠洋平から、ジェノサイドへと、その意識が。

 

「いいか、さっき俺が言った通りだ。もう外はいいから、基地に戻って俺の言う通りに動いてくれ。俺もこの後すぐにバルバロッサに連絡する。その返答次第でまたお前に電話する。その時も俺の指示に従ってくれよ」

 

 ハヤテは迷うこと無く返事をした。同時に通話を切る。それから、一切の迷いが無いかのようにバルバロッサの番号を電話帳から拾っては通話ボタンを押した。

 

 三度コールが鳴る。しかし、反応は無い。

 

「おい、レン……お前何してんだ?」

 

「いいから待ってろ穂積!」

 

 下手をしたら組織存続の危機であるかもしれない事態だ。横槍を入れられた気がした隠は、右手の掌を大きく広げて穂積に向かって待ったのサインを投げつつ軽く怒鳴る。

 

 五度目のコール後に反応があった。

声そのものにも皺がありそうな、低くくぐもった男声だ。

 

『やぁ。珍しいな、お前さんからこうして電話を貰うとは』

 

「バルバロッサ、お前今何処にいる?」

 

『それがどうかしたのかね?』

 

「皆お前が居ないと不安になっている。教えてくれ! お前は今……何処で何をしているんだ? まさか、"うつしかがみ"を持って外に居るんじゃないだろうな!?」

 

『ふふっ……心配してくれているようで嬉しいよ。私は無事だ。今……大事な、大事な用があって外に居る。暫く帰ることは出来ない』

 

「だから……っ! 何処に居るんだ!」

 

『そこまで気になるのなら……少し私の用事を手伝ってもらおうかな。最高の景色を、最高の場所からお前さんにも見せてやろう……。大山だ』

 

「なに?」

 

 耳障りなノイズに混じって地名のようなものが聴こえた気がした。ジェノサイドは全神経を聴力に集中させる。

 

『神奈川県は伊勢原(いせはら)市の大山(おおやま)。その阿夫利(あふり)神社に、私は在る。とても、とても大事な仕事だ。可能であるのならば是非とも来て欲しい』

 

 返事はしなかった。ジェノサイドは有無を言わさず通話を切るとすぐにハヤテへ折り返そうとしたら、向こうからやって来た。

 

「もしもし、丁度今お前に掛けようとしたところだ」

 

『それなら良かったです。……どうやら通話中でしたようで、という事は繋がったのですね?』

 

「バッチリだ」

 

 ジェノサイドは辛うじて聞き取った地名を狂い無く言えるか頭の中で何度も反復する。しかし、その努力は思わぬ形で裏切られた。

 

『リーダー、僕からも伝えたい事が幾つかあります。まず、バルバロッサは基地内には居ませんでした。そして、バルバロッサの部屋に"うつしかがみ"が有りませんでした。それから……』

 

 それらの情報は自ら入手していた事だったので気にも留めず、半ば聞き流す。むしろ、間違って覚えていないか、ハヤテにしっかりと伝えられるかそこに多少の不安が生まれる。

 

『バルバロッサの部屋の電源の付いたディスプレイに、奇妙な地図と表記がありました。どうやら、何処かの山を指しているようです。それを調べたところ……神奈川県にある大山という場所のようでした』

 

「マジか……ビンゴだ、ハヤテ!」

 

『ビンゴ……とは?』

 

「バルバロッサから何とか教えてもらったんだ。なんでも、伊勢……原? の、大山ナントカ神社って所に今奴は居るらしい」

 

『神社……。大山(おおやま)阿夫利(あふり)神社のことでしょうか?』

 

 自身の思い描いた形としてではなかったが、ひとまず向こうにも伝わった。

ジェノサイドはまず小さく安堵する。

 

「よし、いいかハヤテ。今から俺の言う事をよく聞くんだ」

 

 ジェノサイドは窓を見つめる。そしてその先の、黄金に輝く空を睨む。鍵を緩めて窓を開けると、携帯を持つ方とは逆の手で窓枠を思い切り掴んだ。

 

「組織の中の、非戦闘員を除いた全員で基地を出てそこへ向かえ」

 

『全員ですって!? 危険過ぎます!』

 

「いいから、全員だ。場所もお前が皆に伝えろ。そして各自どんな手段でもいいからそこへ行くんだ」

 

『リーダーからの指示ですのでそうしますが……本当に良いんですね?』

 

 一際大きく鼓動が鳴り響いた。

ここで間違えたら取り返しのつかない事態に陥るのは必至だ。特に、ジェノサイドは常に多くの人間から狙われている身であるがために。

 

 それでも、ジェノサイドは信じた。

最も信頼する仲間の声と、その直感を。

今、この世界で何が起きようとしているのか。それを見届けるための覚悟を。

 

「あぁ。やってくれ。頼んだぞ」

 

 それだけ言うと、ゆっくりと携帯を持つ手を下げた。

俯きながら、深呼吸をする。

そして、宣言するようにジェノサイドはそこに居る全員に対し言った。

 

「ごめん、皆。俺は一旦此処を離れる。どうしてもやらなくちゃいけない事があるんだ」

 

「今までの電話は何だったんだよ……。まさか、お前の組織の連中か?」

 

「そのまさかだ。それから、それだけじゃない。もしかしたらだが……この空の異変と何かしら関わりがあるかもしれなくなってきた」

 

「どうして!? あそこまでする理由ってなに!?」

 

 悲鳴に近い叫びのようだった。隠と同じく二年にして、その学年内では二人しか居ない女子の内の一人、大三輪(おおみわ)真姫(まき)が立ち上がる。女性の割にはモデルを思わせるような高い背丈が、その存在感を放っていた。

 

「それは俺にも分からない! けど、まだ確定した訳じゃねぇ。……が、同じタイミングで異変が起きすぎている。それからだが……」

 

 ジェノサイドは遂に窓枠に足を引っ掛けた。律儀に出入り口から建物を出るのではなく、窓から直接飛ぶようだった。その動作に不安がる人も居るようだったが、彼には空を飛ぶポケモンがある。

 

「俺が戻ってくるまで、ここを離れないでほしい」

 

「えっ? それは何でかな? レン君」

 

 あまりの脈絡の無さに、佐野が間抜けそうな声を発したが、その反応は当然と言うか、そう来るだろうとジェノサイドも予想していた。だからこそ、緊張とは裏腹にスラスラと口上で述べる事が出来る。

 

「さっきも軽く説明した通り……俺は皆と会う前から深部(ディープ)集団(サイド)っていう、あんまりよろしくない世界で生きている人間でした。とにかく俺は人一倍狙われる人間なんです。特に、"うつしかがみ"を回収した時から、この大学内でも……。もしかしたらですが、俺を狙ってか、それとも……俺と近しいって理由だけで襲ってくる連中が今後現れる可能性も無きにしも非ずなんです。俺は皆を守りたい。でも、それはコレのせいで出来ない。だから、俺が戻るまで皆此処で待機していて欲しいんです」

 

「待てよレン……。結局はお前の勝手じゃねぇか!」

 

「気持ちは分かるよ穂積! でも約束してほしい。俺は絶対戻る。戻ったうえで、またちゃんと……。しっかりと話をする。それを聞いて欲しい」

 

 思わず怒りの感情さえ込み上げた穂積だったが、彼の強い決意を秘めたかのような目を見て、喉元にまで出かかった思いを固く呑む。男同士通じ合う"なにか"がそこにはあったようだった。

 

「分かった。絶対だぞ」

 

 穂積のその返事に頷いたジェノサイドは、ポケットからオンバーンの入ったダークボールを取り出しては広い空に向かって放り投げる。直後として、黒々とした翼竜が姿を現す。

 

「気を付けてね、レン君」

 

「本当に迷惑ばかりで……すいません、佐野先輩」

 

 そう言うと、足に力を込めて窓から飛び降りた。

 

 神東大学の旅行サークル『Traveling!!!!』が日々活動している教室は構内のとある建物の五階にある。本来であれば窓から落ちれば転落死は避けられない。そんな高さだ。

だが、ジェノサイドの落ちた先にはポケモンがいる。

慣れた動きでオンバーンは自らの主を捕まえると、その指示のもと、光の発信元へと向かって突き進み始めた。

 

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