【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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暴いた真実、ふくらむ疑惑③

 人影はもう無かった。

今はもう使われなくなった工場の跡地、その地下に伸びるSランク組織"ジェノサイド"の基地はとにかく横に広く、すべてを見て回るとなるとかなりの骨が折れる作業とはなるのだが、すべての空間を二度三度と確認したハヤテは自信を持ってこれまで来た道を引き返し、外へと向かう。

 

 夕方から夜に切り替わる時間だというのに、外は明るかった。金色に輝く空のせいだ。

 

 見ると、組織の構成員たちがそれぞれ自分の力で移動せんと工夫している光景がそこにはあった。ある人はポケモンを使って空を飛ぼうとしていたり、またある人は車を使って移動しようともしている。

 

「まぁ……この組織にも専用の車があるっちゃあるけど……」

 

 無事に到着できるかどうか心配そうに呟いたハヤテは、再び有り得ない色を放つ空を見つめた。

ただの自然現象であればいい。だが、それを説明できる者は居ない。同じタイミングに、バルバロッサも消えた。不気味な道具を持ち出して。

 

「よう、やっと来たな? ハヤテ」

 

 思案していたハヤテに前方から声を掛けたのは、逞しい肉体を曝け出している大男だった。ケンゾウだ。

 

「お前が来るまで待ってたぜー。そろそろ行こうや」

 

「僕が来るまで待ってたの? なんで? 先に行っててもよかったのに」

 

「いやぁそれだとちょっと……な。行き先よく分からねぇし」

 

「なんでよ。僕ちゃんと基地で全員向けに伝えたはずだよ? しかも何度も!」

 

 ややはっきりと強めに伝える。しかし、そういった主張の仕方に慣れがないようで、細めた目は小刻みに震えていた。

 

「すまんすまん! そうじゃねぇんだ。俺地元以外の地名とかよく分からんくて」

 

「だったらそれこそちゃんと聴いててよ! これはリーダーの命令でもあるんだよ!?」

 

 彼との付き合いは長い。こうだろうな、という予想がそのまま現実となったようでハヤテは額に手を当てた。半分呆れもしている。

 

「いい? 場所は神奈川県の丹沢(たんざわ)山地に連なる山々の一つ、大山。そこの山頂に神社があるんだけど、そこにいるらしいって話だよ」

 

「おっし、了解した! そこにリーダーも居るんだな?」

 

「リーダーも今は向かっている途中だと思うよ。着いたら連絡があるみたいだし」

 

 基地内には戦闘に向かない非戦闘員たちが待機、または避難している。つまり今外に居るのはこれから戦いに向かう者たちのみだが、そんな人の数も片手で数えられる程には減ってきた。既に大半が移動を開始している。

 

「はぁ……」

 

 ケンゾウはハヤテがため息を漏らしたのを見逃さなかった。

 

「不安なのか?」

 

「いや……。まぁ、不安っちゃ不安だけど……」

 

 ハヤテの曇った表情を見たケンゾウは、彼が何を思っていたのかそれを察する。

 

「まだ裏切りと決まった訳じゃねぇ」

 

「そうだけど……もしもそうなったら、って考えたらね……。また"あの時"のような戦いになるのかなぁって」

 

 ハヤテもケンゾウも、知っている。

 

 この組織は三年ほど前に大規模な裏切りが、反乱があった。彼ら二人は既にジェノサイドの身近な仲間として共に行動してはいたのだが、その時に経験した"昨日まで笑い合っていた人たち"との命のやり取りの非情さ、無情さ、無意味さを、まるで昨日起きたことであるかのようにその心に深く刻んでいる。つまりはトラウマなのだ。

 

「あの戦いは……本当に辛かった」

 

「仲間が半分以上消えたもんな」

 

「もしも今回も裏切りだったら……。裏切ったのはバルバロッサって事になるから僕はそこまでじゃないけど……リーダーはどう思うかな」

 

「……」

 

 戦いの前という強い覚悟を決めていなければならない局面に、どこかしんみりとする二人。このままではいけないと我に返ったハヤテは、突如自分の頬を両手で強く叩く。

 

「ダメだ、このままじゃダメだ! これから戦うかもしれないって時に……。それに、まだ何も分かっていないのに!」

 

「ハヤテお前……」

 

「行くよ、ケンゾウ! 準備はいい!?」

 

「お、おう! でも待ってくれ、移動用のポケモンが……」

 

 ケンゾウは慌てたようにポケットを引っくり返すが、相応しいポケモンのボールは出てこない。

それを見たハヤテは自身のモンスターボールを二つ取り出した。

 

「君は確かひこうタイプのポケモンを育てていなかったよね。僕のを貸してあげるから、それを使いなよ」

 

 そう言って二つの内一つのボールを彼に向かって投げ渡す。

 

「サンキュー。助かったぜ!」

 

 二人は同じタイミングでポケモンを出した。ハヤテはウォーグルを、ケンゾウはルチャブルを。

 

「……」

 

「どうしたの? 早く乗りなよ。遅れるよ」

 

 ルチャブルの姿を見てケンゾウは文字通り固まった。どう見ても背に乗って移動出来るようには見えない。ケンゾウは今にもウォーグルに乗ろうとしているハヤテに顔を向ける。

 

「あのー……。ハヤテきゅん……」

 

「その呼び方気持ち悪いからやめて」

 

「これさー……どうやって乗るん?」

 

 ハヤテとウォーグルは準備が出来たようだった。そのポケモンは、今にも翼を広げて飛ばんとしている。

 

「君はいつも筋トレをしていたよね?」

 

「それで?」

 

「今こそ、その鍛えられた筋肉の力を発揮する時だよ! レッツ四十五kmの限界チャレンジ!」

 

 言うとハヤテは大空へと去った。その場にケンゾウとルチャブルを残して。

 

「は? っておい! いくらなんでも長時間コイツに掴まって移動するのは無理があるってオーイ!」

 

 彼がどれほど叫んでも届く事は無い。その場にはケンゾウを除いて誰も居なかったからだ。

 

 

 凍えるかと思った。

ジェノサイドは、とにかくスピード重視のためとリザードンよりかは移動速度が速いオンバーンを選んだが、その空の旅は苦痛が伴った。

 

 今は九月の半ばである。空が眩しいほどに明るいせいで朝とも昼とも勘違いしてしまいそうだが、正確な時刻は夜を指している。さらに、大学のある街は山を切り崩して造られたニュータウンであり、微かに山の名残がある。目当ての土地の標高もかなり高い。ジェノサイドは大学の友人と共に、またはサークルのイベントとして、比較的近場である高尾山(たかおさん)に行く機会が割とある方なのだが、大山はその高尾山のおよそ倍の高さがある。軽い気持ちで臨むと大失敗をする事間違いないのだが、今まさにジェノサイドはその失敗を肌で感じていた。

 

 一時間経つか経たないかの時間を経過した後に、ジェノサイドは麓に辿り着く。

そこは駐車場だった。

 

 大山には、その中腹に大山阿夫利神社という神社があり、その参拝客を出迎えるためにケーブルカーが通っている。そのための駐車場だ。参拝時間はとうに過ぎているため、車は一台も停まっていない。

 

「ご苦労さま。寒い中ありがとな」

 

 寒さに震えているオンバーンにそう言うとボールに戻す。それからスマホを操作して"ポケモンボックス"なるアプリを立ち上げると、手元にあるオンバーンと別のポケモンを入れ替える。オンバーンはゲーム内に転送された。

 

 それから、ジェノサイドは手頃な車止めを見つけると全身から力を抜くようにするすると腰掛けた。バテたのはオンバーンだけでは無かったのだ。

 

「まだ……誰も来てねぇな。バルバロッサがこの先に居るとしたら、今から俺だけでも行ってもいいのだが……」

 

 それから数分すると、チラホラと上空から人の影が見えてきた。その影は地上にいる彼を見出すとゆっくりと下降してゆく。仲間が来始めた。

更に待っていると、馬力があるのを感じさせる排気音を響かせた自動車が何台か駐車場に入って来た。これも、彼の仲間だ。

 

 組織の構成員たちが、続々と集まってきた。その数は百とも二百ともありそうである。深部(ディープ)集団(サイド)の組織としてはかなりの規模を誇るものだ。

 

 その中から、ハヤテが駆け寄ってくる。

 

「只今到着しました、リーダー」

 

「ハヤテか。これでほとんど全員……かな」

 

「そうですね。あとは道路の混雑具合だとかで遅れる人が居るかもしれませんが……先に向かっても良さそうです」

 

「俺も同じ事を考えていた」

 

 ジェノサイドはぐるりと体の向きを変え、その目線を仲間たちから山頂へと向ける。

 

「此処には誰も居ない。居るとしたらこの先……かな」

 

 ハヤテは近くに置かれたハイキングコースが描かれた看板を見る。

 

「バルバロッサが居るとすると、途中の阿夫利神社でしょうか? それとも山頂でしょうか?」

 

「分かんねぇな。とにかく、向かうしかないな。一時間……人によっては二時間以上の登山になるかもしれない。覚悟しとけよ」

 

 自分で言っていて恐ろしくなった。ここに来るまでに体力を消費して疲労はピークに達しつつあるのに、これから登山、それも気軽なハイキングなどとは違ったレベルのものを体験しなくてはならないのかと思うと今すぐにでも帰りたくなってきた。

 

「リーダー、質問なのですが……ポケモンで一気に山頂まで行くのはダメでしょうか?」

 

「迎撃される可能性が無いと判断出来れば構わない。……が、何が起きるのかがまだ分からないな。まずは中腹の神社まで移動しようか。残念な事に目の前のケーブルカーはもう動いていないから自力でな」

 

 そう言うと、自身も含めてポケモンに飛び乗って一気に駆け上がる人の姿があった。

ハヤテは縮こまる思いをしてそれを見送る。

 

「たった今迎撃されるかもって言ったじゃん……。途中までだったらその可能性は無いってことかな?」

 

 見れば、律儀にこの地点から山登りをする人間は一人として居なかった。つまり、ここに集った全員がリスクを覚悟で飛んだことになる。

 

 

「ダメだ……此処には居ねぇな」

 

 麓から移動すること四、五分。一番乗りを果たしたジェノサイドは"阿夫利神社駅"とあるケーブルカーの駅を背に、大きな鳥居を眺めていた。だが、そこには人っ子一人存在していない。

 

「と、なるとやはり山頂……。クソっ、面倒な事をしやがる」

 

 ジェノサイドは元凶の顔を思い浮かべながら強く睨む。気のせいか、光の眩しさが一段と強くなっているように感じられた。

 

 彼に倣って、飛行能力のあるポケモンを使って神社までの登山を短縮させた仲間達が後ろに続く。やや遅れてハヤテもやって来た。

 

「どうします? ここまでは大丈夫でしたが……」

 

「そうだな……」

 

 ジェノサイドは登山道に続く道を捉え、引き続き睨んでいる。ハヤテはスマホを開いてこの山の登山について細かく紹介しているサイトを見ながら自信なさげに言った。

 

「山頂までの登山を二時間と仮定した場合、今のでおよそ一時間短縮した事になります。ここまでバルバロッサからの攻撃はありませんでした。今後も無いとは言い切れません。どうしますか? 登りますか? それとも山頂まで飛びますか?」

 

「登った場合一時間か……」

 

 空に異変が起きたとはいえ、この後もまた別の異変が生じる可能性も無い訳では無い。とにかく、今はバルバロッサに会って話をしなければ、状況を聞かねばならない。

 

「とりあえず登るか。様子を探りながら、な。いや、それなら各自自由とした方がいいか……?」

 

 ジェノサイドはチラリと振り返った。そこには、彼を慕って集まった無数の仲間達がいる。

目に付いた一人ひとりの顔を眺めては、決意を固めるがごとく呼吸を整える。そして、叫んだ。

 

「目指すは頂上! そこに居るバルバロッサだ! 移動手段はそれぞれに任せる。とにかく、確実且つ迅速な方法でバルバロッサに会い、話を聞け。いいな、お前ら!」

 

 その雄叫びに丁寧に反応する声が幾つか上がる。

全ての準備が、整った瞬間だ。

 

「それから、一つだけ命令だ。絶対に死ぬな。生きろ」

 

 そう言ったジェノサイドは我先にと、まるで後に続く仲間の為に道を開くかのように、あらゆる恐れも抱かず、そして一切の躊躇いもなく山頂に繋がる山道を駆け始めた。

 

 

 空に変化は無かった。

神東大学の校舎の中の教室のひとつ。そこの窓を開けて空を眺めた佐野(さの)宏太(こうた)は、ジェノサイド改め(なばり)の安否を案じていた。

 

「大丈夫かなぁ、レン君」

 

「レンから何か連絡はありましたか?」

 

 一人呟いていた佐野に、佐伯(さえき)慎司(しんじ)が珍しく声をかけてきた。

普段サークル内であっても、彼から会話を始めることが中々無いことなのでそれはそれで珍しいことだった。

 

「何も無いねぇ。何でもいいからくれると嬉しいんだけど」

 

 そう言って佐野は窓を閉めた。

 

 まだ、今ある現実が分からないでいたのは何も佐野だけではなかった。

サークルの中ではあまりパッとしなかったがそれなりの変わり者だった隠は、自分たちの知らない世界で、それも今あるこの世の闇を凝縮したような世界で生き残りを賭けた生活を長い間続けていた。更には、そんな世界の覇者ともなっている始末だ。

 

「レン君は……まともだと思っていた。どこか変わってはいたけどね」

 

「こっちもそう思っていました。……そういう世界がある"らしい"という都市伝説みたいなものは聞いたことがあったのですが、まさかそれが実在していたなんて……しかも、よりによってレンが……」

 

 隠と佐伯と佐野。三人には共通点があった。佐野が隠とポケモンを介して仲を深めたように、佐伯も佐野とはポケモンを通じて先輩と後輩という壁を感じさせないほどには良好な仲を築けている。

特に、佐伯のポケモンの腕は突出するものがあり、恐らくだがゲーム上としての対戦の腕はこのサークルでは最も上だと誰もが認識しているレベルだった。

ゲームではレート対戦に積極的に参加し、ガチなパーティとも渡り合え、その強さは先輩にも引けを取らない。

だが、現実で繰り広げるバトルを持ってして最強と名高い隠が居るため、彼とどちらが強いかは本人でさえもよく分かっていない。佐伯はルールに則った上での実体化した状態でのバトルはこれまでに経験した事がないからだ。

 

「僕はね、今でもレン君と初めて会った時の事を覚えているよ」

 

「去年のことですよね? そういえばレンをこのサークルに勧誘したのは誰だったんですか?」

 

「僕と淳二」

 

 二〇一三年、春。

この年に神東大学に入学した隠は、かなり早い段階で樋端(といばな)(かける)と仲が良くなったようで、入学式を済ませたその年一番初めの週、構内ではサークルの勧誘でどこもかしこも、あらゆる時間帯でも多くの人が練り歩く賑やかな光景であったそんな中、隠は樋端と一緒に居た。そこを、そのとき偶然勧誘活動に必死になって構内を回っていた佐野は篝山(かがりやま)と共に彼らに声を掛けたのだった。

 

「意外だったのは、僕たちのサークルに興味を示していたのはレン君よりも樋端君だったね。聞けば、樋端君も高校時代よく旅行だったりサイクリングをしていたらしい」

 

「レンは?」

 

「どちらかと言うと樋端君の付き添いみたいな感じだったね。あまり興味があるようには見えなかったけど、樋端君が行くならついて行くって感じだったね。それが今では、活動日には必ず来るようになるなんてね。何があったんだろうねぇ」

 

 サークルに顔を出し始めた時も、隠はどこか「関わらないでくれ」と言いたげなオーラを発しているようだった。それを察してかしらずか、彼はサークル内でも孤立気味となった。

そんなある時、佐野はサークル活動中であるにも関わらず一人でゲームをしている隠に気が付いた。他の一年は先輩たちとも打ち解けてボードゲームに盛り上がっている。

隠は、それに参加したがる素振りも見せない。

 

「その時だったかな。レン君がポケモンやっている事を知ったのは。話をしてみると、エメラルドの頃から遊んでいたんだってさ」

 

「エメラルド……懐かしいですね」

 

 それから、佐野は隠と仲良くなった。

あの時の彼の嬉しそうな顔は、今でも覚えている。

そういう明るく、楽しかった過去があったからこそ、今のこの現実が認められずにいる。この事実を受け止められない。

 

「もっともっと……レン君と話をしないと。話をして、互いに理解しないとだね」

 

「でも、レンは……無事に戻って来れるでしょうか」

 

 佐伯も不安を露わにして空を見つめる。

せめて今は無事でいて欲しい。時が経つにつれ、彼に対してそんな思いが強くなっていった。

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