【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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第2話

 

 東京都八王子市。都内の北西部に位置し、開拓前は山々が残っていたことを思わせる自然が微かに残る街。その中のとある林の中に、深部(ディープ)集団(サイド)の組織「ジェノサイド」の基地がある。

天然の迷路の中にぽつんと立っている、既に使われなくなった廃工場がそれだ。傍から見れば、放置された文字通りの廃墟で人っ子一人見える気配が無い。

その実態は地下。建物の真下には、およそ百人近くの構成員と、二十人ほどの非戦闘員と、一人の(リーダー)が生活するに十分な空間が造られているのだ。

 

 リーダーのジェノサイドは揺れる椅子に座りながら、小さなテーブルに置かれていた紅茶を手に取ってゆっくりと飲む。その目線の先には火が点いていない暖炉があった。ボイラーだか何だかを改造して作ったらしいというほぼ忘れかけている記憶が頭の中を駆け巡るが、結局思い出すことは出来ない。

 

「あっ、リーダー。ここに居たんですね」

 

「ハヤテか……」

 

 ジェノサイドは部屋に入ってきた男を見た。先程共に行動していた、背が低い方の男だ。髪型は相変わらずボサボサで、そこは出会った頃と何ら変わりは無い。

 

「先程はお疲れ様でした」

 

「まぁ全然疲れてねぇけどな」

 

「部屋をノックしたのですが、反応が無かったのでこちらに来たのですが……結構の頻度で来ますよね、この部屋」

 

 ジェノサイドは返事をしなかった。それは肯定するほど正しい事でもなければ、否定するほど間違っている事でもないからだ。

 

「暖炉がお好き……とか? それなら今度ケンゾウと一緒にお部屋まで行って取り付けましょうか?」

 

「そこまですることじゃねぇよ。この部屋にあるからこそ特別なんじゃねぇのか。それに、この部屋だけ雰囲気が違う。それがまた良い」

 

 言われてハヤテは改めて今いる部屋を眺め回した。

 木目調の壁紙、異国風の絨毯、ほの暗い照明、自分の背よりも高い本棚、そして暖炉。

まるで、昔の時代を扱う洋画の一幕に出てきそうな雰囲気だ。ここだけレイアウトの本気度が明らかに違う。

 

「確かにお洒落ですよね。アンティークっぽいと言うかビンテージ的というか……リーダーの趣味ですか?」

 

「この部屋を作ったのは俺じゃないが、まぁ俺も気に入ってるってところかな」

 

 扉には談話室と札が掛けられている。要は、誰でも好きな時に利用していいフリーの空間だ。

 

「今後はどうしますか? しばらくは今日のように不正利用者を片っ端から取り締まります?」

 

「どうだろうな。最近は他の組織から名指しされて宣戦布告もされないし、かと言って一人のために時間を使って調査して待ち伏せして叩き潰すのも効率悪いしな。いいんじゃないか? 暫く休んでいても。それだけの蓄えは十分にある」

 

「宣戦布告……ですか」

 

 ハヤテはなかなか紅茶に手をつけないジェノサイドを眺めながら呟く。はじめに声を掛けた時、まるで熱すぎて引っ込めたような仕草をしていたので、恐らく少し冷めるのを待っているのだろう。

 

 四年前。ポケモンが世に出て世界が変わった時、同時に悪の心に染まる人間も増えていった。

ポケモンを使った不法行為が急増した結果、裏で国が動いたのだ。

 

 ポケモンを使う自警団のような存在を半ばに容認。その結果が。

 

深部(ディープ)集団(サイド)……ですね」

 

「そうだ。俺たちは暗部(ダークサイド)の連中を根絶やしにする為に生まれた。ポケモンを使って悪事を働く人間に対しては如何なる手を使っても良い存在としてな」

 

暗部(ダークサイド)は消滅したんですよね?」

 

「あぁ、一応その一年後にはな。今も居るっぽいが元々が個々の半グレ集団みたいな奴らだ。あの時と比べたら徹底されているから恐れるほどではない。問題はその後だ」

 

 深部(ディープ)集団(サイド)は自然発生的に生まれたものではない。一つの大きな組織の管理下に置かれた形で各々下部組織を名乗ってそれぞれ活動している。その下部組織の一つが彼ら「ジェノサイド」だ。

 

 結社。正式な名称を"携帯獣保護協会"。

政府に半分容認されている、得体の知れない巨大な組織。そこの完全なる管理下に置かれた、無数の深部(ディープ)集団(サイド)と呼ばれた人々、組織がある。

 

「結社に管理された俺らは当然ながら奴らの援助を受けて行動している。それも当然、暗部(ダークサイド)の殲滅のためだ。だが、それは予想以上に早く終わってしまった。ある意味当初の目論見が外れた訳だよな。だが、だからと言って簡単に深部(ディープ)集団(サイド)は消えない。ゆえに、結社は援助を勝手に打ち切ることは出来ない。そうしている内に、新たな問題が生まれた」

 

深部(ディープ)集団(サイド)の人間が、その力を振りかざすようになったんですよね?」

 

「その通り」

 

 ジェノサイドは紅茶に口をつける。望んだ通りの温かさになったようで、当初ティーカップに放っていた鋭い目つきは穏やかなものになってゆく。

 

「それを結社は見逃さなかった。暗部(ダークサイド)に取って変わってしまった一部の深部(ディープ)集団(サイド)を面白おかしく喧伝するようになって、奴らへの駆除を命じるようになった。それが悪い意味で発展して、深部(ディープ)集団(サイド)同士の抗争を奨励するようになったんだ」

 

 組織間抗争。ジェノサイド含め深部(ディープ)集団(サイド)の主な活動はそれに半分強制的に切り替えられた。それまで数多く存在していた組織は上の存在の勝手な都合によって大きく数を減らしていったのだ。

 

「このような抗争で失われた命も相当なものだろう。だが、結社は決して辞める事はしない。表向きには存在すらも認めていないが実際は半ば認めている国も決して動かない。何故だか分かるか?」

 

「お金……でしょうか」

 

「正解」

 

 ハヤテが遠慮気味に答えるとジェノサイドは感情の籠っていない返事と共に指を二本立てる。

 

「理由の一つは金だ。変な話、結社そのものの活動も、俺たち深部(ディープ)集団(サイド)の活動にも金がかかる。実際俺らはこの世界で金を得て生活している訳だしな。一つの深部(ディープ)集団(サイド)に掛かる金も中々なものだ。それが一つでも減ってしまえば結社としても良いもんだろう。組織間抗争の結果相手組織を滅ぼせば賞金が出るのもそのためだ。まぁその内の四割は結社に持ってかれるけどな。更に俺ら深部(ディープ)集団(サイド)は月に一度結社に金を払わなきゃいけない決まりになっている。それは組織の規模によって変わるのだが……極端な話、俺らの資金源は組織設立時に初めて貰える支援金と、組織間抗争によって手に出来る賞金のみって訳だ。だから抗争は無くならない」

 

「酷い世界ですね……。それで、もうひとつは?」

 

「もう一つの理由は単純に俺らが結社から生まれた存在って訳だ。抗争が酷いから、深部(ディープ)集団(サイド)も結社の存在もそのシステム自体全部無くしましょうってなった場合、どうなると思う? 組織が消えてもポケモンの力や脅威は消えない。そうする事で生まれる騒乱をそもそも生み出さないために、俺たちは管理下に置かれてしまっているんだ。結社は、俺たちを自縄自縛(じじょうじばく)させる為にも、深部(ディープ)集団(サイド)は無くさない。だから、抗争も消えない。まぁ、奴らからすれば利権の塊であるこの世界このシステムをみすみす手放すとは考えられないがな」

 

「本当に……嫌な世界ですね……」

 

「そんな嫌な世界の頂点に立つのが俺らだって事を忘れんなよ」

 

 深部(ディープ)集団(サイド)世界最強の組織、ジェノサイド。

それは即ち、この世界に変貌した四年間もの間敗北を知らず、数える行為そのものが無意味だと思えてしまうほどの数の戦いを経て生き残った、正に猛者の集いなのである。

 

 

「なぁなぁ、"ジェノサイド"って知ってる?」

 

 眩しく見えるほどの青空の下で、他愛もない会話をしていたはずの友人が突然物騒な単語を放ってくる。

聞き間違いかもしれないので、もう一度尋ねた。

 

「だから、"ジェノサイド"って知ってるか? って」

 

「大量殺戮のことか? それとも別の意味?」

 

「別のほう!」

 

「あー……」

 

 気だるげに空を眺めた一人の大学生、(なばり) 洋平(ようへい)は悩んだ。

 

「日本にある、ポケモンを使ったテロ組織……だっけか?」

 

「そう! それそれ! 物騒だよなぁ。今の日本に昭和時代にありそうなテロ組織があるなんてな」

 

「昭和にポケモンはねぇけどな……」

 

 隠はその友人、樋端(といばな) (かける)と共に自分たちが在籍している大学の構内を歩いていた。

時刻を見ると今は十七時を過ぎていた。

二人にとって今は講義の空きコマである。こういう時二人は大学内の何処かで合流しては敷地内にあるコンビニでお菓子や軽食を買い、十八時から始まるサークル活動に赴く。今日は丁度そのサークル活動がある日である。これが無ければ樋端はさっさと帰っていたことだろう。彼はそういう性格なのだ。

 

「ポケモンを使って夜中に出没するらしいな」

 

「あぁ」

 

「俺もレンもポケモンやってるからその気になれば使う事も……出来るんだよなぁ? 実際たまに実体化させて遊んでるもんな俺たち」

 

「だからって一緒にして語るなよ?」

 

「しねぇよそんな事! それよりも、いつか狙われるんじゃねぇかって思うと少し不安でさ」

 

「何でだ? 狙われるようなことしなきゃいいんじゃないのか」

 

 二人は買い物を済ませると、目的の教室に向かう。

サークル活動はまだであるが、二人のように暇している他のサークルメンバーも他には居る。そのため、あらかじめ教室へ向かい、彼らと雑談したり好きな事をするのがいつものルーティンのようなものなのだ。

 

 隠は平気でスルーしたが、"レン"というのは彼のあだ名だった。名前とは一切の関係も捻りも無いのだが、一応理由が存在するのでそう呼ばれている。むしろ、本人がそのように呼べとまで言う程だ。

 

 案の定教室は開いていた。明かりも点いている。見ると、数名の先輩と同学年のメンバーが居る。

 

「おっ、レンと樋端じゃーん」

 

「よう、御巫(かんなぎ)

 

「こんちはっす先輩」

 

 御巫(かんなぎ) 美咲(みさき)。隠や樋端と同じ学年の女子生徒だ。彼女の反応をきっかけに、数名の先輩がそちらを見る。

 

「やぁ、こんにちは。二人とも」

 

 御巫に続いて声をかけたのは今年で大学四年生となる、このサークルで副会長を務めている佐野(さの) 宏太(こうた)だ。人の顔を忘れやすい隠も、彼の愛想の良く優しい声色は記憶に強く印象付けられる。そのお陰か、先輩の中でまずはじめに覚えられたのは彼だった。また、よく見るとその傍らにはゲーム機がある。

 

「好きっすね先輩」

 

「うん? そりゃ楽しいからね」

 

 言いながら樋端は佐野の前の席に座る。席は決まったものでは無いので好きな所に座っていいことになっている。

そのやり取りを見ながら、隠は佐野の隣に座り、鞄から3DSを取り出した。

 

「おっ、今日も持ってきたねレン君」

 

「えぇ。今日もやりましょうよ。対戦!」

 

「ここ、ポケモンのサークルだったっけ?」

 

 ポケモンをしない人間の御巫は二人を見て苦笑いしながら若干呆れた。

 

「いつもの光景じゃん。まぁいいでしょ。俺らも旅行サークル名乗ってるけど実際旅行するのは夏休みか冬休みだけだし」

 

「それはそうだけど、土曜の日程決めどうするのよー……。下手したら決まらないよー?」

 

「そんなの皆が集まってからでいいだろ。俺らだけで決めてもしょうがないって」

 

 樋端と御巫は言いながら、誰かが用意したお菓子を食べる。

 

 これが、日常だった。

 

 時が経つにつれ、見知った顔がぽつぽつと現れるも、彼らは自由気ままに振る舞い、各々が好きな事をして好きなように時間を過ごす。

サークルと言えどあまりにも自由度が高すぎてまとまりが皆無だ。

だが、これが普段の光景、普段の姿なのだ。

 

 そんな彼らはポケモンサークルの集まりではない。

纏まった休みに合宿やお出かけを楽しむ旅行サークル「Traveling!!!!」の集まりである。

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